**第3話 メイド様、初めての“外の世界”へ (そして町が騒ぎに)**
「外出、ですか?」
玄関で靴を履きながら、エルシアは首をかしげた。
銀髪が朝日に反射して、やたら目立つ。
「そう。買い出し。
昨日の掃除で、家の中ほぼ壊滅したから」
「そ、それは不可抗力ですっ!
わ、私のせいじゃありません!」
「風の精霊のせい、だっけ?」
「そうですっ!」
堂々と言い切った。
問題はそこじゃない。
問題は――
「その格好で行く気?」
エルシアは、いつものフリフリのメイド服姿。
しかも銀髪、碧眼、異様な存在感。
「当然ですが?
メイドが外出するのに、制服以外を着る理由がありません」
「この町、日本だよ?」
「……?」
嫌な沈黙。
数分後。
「なぜ皆、こちらを見ているのですか?」
商店街のど真ん中。
視線が痛い。とにかく痛い。
通行人A「……コスプレイベント?」
通行人B「映画の撮影?」
通行人C「すご……本物みたい……」
「いや、本物なんだけど」
小声でツッコむが、エルシアは誇らしげだ。
「ふふん。
この服は格式高きメイド服。
人目を引くのは当然――」
「キャーッ!!」
突然の悲鳴。
見ると、エルシアの足元で、野良猫がこちらを見上げていた。
「……な、なんですかこの小さな魔獣はっ!?」
「猫だよ!? 日本の標準装備みたいな生き物!」
エルシアが一歩下がる。
猫が一歩近づく。
完全に追い詰められている。
「ち、近づかないでくださいっ!
ひ、ひっかくでしょう!?
噛みつくでしょう!?
呪いとかかけてくるでしょう!?」
「偏見がすごい!!」
だが次の瞬間。
猫が、すりっ、とエルシアの足に体をこすりつけた。
「……っ!?」
エルシアの動きが止まる。
「…………」
数秒後。
「……か、かわ……」
「ん?」
「か……かわ……」
エルシアは顔を真っ赤にして、叫んだ。
「かわいいじゃないですかぁぁぁぁ!!」
しゃがみ込み、全力で猫を撫で回す銀髪メイド。
「ちょ、落ち着いて!
通行人、完全に動画撮ってるから!」
周囲はすでに騒然。
「銀髪メイドが猫にデレてる」
「尊い」
「なんだこの異世界感」
完全に町の名物になりかけていた。
ようやく猫と別れ、買い物を終えた帰り道。
エルシアは少しだけ静かになっていた。
「……外の世界、騒がしいですね」
「嫌だった?」
「……いいえ」
少し考えてから、ぽつり。
「あなたが一緒なら……悪くありません」
「それ、デレ?」
「で、でれじゃありませんっ!!
単なる……同行者評価ですっ!」
そう言って早足になる。
だが、その横顔は、どこか楽しそうだった。
その夜――
SNSには
【銀髪メイド、商店街に現る】
という動画が拡散され始めていた。
俺はまだ、この時は知らなかった。
この“外出”が、
後にとんでもない騒動の始まりになることを――。




