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神伝物語 第一部  作者: 自認神
第一章
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第十話「昔の話」

ラス「朝か…」



いつもよりも眠りが深かった気がする。疲れが出たのだろう。


一ヶ月ほど離れただけであったが、この部屋で朝を迎えるのは久しぶりのように感じた。


いつもならランニングに行くところであるが、疲れもあり気が向かない。



日課のランニングと筋トレはパスして、朝ごはんを食べる。

手短に支度を済ませて、ジュリの元へと向かった。





王都に着いたのは昨日の昼過ぎであった。


捕虜たちを南町に送り届け、それぞれの住まいなどの手続きに明け暮れるとあっという間に夜になった。


ジュリは部下が王宮まで送り届けてくれたらしい。


ラスも良いタイミングで切り上げ、家に帰るとすぐに寝た。




ラス「失礼します」

ジュリ「ちょっとまってね」


部屋の前まで行きいつものように声をかけたが、珍しくまだ支度中のようであった。


少し早く来すぎたか。


ジュリ「入っていいよ」


ジュリは、この国に来てすぐの頃のように椅子に座っていた。前と違うのは、顔はこちらを向いているところだ。


ジュリ「一つ話があるわ」

ラス「なんでしょうか?」


ジュリが手振りをしたので、ラスはジュリが座る椅子の近くまで寄った。


ジュリ「帰りの道中でもあまりちゃんとは話せなかったから、ここで話すね」

ラス「はい」


かなり神妙な面持ちであったので、ラス自身も身構えて聞く。




ジュリ「…私には、親しい仲の人間はほとんどいないの。ずっと王宮の角の部屋にいたから友達もいない。話し相手は兄くらいしかいなかった」


ジュリ「だから、同い年くらいの君やロウは特別なの。身内以外でこんなに話して、時間を共にした人は君たちくらいしかいない」


驚くような話でもなかった。


今まで聞いている話しからすれば想像できる境遇。だが、実際に言葉として聞くとそれなりにインパクトがある。



ジュリ「…だから今は君を、君たちを失うのが怖いの。初めてできた友が私から離れていってしまうのが怖い」


ジュリ「戦闘中に取り乱してしまってごめんなさい。けど、あれはこういう気持ちが逸ってしまったからなの」


ラスは、自分が水の塊から助けられたところを思い返した。

確かにジュリはひどく動揺していた。



ラス「いえ、あれは私が罠に引っかかったのが悪いのです。こちらこそすいませんでした」

ジュリ「そういうことじゃないんだけど…」


ジュリは顔を顰めた。ラスの返答が気に食わなかったらしい。


ジュリ「…とにかく、一つ約束して欲しい」

ラス「はい」


今度は真剣な顔だ。ラスも受け止める準備をする。



ジュリ「私の目の前で、死ぬようなことはしないで。今回の戦争でも、これからも」


ラス「もちろんです」


そんなつもりは毛頭ない。


ラス「逆もです。僕の目の前で死んだりしないでくださいね。」

ジュリ「当たり前よ!」


ジュリは強く返した。







二人は王宮を出発して、王都の南町へ向かった。


水の国元副隊長のオーヤンと、先代の元側近だというポドンに会いに行く。


昨日は忙しくて時間もなかったため、今日に会う約束をしていた。



目的は水の国先代の王について話しを聞くためで、ジュリの願いもあってのことだった。


ラス「ちなみにオーヤン様ともまだ話したことはありませんでしたっけ?」


ジュリ「…まだない。前は逃げてしまったし。この国にいる間、水の国の人間とはほとんど関わってないよ」


少し気まずいような感じで話す。


ジュリ「今までは話すのが怖かったから、何言われるか分からなかったし。けど、今は知りたい、知らなきゃいけないと思ってる」

ラス「…そうですか」


話しているうちに、王都に着いた。



南町の中心、教会へと向かう。


この教会は水の国の捕虜たちの役場的な役割も果たしている。


オーヤンはその立場もあり、捕虜たちのリーダーとなっている。


新しく来た捕虜の住居の準備や、仕事として捕虜達が行う、かつて戦争で被害を受けた南町やその他場所の復興を取り仕切る。


今日もその手続きなどで教会にいるというので、そこを訪ねた。


入り口を入り、目の前に広がる身廊の奥、祭壇の手前の席に一人の男が座っている。

大きな背中の裏で、なにやら紙に目を通しているようであった。



ラス「オーヤン様」

オーヤン「おぉ、ラス様。よくぞご無事で戻られました」


反応すると、スッと席を立った。


ラス「今回は少し骨が折れました」


オーヤン「いえいえ、あのポドン様がなす術がなかったとおっしゃっておりました。流石です」


オーヤンは少し話した後、ジュリに目線を向ける。


オーヤン「…それに王女様。貴方様もご無事で戻られて安心しております。正直戦場に連れて行かれると聞いた時にはその身を案じましたが、杞憂に終わって何よりでございます」


そう言うと、膝をつき礼をした。


ジュリ「…!そんなにかしこまらないでください。国を捨て逃げ出し、挙げ句の果て敵国に協力している身です」


オーヤン「それを言うなら、私も同じようなものであります。国に戻らず、こうして戦わずに平和に過ごしているのですから」


ジュリ「…私のことを恨んでいたりしないのですか?」


オーヤン「そもそも私は王女様が国から逃げ出す前から捕虜になっていたのでその周りのことはあまり良く存じておりません。恨むも何もないでしょう」


その言葉を聞いて、ジュリは少し安心したような表情をした。


オーヤン「それに、王女様はこの戦争を終わらす為の大役を担うと伺っております。私も同じくこの戦争の終結を願っておりますので、できる限りの協力をさせていただきたいと思っております。」


ジュリ「…わかりました。ありがとうございます」


オーヤン「お礼を言われるようなことではありませぬ。」


そう言うと、オーヤンは優しく微笑んだ。







オーヤン「それで、先代様についての話でしたね」

ラス「はい、知ってることを教えてください」


そう言うと、オーヤンは二人を長椅子に座るように誘導した。二人の前に立って話し始める。


オーヤン「先代様がご活躍なされていたのも、もう四半世紀ほど前になってしまいました。当時はまだ私も青年でした」


オーヤン「副隊長でもなく、一般兵の身分だったので、先代のお人柄など、詳しいことは存じておりません。そう言う話は、後ほど来られるポドン様にお伺いするのが良いと思われます」


ポドンはまだ用事が済んでないようで、この場にはまだいない。


オーヤン「先代様は、その名をセインと言います。18才という異例の若さで王位につかれました。水の国の中でもずば抜けた’力’の使い手であり、優れた知力と身体能力を持つまさに完璧な方でありました。」


オーヤン「当時私は20でありましたが、年下の王子様が王位につかれたと聞いてとても驚いたのを覚えております」


オーヤン「闇の王都での戦いによる功績もその理由だと聞いておりますが、先代様がそのことをとても悔いていたというのは有名な話です」


ラス「この南町が焼かれた戦いですね」


オーヤンは少し申し訳なさげな顔をする。


ラス「…!いえ、そんなつもりで言ったわけでは、、余計な口を挟んでしまいすいません」


オーヤン「…先代様と、その他数人の精鋭部隊による強襲。多大な被害がでたことは存じております」


オーヤンは話を続ける。


オーヤン「先代様はそれまでの王たちと違い、戦争の平和的な終結を訴えました。教育を改革し、水の国全体の雰囲気を変えようと奮闘しておられたように私からは見えました。」


オーヤン「特に若者からの支持を強く受けていました。私も含め、戦争にはうんざりしていたのです。」


オーヤンは懐かしむように話していたが、どこか悲しげだ。


オーヤン「しかし、現実はそう上手くはいきません。先代闇の王は特に王都での戦いで失った娘、妻のこともあり取引などに応じるつもりは毛頭なく、さらに猛攻撃を仕掛けてきました。


オーヤン「流石の先代様でも対応するのに精一杯で、戦争はさらに苛烈さを増していきました」


オーヤン「…あの頃はあまり思い出したくないものです。何人もの仲間が死んでいきました、、、同時に同じくらいの年の青年たちを殺めました。」


ラス「…仕方のないことです。戦争とはそういうものですから」

オーヤン「…ありがとうございます」


オーヤンは言葉が詰まるようであった。


オーヤン「申し訳ございません」

ジュリ「無理はなさらないでください」


オーヤン「…いえ、話させていただきたいです。それが私の今の役目でございます」



そういうと、また口を開く。


オーヤン「そんな日々が7年ほど続いたある日でした。忘れもしません、あれは雨の日でした。先代が突然姿を消されたのです」


オーヤン「当時は戦争も大勢がつき、水の国が優勢な状況だったところだったにも関わらずです。そして何日かして入った情報が、闇の国にて捉えられ処刑されたという情報でした」


オーヤン「正直、なぜ先代がそのような行動をとられたのかはわかっておりません。その後は、’水の力'を受け継がれた女王陛下が王位につかれ、今に至ります」


オーヤンは話終わると、深く息を吐いた。







ちょうどそのとき、教会のドアが開かれた。


ポドン「すまない、またせた」

オーヤン「ポドン様!」


ポドンはこちらまで歩いてくると、通路を挟んで反対側の席に勢いよく座る。






ポドン「で、俺に何を聞きたいんだ」

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