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**第7話 メイド様、境界の向こうで待つ**



夜明け前。

世界はまだ眠っている。


だが俺だけは、眠れなかった。


机の上。

あの 銀色の髪 が、淡く光を放っている。


まるで――

“こちら側”から、“向こう側”へと伸びる、一本の糸のように。


「……行くしか、ないよな」


スマホを握る。

日常は、ここにある。


仕事の予定。

未読の通知。

変わらない、ありふれた世界。


だが――

この世界に、彼女はいない。


銀髪に触れた瞬間。


世界が、静かに裏返った。


音が、消える。

色が、薄れる。


足元に、一本の線が現れた。


白でも黒でもない、

“境界”。


「……やっと来ましたね、ご主人様」


声がした。


線の向こう。


薄霧の中に、

エルシア が立っていた。


だが――

違う。


いつものフリルのメイド服ではない。


簡素な服。

装飾のない、戦う者の装い。


それでも、

銀髪と碧眼は変わらない。


「……似合ってるな」


「……からかわないでください」


少しだけ、困ったように微笑む。


「ここから先は……戻れません」


「覚悟はしてきた」


「そう言うと思いました」


エルシアは、境界に手をかける。


「あなたが来れば、

 この世界はあなたを“観測者”として認識します」


「観測者?」


「境界の外の存在。

 どちらにも属さない、危険な立場です」


「それでも?」


「……それでも」


彼女は、はっきりと頷いた。


「私は、ここで待ちます。

 あなたが、選ぶまで」


境界が、脈打つ。


向こう側には、

歪んだ空。

異質な影。

確かに感じる、危険。


こちら側には、

静かな街。

安全な日常。

そして、彼女のいない世界。


「……一つだけ、聞かせてくれ」


「はい」


「もし俺が行かなかったら?」


エルシアは、一瞬だけ目を伏せた。


「……私は、消えます」


「世界の記録から?」


「いいえ。

 あなたの記憶からです」


その言葉で、答えは決まった。


「そんな選択肢、最初からない」


俺は、線を越えた。


境界が、弾ける。


痛みはない。

ただ――

世界が、変わった。


「……お帰りなさい、ご主人様」


エルシアの声は、少し震えていた。


「ただいま」


そう言った瞬間。


遠くで、警告のような鐘が鳴った。


『――観測者、侵入確認』


『境界干渉、レベル上昇』


エルシアは、俺の前に立つ。


「これからは……

 守るのは、私だけではありません」


「一緒に、だろ」


彼女は、小さく笑った。


「……はい」


境界の向こう側で、

新しい物語が、静かに動き出す。


日常は、もう戻らない。


だが――

彼女のいる世界を選んだことに、

後悔はなかった。




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