沈黙、シーンと
一目惚れをしたのが三門くんだと自覚したのはいいけれど、これは「love」なのかと自分を問いただした。ただ横顔が好きってだけなのは失礼だし、そもそも彼のことをよく知らないし。
それからテストまで2回授業があったけれど、2回とも三門くんと長谷川くんは私の近くに座った。三門くんは私の隣に座る。これじゃあ横顔を自然に見れないなと無意識のうちに思っていることに気づいた。彼は問題集を忘れてこなかったもののわからない問題があると私に聞いてきた。私も分からない時は2人で悩んだりもした。その時にほんの少し話をしたりもした。といっても、天気の話とか体育の授業の話とか、ほんの世間話なのだけど。
今日はテスト前最後ということで今までのまとめをしよう、と少し難しい問題を解かされていた。シャーペンの動きが止まっている人が多いように感じる。私もその中の一人だ。
「……じゃあ第6問を3人で協力して解いてもらおうか。えーっとさっきは土井まで当てたから次は長谷川と三門か。あともう一人は……」
ここまで言って先生は教室を見回した。その時に目が合う。やばい。
「よし。浅沼が3人目な。話し合ってでもいいから解いてくれよ。じゃあ次の第7問は……」
先生が次の人を指名している間に急いで問題集の第6問を確認する。できる人にとっては難しくはないんだろうけど難易度を示す星の数は5個中3つ。半分くらいは理解できるけどやっぱり難しいなと心の中で嘆いた。
しぶしぶ前に出ると三門くんは全くわからないという顔をしていた。ノートを持ってきているが全然解けていないようだった。対して長谷川くんは余裕の顔。
「これ3番まであるけど2番は1番が解けてたら余裕でできるから周ちゃんがそれ解いて。浅沼さんは1番をお願い。俺は書く量の多い3番をするから」
そう言ってすぐにノートを見ながら3番の解答を書き始める長谷川くんかっこいい……と心の中で叫び私はうなづいた。
「じゃあ1番書くから三門くんちょっと待っててね」
そう言って背伸びをして書こうとした。先生が1番の答えを書き始める場所を高い位置に指定しすぎなんだよ、と愚痴りたくなる。
少し顔をしかめたせいか、背伸びする足が辛そうだったからか。隣からひょいとチョークを奪われた。驚いて三門くんのほうを見ると彼は少し視線をそらしながら気まずそうに声を漏らした。
「……俺2番わかんないと思うから両方解いてくれない。代わりに口で言ってくれたら俺が書くから」
「……あ、ありがとう」
別にお礼言わなくていい、俺が楽したいだけだし。そう彼は言った。私は慌ててノートを読み上げる。適材適所とはこういうことなのかなとぼんやり考えた。
「……うん、これで全部だよ」
隣で3番を解いてくれている長谷川くんはまだ時間がかかりそうだった。前に来て問題を解いている人以外も小声でおしゃべりしてて、先生はそれを注意してなかった。一応解き終わるまで待ってようかという私の提案に三門くんはうなづいてくれた。
「そういや周ちゃんって呼ばれてるんだね」
「……うん。小6からの付き合いなんだけどずっとそう呼ぶんだよなあいつ」
仲がいいんだね、というと少し顔を曇らせたように見えた。
「にしても長谷川くん優しいね。私たちに簡単な問題譲ってくれて」
「あいつは昔からあんなんだよ。自分のことは後回しにするようなやつだから」
「モテるのもわかるなぁ。顔もかっこいいもんね」
「……え」
「え?」
しまった、声に出してしまった。不幸中の幸いなのか、三門くん以外には聞こえていないようだけど……。三門くんが口を開きかけた時カタンという音がなった。
「よしっ。解き終わったぞ」
長谷川くんがチョークを置いてニカっと笑って言った。私も三門くんも長谷川くんのほうに振り向いて、無言で顔を見合わせる。「席に戻ろう」と言い合うように。
そのあとは何もなかった。授業が終わっても何も。私が逃げるように教室を出てしまったせいかもしれないけれど。
教室に帰り急いで弁当を持って知奈美の席まで行く。知奈美は窓側の後ろから二番目というとてもラッキーな席だ。
「数学の授業どうだった?あたしたちの受けてる英語はもう死にかけた。ずっと長文の和訳だったもの」
疲れ切った知奈美を見て少し微笑む。やっぱり慣れ親しんだ友達と話してる時は楽しいものだ。けれども最初の質問の答えには迷った。
「私は……先生に前に出て問題解けって当てられたよ」
「そっかあ。そっちも大変だったね」
「でも長谷川くんが難しいところ解いてくれたから私は簡単な問題で済んだんだ」
「ああ、哲希数学得意だからね」
やっぱりそうだったのかと納得した。苦手教科を選択するはずなのに長谷川くんは全然苦手そうではなかったから。
「あいつ賢いからなあ。苦手なの地歴らしいけど今回の選択になかったから適当に数学選んだ気がする」
「へえ。長谷川くん賢いんだ」
ほんとに優良物件ですなあ、とのんきに言うと知奈美は少し目を丸くした。
「なになに、やっぱり哲希に惚れちゃってたの。そして告るルート突入?」
違うよと言おうとした時、気がついたら私の顔は知奈美ではなく廊下のほうを向いていた。騒がしい女子の大群に混じって聞こえる最近聞きなれた声。
「やっぱり、恋してるじゃん」
知奈美には長谷川くんが見えているのだと思う。けれども、私の視線の先には三門くんだけが見えていた。




