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負債勇者。 ~最強のスキルを質に入れた俺が最凶の化け物になるまで~  作者: 結城 からく


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14/39

決着

 濛々と舞い上がる土煙。

 崩れ去った廃塔の跡には、灰色の瓦礫の山が出来上がっていた。

 もはや原形など欠片も保たれていない。


 がらり、と瓦礫が一角が揺れ動く。

 緩慢な動きで這い出てきたのは、傷だらけの翼竜だった。

 千切れかけた前肢に、醜く潰れた片目。

 落下の衝撃が祟ったのか、損傷が酷くなっている。

 出血が不自然に少ないのは、もはや流す血液も残っていないのだろう。


 翼竜はふらついた足取りで瓦礫の山を離れる。

 心なしか急いているようにも見えた。

 そう、逃げていた。

 重症を負った翼竜は、命惜しさに逃亡することを選んだのである。

 通常ならばあり得ないことだろう。

 この世界において竜種を脅かす存在など滅多にいない。

 単身で撃退まで追い込んだとすれば、それは列記とした怪物だ。

 言ってしまえば、竜種よりも性質が悪い。


 いくら下級と言っても、翼竜の力は常軌を逸して強大だ。

 勇み足で挑んだところで大損害を被るのが関の山。

 得る物より失う物が多すぎて採算が合わず、故に忌避されるのであった。


 本来ならよほどツキに見放されない限り、絶対強者でいられる存在。

 そんな翼竜が今、誇りを捨てて無様に敗走を決め込んでいた。

 一歩ずつ体力を削りながら、それでも懸命に進む。

 飛膜がぼろぼろで飛行能力を失ったので地を這うしかなかった。

 ともすれば倒れそうになるのを、気力を伴う踏ん張りで阻止する。

 後肢にかかった負荷が筋肉断裂という結果をもたらす。

 悲痛そうに呻きながら翼竜はそれでも前進した。



 ――ずっ……ずずっ……がたん。



 翼竜の背後で物音がした。

 ちょうど、瓦礫が擦れて転がり落ちたような音だ。

 びくりと翼竜の肩が震える。

 胸中に覚えたのは恐怖か驚愕か。

 あるいは両方かもしれない。

 翼竜は本当にゆっくりと、背後を振り返った。


 乱雑に積み上がった瓦礫の山。

 その頂上に、佐久間が立っていた。

 少し遅れて瓦礫から脱出したところなのだろう。

 彼の右手は赤黒いモノを持ち、それを口に運んでいる。

 狼の魔物の臓物だ。

 佐久間は瓦礫の中から見つけたそれを、ぶしょりぶしょりと咀嚼しているのである。


 空いた左手は、縦二メートル横一メートル半ほどの黒い鉄扉を掴んでいた。

 元は廃塔の入口だった代物である。

 どうやら佐久間はそれを新たな武器として採用したらしい。

 瓦礫の山を降りた佐久間は、真っ赤に染まった口で言う。


「おいおい、どこへ行くんだ。まだ戦いは終わっていないじゃないか」


 爛々とした目が怯える翼竜を射抜く。

 もはや勝負は決したも同然だが、負債勇者は妥協しない。

 彼は高笑いを響かせながら翼竜に躍りかかった。


 翼竜が体勢を低くし、長い尻尾を振るう。

 苦し紛れにしては鋭い軌道だ。

 人間程度なら容易に弾き飛ばせそうな勢いである。


 それに対し、佐久間は真っ向から立ち向かった。

 思い切り振り被った鉄扉を、ただただ力任せに叩き付ける。

 凄まじい衝突音。

 翼竜の尻尾の先端があり得ない角度に折れ、裂けた肉が血を噴出した。


「ハハッ! それでもドラゴンかよッ」


 臓物を捨てた佐久間は、尻尾を引っ張って振り回す。

 翼竜の身体が浮かび、次の瞬間には仰向けで地面に激突した。

 一体、どれだけの膂力があれば可能な荒業なのか。

 佐久間は無抵抗の翼竜の顔面に跳び乗ると、満面の笑みで鉄扉を掲げる。

 瞳の中で渦巻く狂気は、偉大なる竜種の尊厳を全否定していた。

 そして、鉄扉が打ち付けられる。


 肉が潰れ骨の砕ける音がした。

 翼竜の眉間が陥没する。

 佐久間は遠慮せずに二撃目を放った。

 鉄扉の角が残った片目に潜り込んで眼球を破壊する。

 さらに三発目。

 翼竜の額が裂けた。

 続けて四発目。

 翼竜の牙が折れる。

 鼻歌混じりに五発目。

 翼竜の顎が割れた。

 陽気に笑って六発目。

 翼竜がガクガクと痙攣し始める。


 執拗に繰り返される殴打。

 どれも致命的な破壊力を孕み、徹底して翼竜の命を削いだ。

 佐久間は嬉々として鉄扉を叩き付けまくる。

 心身共に疲弊し切った翼竜に抗う術はなかった。


 こうして怪物同士の殺し合いは、負債勇者の一方的な蹂躙でフィナーレを迎える。

 非道極まりない攻撃は、鉄扉が翼竜の脳を磨り潰した時点でようやく終了した。

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