視線で怪我をすることはありますか?
「ジルとゾル?
こんな所で何してんの?」
後ろから聞こえた声に振り返ると志摩がいた。
志摩って、何と言うか、見かけ通りの少年みたいな声してんのな。
馬車の中で1言も喋らなかったから分からなかったわ。
「うわぁ、シマさま!!」
「シマさま!!」
志摩にびっくりした2人はモゴモゴと声が小さくなってしまった。
「何?
早く言って。」
「な、なあ、志摩。
ここからクロードさんに連絡するのはどうしたらいいんだ?」
志摩の冷たい視線で完全に口を閉じてしまった2人の代わりに尋ねた。
「は?
何、あんたもう何かやらかしたの?
てか、名前呼び捨てすんの止めてよ。」
うわぁ。
なんとまあ、刺々しい。
コミュ力ゼロの俺でもきちんと敵意を感じれるよ………。
「………まあ、そんなとこかな。
それをこの2人が教えに来てくれたんだけど、クロードさんに連絡する方法が分かんなくて。」
い、痛い!!
志摩の視線が突き刺さって痛い!!
「まったく、勘弁してよね。
魔法で連絡とれるけど、3分だけだから。
俺、疲れるの嫌だし。」
そう言ってクルリと背を向けた志摩は空中に何かを描き始めた。
志摩の描いているものが繋がり円になると眩しいくらいに光り、次に目を開けた時には鏡のようなものにクロードさんが映っていた。
『悠仁くん、随分と早かったね。
何かあったのかい?』
………ですね。
連絡するの、なんでも早すぎますよね。
「あの……俺を拉致ったブラウニーの2人に昨日の夜、一緒に来てほしいって頼んでたのを今朝言い忘れてて………。
2人は律儀に付いてきてくれています。
勝手な真似をして、すいません………。」
『…………分かった。
いっぱいコキ使ってやってくれ。
何かあってもなくても君からの連絡を待ってるよ。』
そう言ってクロードさんが映っていた鏡みたいなのは消えた。
分かってくれた!!
絶対嘘だってバレてたけど、分かってくれたから良しとしよう。
「だってさ。
改めて、これからよろしくな!!」
2人を見て言うと、2人は泣きながら抱きついてきた。
「「ずっとお供いたしますーー!!」」
少し感動的な場面に冷めた目を向けるのが1人。
まあ、言わなくても分かるよね。
もちろん志摩。
「今の何?
僕達だけじゃ頼りないとか思ったの?人間のくせに?
で?同行を頼んだ相手が、よりによってブラウニー?
なめてんの?」
…………相当お怒りのようで。
可愛らしい顔してんのにその表情はダメだよ!!
清純派アイドルの裏の顔見ちゃった………みたいな破壊力があるよ!!
「俺は、ソユや志摩を頼りないって思ってブラウニー達に一緒に来るよう頼んだんじゃないよ。」
そもそも頼んですらいないんですけどね。
「ただ、クロードさんにお前らがどんな奴か聞くの忘れてたし、俺コミュニケーション能力無いからさ、俺がちゃんとやれるか不安だったんだ。」
これはホント。
「…………まぁ、どうでもいいけど。
僕達は君主様に言われたことをやるだけだから。」
そう言って志摩は踵を返した。
おい、俺のちょっとイイ感じの告白返せよ………。
志摩がどこかへ行ってしまった後、俺はジルとゾルを連れて街を散策することにした。
オッズの街は大きくて立派な店舗が連なる区画といろんな露店が並ぶ区画とに分かれていた。
店舗が並ぶ区画は綺麗だか敷居が高そうな印象をもたせ、露店が並ぶ区画は親しみやすいが作りが全体的に雑だ。
俺達は露店が並ぶ区画を歩くことにした。
高級そうな所は俺もブラウニー達も似合わないからなぁ。
夕方だというのに、露店が並ぶ区画は活気に溢れていた。
「よう、兄さん!
こいつはさっき運ばれて来た新鮮ピチピチだよ!」
ブラブラと歩いていた俺に魚顔の露店の主人が声をかけてきた。
主人が持っていたのは、毛むくじゃらの塊。
「それは何?」
「あんた、ヨグルを知らないのか?
よっぽど海沿いの出身だったんだな。」
その顔に言われたかねぇよ!
そんなツッコミが漏れそうになるのを頑張って堪え、苦笑いでやり過ごす。
「まあ、いいや。
こいつはヨグルって言って、山の奴らにとっては馴染みがある食材だ。
鍋にはなきゃいけない存在だな。」
鍋か・・・。
懐かしい料理の名前が出てきて、毛むくじゃらに親近感が湧く。
無意識に買った!と言いたくなるが、ここは我慢、我慢。
「ヨグルはまた今度にするよ。
因みに、いっぱい買えて日持ちしそうなやつってある?」
そう主人に尋ねて、主人が出してきた物を買った。
「よし。
これで準備は万端だな。」
「ユージンさま、そんなにいっぱい、どうするんですか?」
不思議そうにしているジルにニヤリと笑ってみせた。