Bluetooth|(物理)
……迂闊だった。
深夜1時、俺はコンビニのゴミ箱を前に、ただただそう思った。疲れてると何をしでかすか、本当に分かったもんじゃねぇな。
今の状態を整理しよう。
『クリスマスのときと同じようにだいぶ疲れていた俺は、なんとコンビニのゴミ箱にゴミの代わりにケータイを放り込んだのであった……』
文章に直してみるとなるほど、情けないな。
さて、とりあえずは、ケータイの救出を試みるとしよう。キョロキョロと周りを確認する。誰かに見られたらゴミ箱あさってる不審者だと思われるからな! ……いや、まぁゴミ箱をあさっているっていうのは事実ではあるんだけども。幸い今は深夜。人目には付きそうもなかった。まぁ、深夜だけにもし見つかった場合の不振度は格段に跳ね上がるけれども。
「……このままずっと人通りが少ないとも限らんしな、とっととケリをつけるか……!」
俺は意を決して、ゴミ箱に手を突っ込んだ。
「……うわ、なんか冷たい……ッ」
何やら濡れたビニール袋に接触した。何となくぬめっとした感覚がある。
あんかけだろうか……気持ちわりぃ。
(だが! こんなことでひるんでられっかよ!!)
俺は構わず手を奥へと伸ばす。すると……
「……この感触は……」
指先にプラスチックのようなものがふれた。その材質は俺のケータイのケースに酷似していた。よし!
「これだぁぁぁぁっ!!」
俺は勢いよくソイツをつかむと、すぐに引っぱり上げる。
なんだ、結構簡単に救出できたじゃないか。俺がそう安堵した瞬間だった。
「びゃぁっ!!」
もう少しで手を引き抜けそうだったその瞬間、俺の手を再びあのぬめっとした感覚が襲った。
「あっ!」
その瞬間、反射的に俺の手は開かれ、ケータイ(仮)を取りこぼした。
――――ガタン
ほんの数瞬の後、俺はケータイ(仮)がゴミ箱の底についてしまった音を耳にした。
「……下手に手を出したせいで、ケータイが最下層に到達してしまった」
絶望感に襲われる俺。しかし、そんな俺に追い打ちをかけるように、事態はさらに急変していく。
――――♪~♪~
ゴミ箱の中から流れてくる軽快な音楽。どうやらゴミ箱に落ちた時にマナーモードが解除されたらしい。某深夜アニメの主題歌だ。
いい曲だとは思うが、こんなところで大音量で流されたんじゃたまったもんじゃねぇ! 超好きだけど、今この瞬間はふざけんなよと思わずにはいられなかった。
『らぶらぶぴょんぴょん♪』じゃねぇぇぇ!!
「とまれぇぇぇぇ!!」
思わずゴミ箱をガタガタと揺らす俺。もう完全に不審者です本当にありがとうございました。が、幸いなことに目撃者はおらず、俺の願いが通じたのか、着信音は止まった。ふぅ、助かった……。
「……し……い……だ……」
しかし安堵したのも束の間、ゴミ箱から何やら聞こえてくる。
「……おーい、まつだ―」
俺を呼ぶ声だ。ケータイから神城の声が流れてきていた。どうやらゴミ箱をゆすった時に通話状態になってしまったようだ。しかも、どうやらスピーカーでの音声出力に切り替わっているらしい。勘弁してくれ。
「聞こえてんのかー? まぁいいや、聞こえなくても話すぞ~! いえーい!!」
なんだそのテンション!? ふざけんな!! とりあえず無視だ。今はコイツの話に付き合ってられん! とりあえずケータイの救出方法を……
「お前から借りた『ラブサバイブ!特別編』超おもしれーな! 特に、あれ、主人公が敵の召喚する車をよけながら軽快なステップで歌うところ! すげーよな。あの歌もいいし!」
「お、さすがだな神城、そのシーンに食いつくとは! 実はあのシーンは原作の……あ」
思わず話に飛びついてしまった。オタクたる俺の悲しい性が、こんなところで発揮されてしまった。『ラブサバイブ!』の話が出て来たからつい……。
完全に、ゴミ箱に話しかける不審者である。あわてて言葉を止めた俺だったが、すでに遅かった。
「……あの、お客様……」
俺の背後には、不審そうに声をかけてくる店員の姿。
「あーー、そのーー……」
言葉を詰まらせる俺。
「わーお、わーお、いぇいいぇいぇい!」
神城は、上機嫌に主題歌を歌い始めていた……。