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神伝物語 第一部  作者: 自認神
第一章
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第五話「訓練場」

ラス「朝か…」



いつぞやの朝とは違い、ベットの上で起床した。


昨日ジュリが味方になると宣言したことにより、自分の世話係の任は解かれた。


正直なぜ彼女が気持ちを変えたのかはよくわからない。


けれど結果的に上手くいったのだから、それで良しとするべきか。

そんなことを考えながらランニングへ行く。




朝の日課である。


’力'を扱うためには、結局のところ人体の基礎体力が必要不可欠であるというのが、闇の国の結論である。


そのため、闇の国の兵士は、’力'の扱い方よりも先に基礎的な運動能力の向上を目指している。

隊長のラス自身も、毎日のランニング、その後の腕立て伏せ、腹筋は欠かさない。


ランニング、筋トレを終えると、朝食を取る。


闇の国では、米がよく取れるため、基本的に朝食はお米だ。

容器に米を入れ、水を入れる。

蓋をして、窯の上に置いたら、窯に向けて’力'をこめる。

すると、窯から火が生まれ、容器を温める。


通常’力’から火を生み出すのはかなり難しいが、人類は早い段階からこのプロセスを簡素化することに成功した。

火を生み出せないものでも、窯に’力’をこめるだけで簡単に温めることができる。




米を炊いている間に身支度をする。


昨日イスカンダルから帰り際に、ジュリを訓練場に連れて行き、’力’の使い方について教えろと言われた。


訓練場には軍服がふさわしい。

そうこうしているうちに米が炊けると、器に盛って食べ始めた。


器を片付け、家を出る。


訓練場に向かう前に、まずは王宮へと向かった。





王宮に着いたら、門番に挨拶をした後に建物の中に入る。


広間の階段を登り、廊下を東側に進んだ一番奥の部屋に、ジュリがいる。




ラス「失礼します。ラスです」

ジュリ「入っていいよ」


今まで聞いていなかった返事を聞いて、少し慣れない感じがしながらも、扉に手をかけた。


ラス「入ります」


いつもの椅子には座っておらず、鏡の前に立っていた。

おそらくは身支度をしていたのだろう、新品の軍服に身を包んでいる。


ラス「着心地はいかがでしょうか」

ジュリ「…いいね。バッチリ」


そういって鏡の前でくるりと回る。

彼女にとっては敵国の軍服であるが、よく着こなしているように感じた。



ラス「昨夜はよく寝れましたか」

ジュリ「ぐっすり寝れた。久しぶりに熟睡できたよ」

ラス「そうでしたか。何よりです」

ジュリ「…」


ラスはジュリの目を見たが、ジュリは視線を外す。


ラス「どうかしましたか?」

ジュリ「…いや、なんていうか」


ジュリは背筋を伸ばし、しっかりとラスの目を見つめ直した。


ジュリ「これまでの失礼な態度を謝まります。ご迷惑をおかけしました。」

ラス「…!、いえ、気にしないでください。これまでのことを考えればー」

ジュリ「けど、これからは協力する。改めてよろしくね」

ラス「ーはい。よろしくお願いします」



ほっとして胸を撫で下ろした。

どうやら昨日の出来事は確かであったらしいと安心していたが、ジュリは少し不満そうな顔をしていた。



ラス「…なんですか」

ジュリ「敬語はやめてほしいな。年はあまり変わらないでしょ。私は19だけど、君は?」

ラス「私は18です。あなたの方が年上なので、敬語を使わせていただきます」

ジュリ「年下…どうりで」


ジュリはどこか納得したような顔をしている。


ラス「逆に言わせてもらいますが、君と呼ぶのはやめていただきたいです。私はラスです。」

ジュリ「なら、私のこともジュリって呼んで。じゃなきゃ不公平でしょ?」

ラス「…まぁそれで良いでしょう」

ジュリ「ふふっ。決まりね」


ジュリが笑った。

出会ってから1ヶ月と半月ほど経っているが、まともに笑うところを見るのは初めてに感じた。


ジュリ「どうかした?」


ジュリがこちらの顔を覗き込んでくる。


ラス「…いや、よく喋る方だと思いまして」

ジュリ「。。すいません」


少し気まずそうな顔をした。


ラス「あー、誤解です。嫌味を言ったわけではないです。」

ジュリ「…本当に?」


決してそんなつもりはない。



ラス「…一つだけ確認しても良いですか?」

ジュリ「いいよ」

ラス「昨日話していた、おじさんとは誰ですか?どういった人物なのでしょうか」

ジュリ「知らない。年も、出身も、名前すら知らないよ。互いに素性を探らないっていう約束で行動していたから…まぁ、バレてたみたいだけど」

ラス「、、なるほど」


ほとんど情報は得られなかった。


ラス「…ひとまず、訓練場に向かいましょう」






王都の外れ、王宮から東側に進んだところに訓練場がある。


訓練場の中は、そのほとんどが体力向上のための施設である。あらゆる重りの置いてある部屋や、周回のランニングコースなどもある。


また、一部’力’を実際に行使することができる場所も用意されている。

模擬戦のできる闘技場と、物体に向けて’力’を打てる試射場がある。


2人はまず闘技場に向かった。




ラス「まずは’体の力’から確かめましょう。私と模擬戦をしてもらうので準備をしてください。」

ジュリ「分かった」


2人は闘技場で向き合う。






’力’は、世界中に満ちている。


人の体内にもまた’力’が込められているが、その総量には限りがある。

体内の’力’を消費すると、自然と体外の’力’を取り込み回復する。

しかし、その回復は遅く、枯渇したあと全快するには2〜3日ほどかかる。

火や水など、この世の現象のほとんどは、自らに込められた’力’を変換することで発生させることができるが、消費が激しく長期の戦闘には向いていない。


そのため戦闘では多くの場合’体の力’が使われる。

体外の'力'を現象に変更することは人間にはできないが、世界に満ちている体外の’力’と体内の’力’を結び取り込むことはできる。

取り込んだ体外の力を、体内の力を介して身体能力の向上につなげること、それが’体の力’である。


そうすることで、体内の’力’を消費することなく、岩を砕くほどの力や、どの生物をも上回る速さなどを手に入れることができる。

ーロトスの「力の指南書」、基本編より引用





ラスとジュリの模擬戦はすぐに終わった。

ラスによってジュリは地面に伏されている。


ジュリ「…参りました」


ラスは拘束を解き、ジュリも立ち上がる。


ラス「やはり王族なだけはありますね。かなり多くの’力’を取り込むことができています」

ジュリ「…そうですか」


不貞腐れた様子である。


ラス「しかし、まだ多くの’力’を取り込むことができるでしょう。素の身体能力自体をもう少し向上できれば、さらに強くなれます」

ジュリ「そうね」


ラス「あとは瞑想が必要ですね。体外と体内の’力’を結びつける感覚を養って、許容量限界の’力’を取り込めるようにしましょう。」


ジュリ「…瞑想?初めて聞いた、、」

ラス「すでに成果は出ています。特に二番隊隊長は史上最強の’体の力'の使い手と言われています。彼は若い頃はひたすらトレーニングと瞑想をしたと話しています。」

ジュリ「…なるほど、試してみる」

ラス「では、次は試射場へ行きましょう」






試射場へ向っていると、そこから特大の火の玉が見えた。遠くからでも感じる熱さである。


ジュリ「熱っ!」

ラス「あの火は、おそらくロウですね」


試射場に着くと、案の定ロウがいた。



ロウ「おっ、ラスと…こないだの子か!」

ジュリ「こんにちは。私は水の国王女のアクア・ジュリです。」

ロウ「今度はちゃんと話してくれんだな。改めて、三番隊隊長のフィジル・ロウです。ロウって読んでくれ」

ジュリ「私もジュリで良いよ、よろしくね」

ロウ「おう!」


楽しそうに話している。どうやら相性は良いようだ。


ジュリ「ちなみにさっきの火って…」

ロウ「あれは俺のだぜ。火だけは得意なんだ」


そういうと、ロウは手のひらで火の玉を作った。

どんどん大きくなると、それを土の塊の的に向けて放つ。

大きな音と共に、的は跡形もなく崩れた。


ジュリ「すごい…まるで’火の力’ね」

ロウ「ははっ、そこまでじゃないさ。俺には街を焼き尽くすほどの火は出せないし、出せる量にも限りがある」

ラス「だけど属性攻撃の基本は火です。このレベルで扱える人間はそういません」

ロウ「おっ、めずらしく褒めてくれるじゃん」

ラス「事実だろ」

ロウ「やっさしい〜」

ラス「うるさい」






神から原初の王の臣下五名に与えられた’力’、そのうちの一つが’火の力'である。

他にも、’水の力’、’木の力'、'光の力'、'闇の力'がそれぞれ与えられた。

神から与えられた’力’の最も大きな特徴は、世界に満ちた’力’、体外の’力’を直接変換可能であるところである。

そのため長期の戦闘も可能であり、その規模も桁違いである。

戦争において、どれだけ多くの兵が束になろうとも、王には敵わない。

ーロトスの「力の指南書」、神編より引用






ロウ「俺の’力’は真似できるかもだけど、あいつの’力’は特別だぜ」


ロウがジュリに火の力を使うコツを教えながら、ラスに向けて言った。


ラス「…いや、別に今じゃなくても」

ロウ「こういうのは早めに言った方がいい。それに戦闘が始めれば使うほかないんだから」

ラス「…そうだな」

ジュリ「…’力’って?こないだも話してたよね?」

ラス「、、百聞は一見に如かず。今使って見せます」




ラスはそういうと、手のひらを的に向けた。




ーー次の瞬間、的が消滅した。




言い表すことのできない何かが的に向かう様子だけが見えた。

的があった場所の周りには、土の崩れた跡すらなく、消滅したと表現するのが正しいようであった。





ラス「…これが私の’力’、’憎しみの力'です」

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