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神伝物語 第一部  作者: 自認神
第一章
2/13

第二話「王都観光」

ラス「…朝か」



気づけば机の上で寝てしまっていたようだった。


今回の遠征で得られた成果、そしてその帰りに発見した少女についての情報などをまとめているところであった。




謎が多い話ではあった。

水の国王女のアクア・ジュリの失踪の原因については、ある程度闇の国の中ではまとまっていた。


水の国女王のアクア・マリアが過保護であるという情報はかなり前からある。


彼女はかつての王である夫が闇の国に殺された際にひどく悲しみ、残された子供2人を全く外に出そうとしなくなった。


とくにその王女に対しては宮殿の一室からまったく外に出さないほどであったという。


おおよそはそこに対する反抗、窓を突き破り外に出た形跡があったという話からもある通り、突発的な家出のようなものだろう。




しかしその後の形跡がまったく見つからなかった。


水の国は当然のことだが、闇の国も見つけることができれば有利となるため力を入れて捜索したが、草の根一本見つけることができなかった。


そんな中、水の国からの情報もまったくないまま2年が経過した1ヶ月前に、突然見つかったのである。


協力者がいたと考えるのが自然だが、その正体、そしてこのタイミングで発見されるようにした理由が分からない。

考えるだけ時間の無駄であった。




ラス「本人から聞くしかないか…」


重い腰を上げて、王宮へと向かう準備をする。











王宮は、王都の中心から少し外れた丘の上にある。


もとはしがない貴族の邸宅であったが、イスカンダ

ルが王となったときにこちらを王宮とした。


旧王宮は王都の中心にあり、広大で絢爛豪華なもの

であったが、それを窮屈に思ったイスカンダルがこちらに移した。


王宮に着いたラスは、少女の部屋を訪ねる。




ラス「失礼します。四番隊隊長のラスです」

少女「…」

ラス「入ります」


少女は、椅子に座って窓から外を眺めていた。視線を外し、そっとこちらを見る。


ラス「これから王都の中心に向かい、商店などを案内します」

少女「…」


少女はすっと立った。渋るかと思ったが、案外素直に着いてくる様子である。




連れてきた馬に乗せ、王都へと向かう。


ラス「馬の乗り心地は?」


小さく頷いた、どうやら不満はないようである。

それ以上特に話しかけることはせず、静かに王都へと向かった。












王宮から、野原の中にある一本道を南に下ると、城壁囲まれた王都と、その北門が見えてくる。


大きな門をくぐると、一気に人の活気が溢れた。


旧王宮へと向かう道の脇にはとこ狭しに商店が並んでおり、あちこちから話し声が聞こえてくる。


少女「…!」


ラスは少女の驚いている様子を見て少し得意げに思った。


他国の中心街を見たことはないが、自国の街こそがもっとも活気があり優れているという自負があった。


そのまま突き当たりまで行くとまた門があり、潜り抜けた先が旧王宮である。




ラス「ここが旧王宮です」

少女「…?」


旧王宮といっても、現在は一般市民も自由に出入りできるようになっているため、外と変わらないような様子が広がる。

その様子を少し不思議そうに見つめていた。


ラス「旧王宮には上級者の貴族数人住んでいますが、外と変わらず市民も住んでいます。多少貴族相手の商売になるため高級な物が売っていますがね」

少女「…」













旧王宮を一通り見た後、来た門と反対側の門へと向かおうとした時、遠くから青年が大声で声をかけていた。


青年「お!、ラス〜!!」

ラス「あいつは…」


赤い髪の青年が、親しげにこちらに近づいてくる。


青年「久しぶりじゃねぇか!!2ヶ月ぶりか?無事帰ってきて良かったよ」

ラス「まぁなんとかね、色々あったよ」


青年「ん?お前が女の子と一緒にいるなんて珍しいな??」

ラス「この子は四番隊が発見した例の子だ」

青年「あー」


青年は少女へと目を移す。


少女は目を逸らすようにして足元を見つめた。




その様子を見て、青年は大袈裟に振りかぶり、膝をついて手を差し出した。


ロウ「麗しき方、わたくしは二番隊隊長の息子にして三番隊隊長のフィジル・ロウでございます。以後お見知り置きを」

ラス「変な感じで自己紹介をするな」


ロウ「まぁいいだろ〜。お姉さん、仲良くしてね」

ラス「おい」


楽しそうに話す2人を見て、少女も少しばかり口の力が緩んでいるようであった。













ロウ「2人はこれからどこに?」

ラス「これから反対側まで連れていくつもりだ」


ロウ「ほーん。俺はこれから隊のやつらと訓練してくるわ」

ラス「そうか。またな」


ロウ「えーん。さみしいよ〜」

ラス「うるさい」

ロウ「なんてね、お邪魔してすまないねぇ。また後で」

ラス「じゃあな」


ラスと別れた後南門の方へ向かい、旧王宮を出てまた市街地に入った。














ちょうど市街地に入ったところで、ラスが少女へ話しかけようとした。


ラス「この地域はー」

男「あ!、ラス様!」


話し始めたところで、屈強そうな中年の男性が話しかけてきた。




その男を見るやいなや、少女は激しく動揺した。



男「無事帰ってこられて何よりです!心配しておりましたぞ」

ラス「ありがとうございます。遠征自体は特に大規模な戦闘も起こらず問題なかったのですが、他に大きな問題が起きまして…」







ーーー会話し始めたところで、少女は馬から飛び降りて一瞬のうちに人混みの中へとまぎれ逃げていった。




ラス「うそだろ!」

男「あの方は…、」


ラス「彼女はやはり王女で間違い無いですね?」

男「間違いないです。まさかこんなところにいるとは…」


ラス「会話の途中ですまない。失礼します」


ラスは彼女を追った。


宮殿の一室に閉じ込められていたとはいえ王女なだけはある、’力'の使い方は上手く、常人より速く身軽に移動した。


あるいは協力者から教わったか、二年間の潜伏が可能であった理由が伺える。




一瞬見失いかけたが、ラスは闇軍の隊長である。

数分かかったが、行き止まりの路地で少女を捕らえた。


ラス「なぜ逃げたのです」

少女「…」

ラス「彼、元は水の国軍の副隊長です」

少女「…」

ラス「…見覚えがあったのですね」

少女「…」

ラス「ひとまず王宮に戻りましょう」













ラスは少女を連れ、馬を走らせて王宮へと戻らせた。

帰りの道中で少女は特に抵抗しなかった。




王宮に戻ると、そのまま自室まで連れていった。

部屋の中に入れ、椅子に座らせる。


ラス「あの地域は、捕虜となった水軍の兵士などが住まう場所です」

少女「…」


ラス「水の国で彼らについてどう語られているかは知りませんが、我々は彼らを丁重に保護しています。帰国を望むものは大体の場合はそれを許可していますが、ほとんどのものはこのまま闇の国で住むことを望んで居住しています。」

少女「…」


ラス「…皆この300年続く戦争に疲れているのです。特に水の国と闇の国は戦国時代に入ってからのほとんどの時期において対立し、戦争し続けていますが、兵士のほとんどはこれ以上の戦争を望んでいません。」

少女「…」


ラス「互いの’憎しみ'がこの戦争を続けさせていますが、父さんはこの戦争を終わらせようと考えています。」


ラス「我々は極力、敵味方両方の死人を出さないように戦います。敵であろうと傷ついたものは助け、保護します。その結果があの街なのです。」

少女「…」


少女はひどく疲弊しているようであった。

表情には動揺が滲み出ていて、拳を硬く握りしめていた。











ラス「…すいません。すこし話しすぎました。私はここで失礼します」


ラスは部屋の外へと出て、静かにドアを閉めた。





少女はひとり椅子に座り、窓の外へと目をやった。

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