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神伝物語 第一部  作者: 自認神
第一章
3/12

第三話「逃避行」

少女が王宮に着いてから10日が経過した。




ラスはこの10日間で様々なところに案内した。


訓練場、教会、学校、畑や森など、闇の国にある営みについて丁寧に説明した。


というのも、水の国の教育はひどく偏ったものであるという情報を得ている。


闇の国への憎悪を煽り、戦争意欲を掻き立てるためのプロパガンダである。




水の女王は夫を殺した闇の国を許すつもりはない。


しかし、その夫は穏健派であり、教育に対し既に改革を進めていたため、プロパガンダ教育の影響はあまり大きくないようである。


多くの水の国の捕虜が闇の国に居住するのもそのためである。




しかし王女は、その女王からの直接教えられていると考えられる。


王女の認識を改めてもらうためにも、ラスは闇の国がどういう国なのかということを丁寧に教えた。





少女はたびたび動揺を隠せないようであった。しかし次第に慣れたのか、後半はおとなしくラスの説明を聞いた。


逃げ出したのも最初の王都を案内した時のみであった。












11日目、ラスはそれまでのように少女の元を訪ねた。


ラス「失礼します、ラスです」

少女「…」

ラス「入ります」




少女はいつものように窓の外を眺めていた。


ラス「今日は演劇場へと案内しようと…」

少女「君は…」


少女が話し始めた。1ヶ月一言も話さなかっが、案内の成果があったとラスは思った。


少女「君はどうしてここまで私に優しくしてくれるの?」


ラスは少し考えてから言葉を返した。




ラス「あなたは闇の国に対して誤解していたのではないですか?」

少女「…」


ラス「私たちは戦争を終わらせたいのです。あなたがいれば、より早く、少ない犠牲でこの'憎しみ'の連鎖を止めることができます」

少女「…」




少女は再び窓の外に目をやった。


少女「…」

ラス「…それでは向かいますか」


これまでのように案内を終え、王宮へと送り、ラスは少女と別れた。












ラスは家に着くと、椅子に座り紙を手に取った。


次の遠征の作戦などを考えようとしたが、少女の言葉が頭によぎる。




(なぜわたしに優しくするの、か。)


(話したことに偽りはないが、あの返答で良かったのか…)

思慮に耽るが、結論は出ない。



(しかし口を開いてくれた。関係は進んでいる。)


自分を納得させ、ペンを持ったその時、扉が強く叩かれた。




伝達者「ラス様!」

ラス「なんですか?」


伝達者「至急王宮に!水の国の王女が逃げ出しました!!」

ラス「な、、!」












ラスは家を飛び出した。

’力'を存分に使い、王都中を探し回った。


案内した場所の全てを当たったが、しかしなかなか見つからない。

(どこに…)




小一時間ほど探したが見つからない。


埒が開かないと感じたラスは、一度整理するために王宮に戻った。


すると、国王イスカンダルが王宮の入り口で待っていた。





ラス「見つかりましたか?」

イスカンダル「いーや?」

ラス「父さんが本気を出せば一瞬で見つけられるでしょう!?」


焦って語尾が強くなる。




イスカンダル「これはお前の問題だ」

ラス「っ…!?」

イスカンダル「必ず見つけろ」


(こんな時に…)













失意の中、少女の自室へと向かう。


扉を開くが当然彼女の姿はない。


部屋の中をゆっくり歩く。

(…結局、彼女のことが何もわからないままだ)




ふと、少女が座っていた椅子が目に入る。


なぜそうしたのか、ラスはなんとなく椅子へと向かい座った。


椅子の向きは、窓の外を見ることのできる方向を向いていた。




少女が良く窓の外を眺めていたことを思い出したラスは、同じように外を見る。

(…!あれは、)




景色の向こう、森の奥を進んだ丘の上に、確かな人影が見えた。




ラスは窓から飛び出す。


全速力で森を駆け抜け、丘の上へと向かった。














丘の上で、少女は座り込んで王都を眺めていた。




ラスは言葉を選びながら、なんとか話しかけようとする。




ラス「…なぜ逃げ出しー」

少女「私はね」




少女が話しだす。


ラスは話しかけた言葉をしまいこみ、少女の話を静かに聞く。




少女「私は母上が嫌いだった。生まれた時からあの部屋から全然出してもらえなくて、窮屈だった。」

ラス「…」


少女「せっかく話しても、いつも私の知らないお父さんへの恨みつらみを聞くばかりだった。」


少女「だから飛び出したの。あの部屋から、国から、…母上から。他の世界を知ってみたかった。自由になりたかった。」




少女「すごく楽しかった。光の国も、神の国も、木の国も、どこも綺麗で、初めて自由になれたと思ってた。」


少女「けど違かった。おじさんは優しかったけど最後は捨てていっちゃった。私はおじさんのおかげでいろんなところに行けただけで、自由じゃなかった。」

ラス「…」






大体は情報の通りであった。


おそらくおじさんというのが協力者なのだろうが、、。


何者なのか…聞きたいことが山ほどあるが、今は静かに話を聞く。





少女「しかもよりによって君達に捕まった。母の話を聞いていれば嫌でも嫌いになる君達に。」


少女「君は確かに優しいね。闇の国の人たちも優しかった。私の思っていた闇の国とは違かった。」


少女「けど、結局君たちも私じゃなくて王女が必要なんでしょ。私が戦争を終わらせるための道具になることを望んでいる」


ラス「それは…」


否定しようと思ったが、言葉が出てこない。





少女「けど、私はそれを受け入れないといけない。母よりも君達の方が正しいように見えた。」


少女「王都で見た人々の笑顔を見て、私はそれを受け入れなきゃいけない、受け入れる運命なのだと思った。」



少女「今回逃げたのは私の最後の自由。私の意思よ。」


話し終えて、彼女はまたあの表情に戻る。

視線を落とし、唇を硬く噛む。











ラス「…あなたは」


なんとか口を開く、言葉を探す。



ラス「あなたは優しい人だ」

少女「…」


ラス「人のために、自分が犠牲になろうとしている」

少女「…」


表情は変わらない





ラス「私は…」


こんなこと話すべきではない。


ラス「僕の…」


言葉が出てきてしまう




ラス「僕の両親は水軍の兵士に目の前で殺されました。」




少女「…!?、うそ、だって」


ラス「僕は国王王妃両陛下の養子です」


ラス「子のいない両陛下のもと、特別な'力'を持つ僕が養子となりました。」


ラス「かつては水の国を強く憎みましたが…今は父さんと同じ考えのつもりです。」


少女は口元を覆った。





ラス「僕は自分自身についてあまり考えてこなかった。だからあなたの言う自由はよく分からない。」


ラス「僕はただ、自分を救ってくれた父さん、母さんのために戦う。」

少女「そんな…」












失敗した。


こんな自分の話をしてなんになるというのか。


しかも彼女の考えとは真逆の自分の話を。




しかし、彼女の表情は変わっていた。

口元の強張りは解け、視線はラスの目をしっかりと見ていた。




ジュリ「私は水の国王女、アクア・ジュリ。あなたたちに協力します。」

ラス「…は??」




ラスは理解することができなかった。

完全に失敗したと思い込んでいた。



ジュリ「王宮へ戻りましょう」








ジュリはラスの手を取り、王宮へと連れて帰った。


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