魔王が超紳士的だとRPGは成り立ちますか?
女の子に勧められた席に着いて5分くらい経った。
向かいには満面の笑みを浮かべた女の子。
何が面白いのか分からないけど、俺の顔から目を離さず、ニコニコしている。
いたたまれなくなって何か話そうと口を開いたと同時にさっき俺が入ってきたドアが開いた。
入ってきたのは異様な美形集団。
ラスボス感ハンパないけど、すっげぇダンディーなおっさん。
フッサフサした尻尾が9本と耳のついた女の人。
背中に悪魔の羽が付いていて、フワフワ浮いてる女の人。
そして最後に地下牢のイケボウシ頭だった。
「待たせてしまい、すまなかった。
私がこの館の主、クロードヴィス・アンノールだ。」
おっさん、もといクロードヴィスさんの声は威厳に満ちていて、自然と俺の背筋も伸びる。
彼は他の4人も紹介してくれた。
9本の尻尾の女の人は妻で妖孤の紫音さん。
イケボウシ頭は長男でミノタウロスのルフ。
フワフワ浮いてたのは長女でサキュバスのエウレミヤ。
出会ってから今まで俺から目を逸らさない女の子は次女でウィンディーネのノア。
「あれ?おっさ………クロードヴィスさんは何の種なんですか?」
おっさんと言いそうになったのを急いで言い換えて尋ねた。
「私は、恐らく君達人間が呼ぶ"魔王"というところかな。
魔界には何人か、私みたいな何の種にも属さないのがいてね、何とも言いようがないんだ。」
ラ、ラスボスまじで出た………。
しかもサラッと"魔界"って言ったよな?
いや、ルフやノアを見た時点で気付いてはいたけども!!
あと、なんとなくクロードヴィスさんの口調が最初と違うような………。
「あなた、口調が元に戻ってますよ。」
紫音さんの言葉に、クロードヴィスさんが気まずそうな顔をした。
やっぱ変わってたんだ。
「堅苦しい口調は疲れる。
このままでも構わないかな?」
「あ、はい。」
クロードヴィスさんの口調や態度からは優しさが感じられるのに、最初に感じた威厳が無くなったわけじゃない。
俺の返事を聞くと、ありがとうと笑った。
「君の名前を聞いても?」
「あ!すいません!!
甲斐 悠仁と言います。」
ペコッと頭を下げる。
「悠仁君。
さっきは家の者がすまなかったね。」
家の者………?
「あなたを魔界に連れてきたブラウニーは私たちの家来なのです。
穏便に連れて来るよう言ってあったのですが………。」
あ、あれってブラウニーだったんだ。
今朝の100歩譲っても"穏便に"とは言えないお出迎えを思い出す。
普通に歩いていた時、身体が宙に浮いた感覚がした。
下を見ると、俺の周りの道路だけポッカリと穴が開いていて、それだけでも驚いてんのに、その穴の中から4本の腕が伸びてきた。
それからこう、グッと引っ張られるようにこっちに来たんだけど…………マジでホラーだった。
「ビックリはしましたけど………もしあの場で普通に出てこられたらそれこそパニックになって話なんて聞ける状況じゃなかったと思うんで。」
たどたどしく言うと、全員の顔がほぐれた。
「それはよかった。
実は乱暴に連れ去ってきた者の主が私達と聞いてしまったらどうなるかと心配していたんだ。」
魔王でもそんなこと心配するんだ………
その後、2、3言話すと食事になった。
給仕が持ってきた料理は人間界で食べる料理ととても似ていて、朝から何も入っていなかった俺の腹がびっくりする程デカい音を立てた。
周りの皆が1瞬目を見開いて、誰からともなく笑だした。
「悠仁くんの腹の虫は温かい食事をご所望らしい。
では、乾杯。」
クロードヴィスさんの音頭で晩餐が始まる。
腹が減って仕方なかった俺は目の前の旨そうな料理にがっついた。
テレビの高級食材特集みたいなのでよく目にするフカヒレのスープに似た食べ物。
1口飲んでみると、スープがスルッと喉を通るような感覚がした。
「っ〜〜〜〜旨い!!
これ何ですか?」
「ドルドンのスープでございます。」
「ドルドン?」
「魔界では食べられている生き物です。
人間界で言うと………カエルという動物に似ていると聞いています。」
給仕の女の人に続いて答えたノアの言葉にむせた。
「エホッ!!
カ、カエル!?
俺今カエル食ったのか!?
てか、カエルってこんな旨いのか!?」
「私もカエルと言う生き物は口にしたことがないので何とも言えませんが、ドルドンが美味しいので、それに似ているカエルも美味しいと思いますよ。」
むせながら喋る俺にノアは丁寧に反応してくれた。
でも、何かズレてる。
旨い物に似てる物は大抵旨いって、ゲテモノ作る奴が言いそうな事だな。
やっぱりノアって………。
「悠仁の想像通り、ノアは少し天然なんだ。」
俺が周りに視線を投げかけていると、それに気付いたルフが答えた。
………やっぱりな。
晩餐のメニューはドルドン尽くしだった。
ドルドンの正体がカエルの仲間っていうのを聞いてすぐは少し抵抗が出てきたけど、さっき食べたスープの旨さと空腹なのを思い出して、つい口に運んでしまう。
スープがあっさりしていたからドルドンの味もあっさりしているのかと思えば、メインで出てきたドルドンのステーキはすごくジューシーだった。
全員が最後まで食べ終わったところで晩餐会はお開きになり、俺はクロードヴィスさんの私室に招かれた。