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神伝物語 第一部  作者: 自認神
第一章
9/13

第九話「帰還」

ラスとジュリは、拠点に戻ってきた。



暫くして、隊員達が戦闘不能になった敵を抱えて来る。


縄につけ、一箇所にまとめた。


何名かは逃げ切ったようだが、900名弱ほどはこの場にいるようである。

まとめてみると、かなりの人数であった。


半数ほどは目が覚めており、憎々しそうにラス達を睨みつけている。


既にジュリの存在に気づいているものもいて、戸惑いを隠せないようである。


水兵士「なぜこんなところに王女が…」


ジュリは俯いている。




ロウ「それで、ラスに何かあったのか」


ロウも戻ってきていた。


ジュリ「さっきまで、水の球に閉じ込められていたの。かなり流れが早いように見えた…私が咄嗟に干渉して、他の隊員も攻撃を始めたから解除できたけど、あのままだったらタダでは済まなかったよ」


ロウ「そうか…お手柄だったな」


ロウは労うようにしてジュリの肩を叩いた。


ラスの方に視線を移す。


ロウ「…お前がそんな罠にかかるなんて珍しいな」


ラス「油断した。やっぱり少し焦っていたみたいだ」


ロウ「しっかりしろよ。戦争なんだ。誓いは大事だが、それ以上に自分の命が最優先だろ」


ラス「…そうだな、すまない」

ロウ「頼むぜ」







水の国の兵士達のほとんどが目を覚ましたのを確認した後、ロウとラスは兵士たちの前に立った。


ロウ「…俺は、闇の国三番隊隊長にして、二番隊隊長フィジル・ベンケイの息子、フィジル・ロウだ。」


ラス「同じく、四番隊隊長にして、国王ダーク・イスカンダルの息子、ダーク・ラスです。」


水の兵士達は、動揺した様子であった。


水の兵士6「隊長が…二人も」

水の兵士7「敵わないわけだ」

ロウ「静かにしろ!」


ロウはざわつく水の兵士達に対して言う。



静寂を待ち、また話し始めた。


ロウ「これから、お前達に選択肢を与える」


兵士達の表情が固くなる。


ラス「…希望するものは、この場で逃がしましょう。まだあなた達の物資はキャンプ地に残されているはずです。それらを使って、水の国まで帰還しなさい。もちろん、武器は置いていってもらいます。」


ロウ「お前らも兵士、なんとか辿り着けるだろが、この先は獣も多い。危険な旅路となるだろうな」


水の兵士達の顔が、そろって驚きに染まった。


水の兵士5「戦闘に負け、生きたままなす術もなく捕まった我々を、お前らは生かしたまま返すと言うのか!」


ラス「そうです!!しかし、あなた達はどうにか帰ったとしても、また水の女王によって戦争に連れ出されるでしょう!不毛な戦いを続け、また我々に負けたいものだけがこの場から去りなさい。」

水の兵士5「それは…」


その兵士は何か言いたげであったが、言葉が出てこなかった様子である。


ロウ「もう一つの選択肢は、このまま我々と共に捕虜として闇の国へ行くことだ。」

水の兵士8「誰がついて行くか!!」


兵士達は、一斉に騒ぎ出した。ロウは説明を続けようとしたが、声がうるさくて話すことができない。


ロウ「てめぇらいい加減に…」


ジュリ「静まりなさい!!」


ジュリが、力強く叫んだ。突然の王女の声に動揺し、水の兵士達は黙る他なかった。


ジュリ「私は闇軍に捕まり、半月ほど闇の国で暮らしました。」


ジュリは水の兵士達の目を見て、ゆっくりと話を続ける。


ジュリ「初めは、疑いしかありませんでした。あの憎き闇の国が、私をどのような目に遭わせるのか、不安で仕方がなかったです。」


ジュリ「しかし、闇の国は私の思っているような国ではありませんでした。水の国と何ら変わりません。人々が笑って暮らす、普通のところです」


水の兵士達は、呆気に取られながらも、ジュリの話をしっかりと聞いていた。


ジュリ「そして、ここにいる隊長二人も、悪い人たちではありません。冷たい態度をとる私に寄り添い、丁寧に接してくれました。あなた達のことも雑に扱うことはないと誓いましょう。」


ジュリ「今は、静かに彼らの話を聞いてください。」


場は静寂に包まれた。兵士達の視線がロウとラスの方へと集まる。





ロウ「…まぁ、そういうこった。俺らが連れて行く以上、身の安全は保障する。」


ラス「この戦争が終わるまで、あなた達を保護します。戦争に連れて行き、同士討ちをさせるなどと言うことはしません。我が国に護送されたあとでも、希望者はいつでも解放します。」


兵士達は、再び驚いた表情をしていた。内容に対して動揺が隠せないようであった。


ラス「また、同様に護送された兵士が我が国で保護されています。再会も可能でしょう」


水の兵士9「…!まさか、あの副隊長オーヤン様も生きていらっしゃるのですか!?」

ラス「オーヤン様はご健在です。」

水の兵士9「そんな、、!」


兵士たちの中で歓声が上がる。


死んだと思われていた同胞が生きていることを知って、喜びを隠せないようである。


ロウ「静まれ!」


今度はすぐ静かになった。


ロウ「ここで選べ!我々と共に来るか、水の国へ戻り、再び我々と相対するのか!!」


静寂が広がる。簡単に決められる話ではない。





水の兵士9「俺は帰らせていただく。水の国を…死んだ親父を裏切ることはできない」

水の兵士10「俺も」

水の兵士11「俺もだ」


次々と帰国希望者が立ち上がる。


ラス「…分かりました」


ロウ「よし、こいつらを後方へ連れて行け。お前らのキャンプ地まで戻った後に、解放してやる」


100人ほど減ったように見えた。それでも多くのものがその場に留まっている。


ラス「…よし、それでは王都へ帰還しましょう」







ロウは数名の隊員とともに、帰国希望者を彼らのキャンプ地まで連れて行った。


ラスは残りの隊員と共に、止まった水の兵士達を見張る。


ジュリ「ごめんね。割って入っちゃって」


ジュリがラスに話しかける。


ラス「いえ、助かりました。これまでは割とすんなり話を聞いてくれていたのですが、今回は少し異例だったようです。」

ジュリ「そう…」


まだ少し申し訳なさげである。


ラス「…堂々と語る姿は、王女に相応しいかっこいい姿でした。誇ってください。」


ジュリ「そんなことは…いや、そうね、上手くいったんだもの、ウジウジしてる場合じゃないね。」


ロウが帰ってきて、すぐに帰還の準備を始める。


捕虜も多く、食料も調達する必要があるため、帰りは行きのように速い移動にはならない。


逃げた兵士からの追撃を避けるため、情報員と隊員数十人を残して連合隊は帰還を開始した。








ーーー

5日が経過した。


キャンプ地を設定しては、獣を狩り食料を調達する。


隊員400名ほどと、捕虜800名弱の約1200名の食料が必要となる。


いくら強い’力’を持っていても、それなりに時間がかかる。


5日で三分の一ほどしか進めていないが、今のところ問題はない。


隊員「ラス様、水の兵士の一人が隊長達と話がしたいようです。」

ラス「分かりました。通してください」




水の兵士の一人が連れて来られる。


顔を見る限りどうやらそこまで若くない。

老練な印象である。


水の兵士5「…一つ質問してもよいか」

ロウ「なんだ」


水の兵士5「なぜ、我々に致命的な攻撃をしなかった。大規模な攻撃を行えば、もっと簡単に我々を壊滅させることができただろう。」

ロウ「それはー」

ラス「私が説明します。」


ラスが話し始める。


ラス「私たちには、"非殺の誓い"という、陛下が定めた誓いがあります。」


ラス「自分たちの力が及ぶ限り、非戦闘員はもちろんのこと、戦闘員も含めて殺生はしないというのが内容です。」


ラス「…陛下は、この誓いは先代水の王から学びを経て作ったと話しています。何か心当たりが?」


老練なその兵士は、話を聞くと、親指と人差し指を目頭に当てた。



老練な兵士「…まさか、あの方の意思が、このようなところに残っているとは、、。セイン様、あなたの理想は、まだ死んでいないようです。」


静かな空間に、男の小さなすすり泣く音が響いた。


ロウ「…貴様、名前は?」

ポドン「私は、先代アクア・セイン様の元側近、ラ・ポドンだ。」


ロウ「水の先代の側近か…」

ポドン「ああ。しかし、先代が亡くなってからはほとんど謹慎させられた。今はただの名もなき老兵だ。」


ラス「そんなことはありません。あなた達の攻撃で私は危ないところでした。」


ポドン「隊長一人は来る想定だった。それなりの水の使い手を集めた部隊だったが…まぁ結局は歯が立たなかったな。」


ロウ「そりゃそうだ。この誓いは、イスカンダル様の絶対的な力と、俺たち隊長の強さがあって初めて成り立つ理想論だ。この程度で手こずっていては語るに足らない。」


ロウは力強く返した。


ポドン「…確かに、セイン様には早すぎたのかもしれん。だが、お前らならセイン様の願いを叶えられるかもな。」


そう言うと、ポドンは席をたった。


どこか納得したような、安心したような表情であったように感じる。





テントの外で話を聞いていたジュリが戻ってきた。


ジュリ「今の話って…父上は一体何をしようとしたの?」


ラス「私の聞く話では、先代水の王は水、闇両王国で初めての穏健派であったそうです。戦争の終結を願い、最後は丸腰で闇の王国に現れて訴えたそうです。」


ロウ「その結果、先代闇の王に処刑された。」

ラス「おい、ジュリの前でそんな言い方ないだろう」

ロウ「だが事実だ」


ジュリは驚いた顔をした後、少し俯く。


ジュリ「…やっぱり、私は何も知らない。ただ、父上が殺されたことしか…」


ジュリの顔を見て、ロウも少し戸惑うようである。


ロウ「…まぁ、俺らも詳しいことはよく分かんねぇな。帰ったらイスカンダル様から根掘り葉掘り聞いてやろうぜ」


ラス「先ほどの兵士もいろんなことを知っていそうでした。また話してみましょう。」


気遣う二人を見て、少し安心したようであった。

ジュリ「そうだね、ありがとう」







ーーー

それから10日が経ち、王都に到着した。

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