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その5

すみません手違いで更新が遅れていました。ときどき誤字脱字の校正や予約投稿をしますが、基本的に話の更新は土曜日です。

 その夜。

 三人は久しぶりの布団に、(くる)まりながら安らかな寝息を立てていた。

 しかし。

 寝ている間に何が起こるかわからない現在、彼らは浴衣を脱いで服に着替え、各々の武器やアイテムを持って横になっている。

 マークは浅いまどろみの中にいる。

 脳が解き放つどろどろとした記憶を反芻するように、彼は今まで経験した様々なことを思い出していた。

 オオカミ野、そして、ラフレシア、メビウスの輪の迷路。

 そう言えば、小さいころ兄がメビウスの輪を縦に二つに切ってくれた。

「ほら、捻じれの入った一つの輪っかになるだろう、普通の捻じれていない輪は2つに分かれるのに、不思議だね。これはお父さんに教えてもらった手品なんだ」

 兄の声がマークの頭に蘇える。

 お父さん。

 篠原英人(ひでと)、自分のお父さんは本当に普通の会社員だったんだろうか。

 お父さんがインフィニティと何か関係があるのではないだろうか。

 マークは理性の束縛の無い、夢の領域で漂いながら考える。

 頭が良くてハンサムで、ケチで変人だった父。『縦の物を横にして見ろ』が口癖だった父。

 ふと、彼は父の名前をもう一度呼び起こす。

 英人……本当は「ひでと」だけれど、エイトとも読める。

 八、と言えば、この世界を守る八人衆。

 マークの頭には、父の言葉が蘇る。彼の頭の隅っこで何か小さな光がはじけた。


「縦の物を横に……、お父さんはヒントを残してくれていたんだ」


 数字の8を横にすると。


「∞、無限大、すなわちインフィニティ……」


 マークの息が荒くなった。彼は闇の中でつぶやく。


「お父さんがインフィニティ……まさか」


 その時。


「お客さん、大変だ。王都の軍勢がっ」


 部屋の外で女将の金切声が響く。

 闇の中、まるで雷のように足音が響き、押し寄せる軍勢によってマーク達の部屋の障子が踏み倒された。

 ローエングリンはいち早く飛び出すと、シュヴァーンを引き抜いて振り回す。

 シュヴァーンの光跡に触れた兵達の第一陣が闇の中で光の粒になって消えていく。

 しかし、狭い部屋のなかに次々となだれ込んでくる無表情な兵士達。

 とうとうローエングリンの健闘もむなしく、シュヴァーンの描く円弧を逃れて隙間から兵士達が部屋の中に入り込み始めた。


「バリアーっ」


 暗視のできるマークの目は、バリアーを張ったはずの空間をいとも簡単に越えてくる兵士達を捉えていた。


「キャプスレート」


 寝ぼけ眼ながら、起きてきたチョッカーンもしゃもじを振り下ろしながら叫ぶが、兵士達には一向に変化がない。


「な、なんでだよっ。まるでスキルがきかないっ」


 おしくらまんじゅうのように兵に囲まれて、マークとチョッカーンが捕獲される。しかし、ローエングリンは柱を背にして、必死の抵抗を続けていた。


「往生際が悪いぞ、ローエングリン。おとなしく縛に付け」


 兵士達の後ろから声が響く。

 その声を聞いて三人はぎょっ、と目を剥いた。


「マークとチョッカーンがどうなってもいいのか」


 捕縛されて刃を向けられている二人を見たローエングリンが静かに剣を下ろした。シュヴァーンが取り上げられ、彼も他の二人と同様に後ろ手に縛りあげられる。


「このくそジジイ……」


 三人は声の主を睨みつける。

 視線の先には白いひげの老人が立っていた。


「カローン、いったいなぜ……」


 マークの眉がゆがむ。


「さよう、わしはリバースルームの主、カローンじゃ。そして、わしにはもう一つの顔がある」


 彼は白い眉毛を上下させた。


「わしは鱗翅(りんし)王の部下なのじゃ」


「えっ」


 一気に目が覚める三人組。

 鱗翅王はゴールドマックス公爵と娘、スターアニスや赤猫、を使いマーク達を抹殺または捕縛しようとしている張本人である。今のところ、彼らにとっては正体不明ながらも敵の本丸ともいえる人物だ。


「お前らのそのスキルはわしが使えるようにしてやったものじゃ、わしの一存でその能力を封じ込めることは簡単至極」


「テレキネスっ」


 ローエングリンがカローンに強い視線を向けるも、何も起こらない。


「ほうら、言った通りじゃろう。スキルは強制停止中じゃ」


 カローンが得意げに鼻をぴくぴくと動かす。


「ジジイっ、味方じゃなかったのか」


「カローン、僕達にスキルをくれてピンチでも助けてくれていたあなたが、なぜ?」


 チョッカーンとマークの問いに、カローンは首を傾げる。


「うーん、なぜかなあ。暴力と不正は嫌いなのだが、でもな、この有り余る知識欲がわしを狂わせるんじゃよ。この世の(ことわり)を知るためには、悪魔にだって魂を売ってやる」


「だから、ペリドットに愛想つかされるんだよ」


 マークがぼそっ、とつぶやいた。

 カローンの眉間、があると思われる場所、の白髪がぐいっ、と八の字にねじまがって、饒舌な口が息を飲んで言葉を発しなくなった。マークの一言が心に突き刺さったらしい。


「やったぜ、クリーンヒット」


 チョッカーンがにやりと笑った。


「なぜだ? 私達を捕まえようとしたらいくらでも機会があったのに、なんで今のタイミングで」


 ローエングリンが絞り出すような声で尋ねる。


「ま、ワシがリバースルーム以外で力を出せるのが、鱗翅伯爵の作り出したプログラムの影響が強い王都周囲だけだという理由が一番大きいんだが……」


 爺さんは白髪をいとおしそうに撫でながら、彼らを見つめて語りだした。

「もちろんそれだけではない。王都の警備は生半可なものではない。このまま流通ポイントが十分なお前達が城砦を突破しようとすれば相当な合戦になり、どちらも無事ではすまないだろう。最初は半信半疑だったが、昨日のマークの言葉をマルコムを介して盗聴するかぎりどうやらお前さんたちは本物のようだ。わしは知りたいんだよ、誰よりも真相を知っている鱗翅王とお前達が会った時に何が起こるかをね。そして、転覆者が何をしでかすのかもな」


「カローン。で、あなたは結局私たちの敵か、味方か?」


 ローエングリンが静かな怒りを秘めた声で尋ねる。


「正確に言えば、どちらの味方でもない。わしはこの世の(ことわり)(しもべ)、そして触媒、かな。何かを変えようとするときにはわしのような存在も必要なんじゃよ」


 さすがに罪悪感を感じるのだろうか、三人から視線をずらして、赤いだんごっ鼻をうごめかしながら白髪の老人はつぶやく。


「お前達は最初から相当焦っておった、悠長にこの世界に逗留する時間はないんじゃろう。ならばてっとり早く無傷で敵の親玉に遭ってみるのもいいんじゃないか?」


「それを言うなら最初から都合して遭わせてくれよ、穏便にな」


 怒りを滲ませてチョッカーンがつぶやく。


「スキルも鍛えず、ポイントも無い状態で親玉に遭ったりすれば、一瞬のうちに屠られるのは自明の理じゃ。でも、鍛え上げられた今のお前さんたちは違う、簡単に屠られずに親玉からこの世界に隠された秘密を聞き出すことができるだろう。転覆者とはなんなのか、どういう結末が待ち受けているのか、をな」


 カローンは血ばしった目で虚空を見つめた。


「わしが待ち続けたこの世の運命がわかる時が、とうとう来たのじゃ。事の真相がわかるまで、お前達のスキルは制限させていただく。王達とあった瞬間戦闘されたりすると、わかる真理も闇の中じゃからな、かっかっかっかっ」


「最低な自己中ジジイだぜ」


 チョッカーンは兵士に引っ立てられながら、次第に小さくなるカローンを睨みつけた。

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