神の食べ物は魔界でも同じですか?
クロードヴィスさんの私室はすごく広いんだろうけど床の半分が本の山で埋まっている、そんな感じだった。
横目で本の背表紙を見ると………読めない。
え、これ言葉?
ニュースとかでたまに見るアラブ地方の文字よりひどいぞ。
「そこのソファに座ってくれるかい?」
「あ、はい。」
クロードヴィスさんに勧められた部屋の真ん中にあるソファの1人掛けの方に座った。
「あの、クロードヴィスさん、」
「いやだなぁ、悠仁くん。
気軽にクロードと呼んでくれ。」
…………いや、魔王を愛称で呼べるほど俺度胸ないっす。
そう言おうとしたけど結局諦めた。
だってクロードヴィスさんの笑顔が超こわい!!
最初よりラスボス感出てる!!
「く、クロードさん………。」
「何だい?」
一気にキラキラした笑みに変わるクロードさんを見て、溜め息が出そうになったのは許してほしい。
「あの、要件って何ですか?」
「ああ。要件というのはね、悠仁くん、君にこの魔界でチョコレートを作ってもらいたいんだ。」
「え?」
チョコレート?
「チョコレートってあの茶色いお菓子ですか?」
「そうだよ。
人間界のと全く変わらない。」
…………………何で?
「実はチョコレートは私達魔物の間で万能薬の役割を果たすんだ。
魔力の補充、怪我や病気の回復………あればこれほど役に立つ食料はない。
ただ、チョコレートは魔界ではすごく貴重な物でね、なかなか多くの魔物に行き渡らないんだ。
たまたまカカオ豆が手に入った時に豆からの生産を考えてはみたんだが、全部枯れてしまった。」
そこまで言ってクロードさんは立ち上がり、窓際の木箱を手に取った。
「魔界に残っているのはあと20粒………。
無駄には出来ないと、人間を呼ぶことにしたんだ。
チョコレートの知識がある人間をね。
それが悠仁くん、君だ。」
クロードさんのどっしりとした視線と交じる。
「あの、でも俺………。
農業とか分かんないんですけど…………。」
さっきの話から気になっていたこと。
俺、カカオ豆どころか、小学生の頃のアサガオですらまともに咲かせたことないんだけど…………。
「知識なら図書館に行けば得られる。
当時集めた書物がたくさん眠っているからな。
どうだろうか?」
「いや、どうだろうかって言われても………。」
そう言って少し考える。
俺は人間界に戻っても1人だ。
あの店ももうない。
なら、自分を必要としてくれる人?魔物?の役に立てるように頑張るのもいいんじゃないか?
それに俺はチョコレートへの熱意なら誰にも劣らない自信がある。
やってみようか。
結局俺は自分の存在意義みたいなものを持ちたかっただけというのが本音かもしれない。
でもそれで誰かの役に立てるなら万々歳じゃないか。
「やってみたいです!!
…………自信はないけど。」
最後が弱々しくなってしまった俺を見て、クロードさんは優しく笑った。
「1人で気負う必要はない。
君には従者を2人つけようと思っている。
もちろん私も出来る限り協力をする。」
その言葉で、俺は少し泣きそうになってしまった。
「っ……はい!!」