第十二話「全員集合」
話が終わり、王室を出て階段を上がりジュリを部屋まで連れて来た。
ひどく疲れているようで、部屋に着くなりベッドに倒れ込んでしまった。
ラス「…任務から帰ってきて、動きっぱなしで大変でしょう。明日も会議があるので、今日は早めにお休みください」
ジュリ「ねぇ」
ベッドに座り直して、話を続ける。
ジュリ「イスカンダル様が父親と兄を殺めたという話、あれはどういうことなの?」
ラス「…先代と対立した父さんは決闘の末に先代を倒し、王となりました。水の国の殲滅を主張した先代を止めるためだったと言います」
ジュリ「そんなのって、、」
ラス「ただ、兄までも殺めたという話は間違いです。見た人は皆巻き込まれたと言っているので…父さんが直接手を下したわけではないでしょう」
ジュリは一通り話を聞くと、またベットに倒れ込んだ。
仰向きで、天井を見ながら口を開く。
ジュリ「私も、母上を殺さないといけないのかな」
ラス「…?いえ、そんな訳ないでしょう。仮に水の女王が倒されるとしても、それはジュリによってではないはずです」
ジュリ「…そうだね、てか私には実力的にも絶対無理だし」
ゴロンと転がり、うつ伏せになる。
ジュリ「…すごい覚悟だね、イスカンダル様は。肉親に手を掛けてでも、失っても理想のために動けるんだから。私も戦争を終わらせると誓ったけれど、そんな覚悟ない…」
ひどく落ち込んでいるように見えた。
ジュリ「本当に…私は何も分ってなかったよ」
このまま明日になってしまうのはあまり良くないように感じた。何かかけられる言葉はないかとラスは探す。
ベッドの前まで行き、膝を立てて座る。
ラス「…私にも、そんな覚悟はないです」
話は聞いているようだったが、体は動かさない。
ラス「今までの戦闘の中で、数名ほどの敵兵に手を掛けました。」
ラス「どの場面も鮮明に覚えています。初めて人を殺めてしまったときは数日寝れませんでした…」
ラス「今でも、赤の他人一人殺す覚悟もないです」
それを聞いて、ジュリは顔をラスに向けた。
ジュリ「本当に?」
ラス「はい、けれどもそれでいいと父さんは言ってくれました」
ジュリは体を起こし、再びベッドの端に座った。
ラス「私たちや、子供達がそんなものが必要ないようにする、それが私たちが今からやることの大義なんです」
ラス「だから、心配しないで。ジュリはそんなものがなくたって、充分貢献しています」
ジュリ「そうなのかな…」
ラス「はい。今回は、母さんに説教をするくらいの気持ちでいきましょう」
ジュリ「…そうだね、、、いろんな話を聞いて、少し気負いすぎちゃったのかも。結局やることは変わらないのにね。」
ジュリ「…ありがとう、元気づけてくれて」
少し顔色が明るくなった気がした。ジュリは目を見てしっかりとお礼を言ってくれた。
ラス「お礼を言われるようなことじゃないです」
そう言ってラスは立ち上がった。
ドアを開き、外に出る。
ラス「では、これで失礼します」
ジュリ「うん、また明日」
ジュリは手を振っていた。
王宮の門まで戻ると、ロウが待っていた。
ロウ「遅くね?」
ラス「そんなことはないだろ」
ロウ「てめぇジュリに手出したりしてねぇだろうな」
ラス「は?」
冗談めかしてロウが言う。
ロウ「まぁ、そうなっても別に俺は止めたりしねぇよ、お前らお似合いだし」
ラス「冗談はほどほどにな」
ロウ「はーい」
二人並んで歩く。こうやってロウと二人でゆっくり話すのは久しぶりな気がする。
ラス「…なんか懐かしいな、小さい頃はよくこんな感じで遊びに行ったりしてた」
ロウ「お前くらいしか友達いなかったし」
ラス「孤児院、、もうあまり帰りたくはないな」
ロウと会った日の記憶は微かに残っている。
火の国が光の国に滅ぼされたとき、生き残りの難民が闇の国に押し寄せた。ロウはその中の一人だった。
ロウ「…俺には才能があった。そのせいで誰も近寄んなかったが、親父に拾ってもらえた」
ラス「あんまそんな言い方すんなよ」
ロウ「だが事実だろ。だからこそ、俺は親父と、イスカンダル様のために戦うんだ」
さっきまでのおちゃらけた雰囲気とは一変して、鋭い目つきで語る。
ラス「…あんまり抱え込むなよ。ロウは時々、その節があるから」
ロウ「ならてめぇは楽観的すぎだ」
こうなってはあまり話を聞いてくれない。
ロウ「…まぁ、それももうすぐ終わる」
ラス「そうだな、後少しだ」
その後はほとんど話さなかった。
王都の東側、訓練場に直接向いている門の周りには、兵士たちの住まう寮が広がる。
第四部隊の兵士が住む建物の前までついた。
ラスもこの建物の一室に住んでいる。
ラス「ロウはこの後はどうするんだ?」
ロウ「訓練場へ行く。親父も帰ってきてるからな」
訓練場はロウの父さんが管理しており、そこに住んでいる。
ラス「そうか、じゃあまた明日」
ロウ「またな」
ロウと別れた後、自室に帰った。
ーーー
翌日、言われた時間より少し前くらいに会議室に向かった。
時間もあったので、ランニングと筋トレは行く前に済ませた。
王宮の一階、広間を西側に進むと会議室がある。
大きめの机と、そこに椅子が一番奥に一席、あとは向かい合わせで六席置いてあるだけの簡素なところだ。
一番奥の席には、既にイスカンダルが座っていた。
ラス「父さんが時間よりも速い時間に集まっているなんて珍しいですね」
イスカンダル「そうか?まぁ、少しジュリと話をしていてな」
イスカンダルの左手側の一番近くの席にはジュリも座っている。
ジュリ「おはよう」
ラス「おはようございます、ジュリ」
ラスはジュリの隣の席に座った。
ラス「昨日はすいませんでした、父さん。出過ぎたことを聞いてしまいました」
イスカンダルは少し驚いたような顔をしている。
イスカンダル「いや〜そんな謝るようなことじゃない。俺も強く言いすぎた」
イスカンダル「よく考えたら別に話してやってもいいんだが…いや、だがやはり今じゃない、つまらない話だ、士気が下がる」
言葉を探しながらゆっくりと話す。
いつもは端的に短い言葉で伝えるが、普段と違う様子が少しおかしく見える。
ジュリ「こんな感じで私にも謝ってくれたの。なんだからしくなくて可愛いよね」
イスカンダル「何言ってんだ」
ラス「確かに、少し面白いです」
イスカンダル「お前まで…」
ジュリと目を合わせながら笑った。
三人で談笑していると、会議室の扉が開きロウが入ってきた。
その後ろには、かなりの大柄な男が一緒に着いてきている。
ジュリ「ロウ…と、その方は」
ロウ「…ああ、ジュリは初対面だったな」
大柄な男「おお、、この方が」
男は深々と礼をした。
ロウ「この人は俺の親父だ」
ベンケイ「お初にお目にかかります。二番隊隊長のフィジル・ベンケイでありまする」
少し緊張しているようである。
ロウ「言葉変になってんぞ」
イスカンダル「慣れねぇ言葉は使うもんじゃねぇな、ベンケイ」
ベンケイ「いやぁ失敬失敬。王女さまと聞いていささか緊張してました」
ジュリも立ち上がり、膝を曲げて礼をした。
ジュリ「水の国女王のアクア・マリアの娘にして王女の、アクア・ジュリでございます。以後お見知り置きを」
お手本のような挨拶だ。
ベンケイ「おお、これは丁寧にありがとうございます」
ロウ「恥ずかしいから、もう変な挨拶はしないでくれ」
ベンケイ「えぇ、精一杯畏まったつもりなのだが…」
少し嫌がるロウと、空回り気味のベンケイ。いつもの光景だ。
ロウはラスの隣に、ベンケイはイスカンダルの右手側を一席空けて座った。
イスカンダル「これで…残りは後一人か」
ラス「あー、いつも遅いですよね、あの人」
ロウ「"時間"を司る'力'を持つってのに、自分自身は時間にルーズなんよ」
ベンケイ「まぁ、10分くらいは遅れるでしょうな」
ジュリ以外の全員が呆れ顔だ。
ジュリ「時間を司る力?」
ラス「一番隊隊長、クロノ様の使う’力'です。原初の貴族の一族にして’時の力'の使い手。原初の王にも引けを取らない’力'だと言われています。」
ー
世界に’力’が満ち人々が’力’を得たとき、常人のそれとは違う固有の’力’を得た者たちがいた。
その者たちは'力‘を活かし、混沌とした世界を支配するに至った。
その者たちを原初の貴族と呼び、その中で、特にその他の貴族たちを屈服させ頂点に立ったのが原初の王であった。
ーロトスの「歴史」、建国編より引用
ジュリ「原初の貴族は、神の国で原初の王の末裔に支えなければいけないんじゃないの?」
ラス「時の一族だけは例外なんです」
ロウ「ジュリはもう少し歴史を勉強した方がいいな」
ジュリ「うぅ、、」
イスカンダル「まぁ、そう言ってやるな。」
ベンケイ「そうです。それに彼が闇の国に協力するようになったのは割と最近の話。知らなくても仕方のないことだろう」
イスカンダル「言っても20年ほど前の話だがな…まぁ、ほとんど外部にも公表してないからな」
ジュリ「なるほど…」
こうして雑談を続けていると、時間から5分ほど過ぎたところでようやく扉が開いた。
長身でスラッとした姿、顔を見ると随分と若く見える。
クロノ「お、全員お揃いですね。今日は少し早めにきたつもりだったのですが」
ベンケイ「もう5分遅れておりますぞ」
ラス「まぁ、確かにいつもよりは気持ち早いかもですね」
ロウ「てか時計みろよな」
クロノ「常々言っていますが、私は時間に縛られて生きるのが嫌なんですよ」
そう話しながらイスカンダルの隣に移動し、右手側の席に座った。
イスカンダル「よし、これで揃ったな」
イスカンダルは全員に目を向けた。
イスカンダル「では、会議を始める」




