横顔、ドキッと
授業が終わり昼休みだとチャイムが告げる。片付けようと二人の間にかかっていた問題集を閉じようとした時には三門くんはすでに立ち上がっていた。
「哲希、俺先戻るから」
と言って三門くんは教室を出ていった。せめてお礼くらい言ってくれても……と思うが仕方がない。長谷川くんはこちらを向いて苦笑した。
「あはは、ごめんね。周ちゃんに問題集見せてあげてくれたのにあいつったら」
声までイケメンか。思わず声に出しかけたがなんとか飲み込んだ。
「えっと……長谷川くんだよね。私は大丈夫だから、その」
「……浅沼さんはいい人だね」
名前を呼ばれてどきりとした。どうして知っているの、と尋ねようと思ったが長谷川くんのほうが先に口を開いた。
「後ろからひそひそ話が聞こえるもんだからね、自己紹介聞こえちゃったんだ」
「そっか。えっと……改めて、浅沼小夜です」
「もう聞いてると思うけど3組の長谷川哲希です。よろしくね浅沼さん」
きっと何人もの女の子を落としかけたであろう笑みで彼は言った。そして言葉を続ける。
「周ちゃん……三門のことね、あいつ数学すっごい悪いし忘れ物も多いけど、よろしく頼むね」
一瞬言われたことの意味が理解できなかった。それだったらあなたが隣に座ってサポートしたらいいんじゃないのかな、なんて言えないけど。私はうなづくことしかできなかった。
教室に帰ると真っ先に知奈美のもとへ向かった。
「知奈美、横顔の人わかったよ。3組の長谷川くんと三門くん」
「あーやっぱり哲希のことだったんだ」
納得した様子で知奈美はうんうんとうなづく。呼び捨てにしてるんだ、と言うと幼馴染なだけ、と彼女は答えた。
「小学5年生までうちの小学校にいたんだけど転校しちゃったのよね。近所で仲よかったんだ。まあ去年同じクラスで再開したわけなんだけど」
そしてニヤッと笑みを浮かべる。
「まあそんなわけで小夜は哲希に一目惚れしたと」
「ち、違うよ」
思わず首をブンブン横に振る。
「え、じゃあ三門?あたし去年一緒の委員会だったんだけどあいつ無口だよね。女子と話してるとこ見たことないかも」
「えっ。うそでしょ」
さっき思いっきり机をガツンとくっつけてきたのに。そう言いかけたが黙っておくことにした。知奈美は言葉を続ける。
「まあ二年生になって少しは変わってるかもしんないけど。んで、結局どっちに惚れたの?まあ哲希だろうけど。あいつ競争率高そうに見えて意外と低いからオススメよ」
「だから違うよ……なんで競争率まで知ってるのよ……」
もうここまできたら話を聞いてくれないとわかっているけれど、否定せずにはいられなかった。
そりゃあ目で追ってしまっている自分はいたよ。けれども、これは一目惚れといっていいのかな。
まだ肝心なそこがわからないのだ。
翌週の木曜4限目。前と別の席に座っている人もいたから少しホッとした。今回は真ん中のポツンと空席となったところに座る。どうせ誰かがここに座らなくちゃいけないんだし。幸いにも横の席の子は同じクラスの子で授業が始まるまで少しおしゃべりできた。
授業が始まる3分前に長谷川くんたちは来た。一番前しか空いていないのを見てゲッとしているのが見えて少し笑ってしまった。対して女子は顔を緩ませる。女子からするとイケメンが後ろに座るよりも前に座ってくれた方が堪能できるからだと思う。空いている席の周りは男子で固められているのが2人にとってせめてものの救いだろう。
ちょうど私が座っている席から2人ははっきりと見えた。黒板とにらめっこしている長谷川くんを見るためにほとんどの女子が黒板を見るふりをして彼を見ている。確かに目の保養だけど黒板を見ようよ……と私は苦笑した。周りにばれないように軽く手で口元を隠して。
笑ったのを隠している時、彼の隣に座っている三門くんと目があった。そしてすぐに彼は前を向く。どうして後ろを振り返ったのだろうと思ったけれど、そんな思いはすぐに消え去った。
ああ。三門くんの横顔綺麗だなぁ。
決して正面の顔がダメというわけではない。ただギャップというか。とにかく、彼の横顔は他の誰よりも目を奪うものだと思った。
その時気がついた。私が一目惚れしたのは長谷川くんではなく三門くんなのだ。




