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いきなり因縁付けられました!

こちらの作品はファンタジーな世界観の学園コメディBLとなっております。基本的にはギャグですが、♂×♂の描写が含まれる予定となっておりますので、苦手な方はご遠慮下さい。

朝日が昇ると同時に起き出し、それから過密なスケジュールをこなし、キュウキュウと切なげな声を上げて空腹を訴えている可哀想な胃袋を宥めつつ、待ちに待った昼休みの到来に喜び勇んでやってきた食堂で、まさかこんな目に遭うとは思っていなかった。



「魔力がカスなお前が幹部候補生だと?笑わせるな、さっさと荷物を纏めて田舎に帰ったらどうだ?」


不機嫌さを隠そうともしない声がすぐ近くから降り落ちて来たかと思えば、ドン、と行く手を塞ぐように長い脚が壁を蹴りつけてきて、思わずその場で気を付けの姿勢を取り、硬直してしまった。一体何事だと股下の長すぎる脚を辿るように視線を上げてゆくと、声と同じく不機嫌そうな仏頂面でこちらを睨む相手と目が合った。前髪と襟足が長く伸ばされたシルバーブロンドは少し癖が強く、数カ所が外向きに緩くカールしていた。長い前髪の隙間から覗く瞳は切れ長な上に目尻がつり上がっていて、そこから放たれる眼光は鋭い。


はい、いきなり因縁付けられてます。いや、僕にとってはこんなの日常の一部なんですけどね、やっぱりこんな迫力あるご面相に睨まれるのは心臓に悪いですね。


「あははははは~、いやぁ、僕も出来ることならそうしたいんですけどね…もう引くに引けない状況と言いますか…」


僕だって魔王城の幹部候補生になんて選ばれたくて選ばれた訳じゃないし!何でか僕の事を嫌って事ある毎に絡んでくるクラスメイトから、嫌がらせで参加させられたオーディションに、まさか受かるなんて思わないじゃないか!


内心では声を大にして反論しながら、実際には乾いた笑いを浮かべながら目を泳がせるしか出来ない。こんなに気弱で日和見で事なかれ主義な僕が、極悪非道、冷酷非情がモットーの魔王城の住人になんてなれる筈ないでしょ、普通に考えて。


と言う訳で、その麗しいご面相に迫力を滲ませて睨まないで頂けますか?その切れ長一重に嵌った猫目石みたいな瞳で睨めつけられたら、生きた心地がしないし、その涼し気な柳眉がピクリとする度に心臓が跳ねるんですよねぇ。肉付きの薄い綺麗な唇から悪意モリモリな罵倒しか出てこないのは、つまり、僕の事が嫌いなんですよね?生きてるだけで不快させて誠に申し訳ないですね。いや、本心から悪いとは欠片も思ってないですけども。


「そんな舐めた態度でこの魔界のトップクラスである魔王城の幹部候補生に名乗りを上げているのか?不愉快極まりないな」


偉そうに腕組みなんてしながら、金褐色の瞳でこちらを睥睨してくる相手に、自身の中で何かがキレたのを感じる。


……かっちーん!


頭の中で少しばかり古典的な音が鳴り響いた。…こっちが下手に出ていれば、いくらでも調子に乗りやがって。ちょっと顔と声が良いからって…身体能力と魔力保有量が桁違いだからって…天狗になってませんか?己より立場が下の者になら何を言っても許されるとか思ってるクチですか?…幼稚園から人付き合いの勉強やり直してこい、マジで。


「貴方が僕の事をどう思おうが勝手ですよ。でも、それなら僕だって言わせてもらいますけど…ヒトの努力を認めもせず、ただ嘲笑うような奴に、次期魔界のトップが務まるんですか?」


実力主義のこの世界においては結果が全てだと、皆声を揃えて言うのだろう。だけど、僕はその過程を蔑ろにするような事は決してしたくはなかった。無駄な努力だとか、時間の無駄だとか、そうやってヒトの労力や費やした時間を無為なもののように扱う連中が我慢ならなかった。


こうも堂々と正面切って喧嘩を売られているんだ、こっちだって受けて立とうじゃないか。開き直った僕は、足を肩幅に開き、相手に体の正面を向けて、眼鏡のブリッジに中指を添えながら、その端正な顔を睨み上げてやる。


「僕に資格を問うのなら、貴方に次期魔王たる資質があるかどうか、こちらから試しても構いませんよね?」


そう啖呵を切った僕を、遠巻きに見物していた連中がコソコソと囁きながら冷めた目で見ている気配が全身に伝わってくる。


“あのチビ、正気か?”“たかが人間の分際で、純魔であるあの御方に楯突くつもり?”“アイツ、終わったな…”


好き勝手に囁き合う声を耳で拾いつつ、視線は目の前の男から決して逸らさない。


喧嘩の心得その1、相手から目を逸らすな。ガンの飛ばし合いで押し勝てば、その後を有利に運ぶことが出来る。


「問題です!」


ジャジャン!と口で効果音を鳴らした僕に、相手は面食らった様子で目を見開き、動揺を見せる。


「は?…いきなり、何を…」


「この魔界を創設し、社会を形成した偉大なる初代魔王の名をフルネームで答えなさい!」


「…お前、ふざけているのか?」


「大真面目ですけど?…次期魔王なら、こんな一般常識程度の問題、楽勝ですよね?」


喧嘩の心得その2、己の得意とする勝負に持ち込め。相手の土俵に立つのではなく、相手を自身のテリトリーに引きずり込め。


「……ルーカス・アリギエーリ…」


意外にも、素直に解答してきた相手に一瞬呆気に取られかけるが…。


「正解です。では、第2問!」


ジャジャン、と再び効果音を口にした僕を、相手は信じられないものを見るような目で見下ろしてくる。…無駄に背が高いな…見上げるこっちの身にもなって欲しいよ、ホント。


「まだ続くのか!?」


「どちらかが負けを認めるまで続けます!第2問、この魔界が掲げる憲章を答えなさい。尚、多少の言い回しの違いは構わないものとします」


「………」


「どうしました?降参しますか?」


不意に口を噤んでしまった相手に詰め寄るように一歩、前に進み出て、未だに行儀悪く壁を靴底で押している右足の太腿をペシリと軽く叩く。


「無闇に壁を蹴らない。靴跡の付いた壁、一体誰が掃除すると思ってるんですか?」


「っ…お、まえ……」


雪のように白かった顔が赤く染まったのは、怒りの為だろうか。まぁ、この人相手に真正面から文句言って、オマケに足を軽くとは言え叩くなんて暴挙に及べる奴がそうそう居るはずもないので無理もない話だ。でも、僕は言うぞ。このまま常識も知らずに社会に出たら苦労するんだから、不快な思いをさせたとしても忠告してあげるのが優しさというものだ。


目の前の銀髪の男は赤い顔のまま、ゆっくりと壁から靴底を離し、両足を地面についた。…案外、素直だな。話せば分かる人なのかも。まぁ、それはそれとして勝負の途中だ。


「あ、ところで第2問の答えは?」


どうせ分からないだろう、なんてタカをくくっていたのだが。


「“種族、能力の違いに関わらず、この魔界に暮らす者は魔王を除き、全てが平等な存在である。それらを理由に自由を侵害される事があってはならない”」


「…一言一句間違いありません。完璧です」


本当に憲章を紙に書いた物をそのまま読み上げたのではないかと思うほど、少しの間違いも見当たらなかった。


「…その憲章を暗唱出来るんなら、僕に向かって言った言葉の不当さについては理解して貰えますよね?」


確かに僕は体内に魔力炉を持たない只の人間だし、自身の中にある微量の魔力を操ることでしか魔法を行使できないが、それを理由に貶める事は許されないのだ。本当に初代魔王様は、聡明で素晴らしい人格者だと感じる。この憲章がなれけば、種族としては弱小クラスの人間族は酷い扱いを受けていた事だろう。それこそ奴隷や家畜扱いされていたかもしれない地獄のようなifの世界を想像すると、背筋が寒くなってくる。いやぁ、本当に種族皆平等を提唱してくれてて助かった。


そんな明後日の事を考えていると、不意に荒っぽく胸倉を掴まれて、グイッと上向きに釣り上げられた。咄嗟に首が締まらないよう踵を上げて、つま先立ちになった僕を、男―アレクシス先輩は糸のように細めた目で静かに睨めつけてきた。


「憲章如き、何だと言うんだ。それがお前の身を守ってくれると、本気で思っているのか?この貧弱な腕とカスのような魔力で、私に抗えるのか?」


出来るものならやってみろ、と挑発してきた相手に、僕は一つだけ質問をする。


「…どんな手を使っても構いませんか?」


「あぁ、どんな手を使ったところで無駄……」


「“隆起せよ、ロックブレイク”」


下級魔法は威力こそ弱いが、その分詠唱時間は短く、発動に手間が掛からない。そして消費魔力も少なくても済む。正に“カスのような魔力”しか持ってない奴にうってつけって事。先輩の丁度足元をピンポイントで狙って発動させた地属性魔法は、狙い通り先輩の踵を押し上げ、バランスを崩させることに成功した。


僕は胸倉を掴んでいた先輩の手から力が抜けたタイミングを見逃さず、襟から指を毟りとる。そして両手でしっかりと相手の腕を掴み、懐へと潜り込んだ。


「“アトラス、我に力を”っ…!」


詠唱ショートカットも活用しながら、肉体強化魔法を掛け、相手の腕をしっかりと引いて、背中に自分より20cmは大柄な体を乗せる。そして…。


「よっこらしょっ、とっ!!」


相手の運動エネルギーと自重を上手く動きに乗せながら、勢いを付けて投げ飛ばす。


ドッタン!!


床に背中から落ちて仰向けに転がった先輩は、何が起きたか分からないといった様子で目をパチパチと瞬かせていた。そんな間抜けな姿を晒していても何処か絵になるんだから、美形ってやつはお得だな、と感心してしまう。


「僕の勝ちです。これで文句ありませんね?」


「…はぁっ!?」


勝利宣言をした僕に、それまで瞬きを繰り返すだけだった先輩がピクリと眉を引き攣らせ、怒気を含んだ声を威圧的に響かせる。


僕はそんな彼の頭上にしゃがみ込み、深いシワの刻まれた眉間を人差し指でグリグリと押してやった。


「凄んでもダメです。ちゃんと僕は自分のやり方で力を証明したので、もうつまんないちょっかい掛けないで下さい。僕みたいな小物に構ってないで、先輩は時期魔王として自己研鑽に努めた方が遥かに有意義だと思いますよ?」


どうせ僕なんか、最後まで候補生として残ってるか怪しいんだし…。


そう、独りごちるように付け足してから、僕は膝に手を置いて屈伸する要領で立ち上がる。


「……おい、待て!」


「すみませんが、今日は日替わりランチの争奪戦に出遅れてるので、これ以上は付き合えません。どうしてもと言うなら、放課後以降でお願いします」


今日は僕の好物の一つであるチキン南蛮定食なんだ。限定10食にあぶれて堪るものか、と急いで踵を返し、厨房の方へと向かう。


「は?ランチ?…おい、お前……」


背後で何かブツブツと言っているような気配を感じたが、空腹も限界だし、構ってはいられない。走らない程度に早足になりながら、カウンターに向かう僕の頭の中には愛しのチキン南蛮の事しかなかった。



続く?

取り敢えず見切り発車で始めてみました。

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