学織沙詠①
校門をくぐった。生徒が溢れている。中等部と高等部の生徒が入り混じって、それぞれの校舎に向かう。遅刻からは程遠い時間、友人と喋っている生徒が大半だ。傘を差している私はかなり目立っていた。
まあ、日傘に見えるから不信には思われていないだろうけど。
「あ、あの子学織沙詠じゃない?」
「ほんとだ。めっちゃ可愛いね」
二人、女性の先輩が私を指さしている。高等部の制服だ。
「うわ、マジ美人だな、学織! 学校一どころか市内一じゃね?」
「それは当たり前。母親は元アイドルらしいよ。学園の三大美少女には悪いけど正直比べ物にならないよな。高等部の相馬先輩とか、二年の黛先輩とか小清水とかはまた違った魅力があるけど」
こちらは私と同じ一年生の男子生徒。容姿を比較するような人は苦手だ。間違っても関わりたくない。明け透けな物言いに心の中でため息を吐いた。
四人ともまさか私に聞こえているとは思っていない。私と四人の間には十数メートルの距離がある。そして、四人だけじゃない他の生徒も私に話が聞こえていると知らない。前の女子たちは飼っているペット、隣の男子たちは親についての愚痴、その横の二人は小テストの内容について話している。
別に聴きたいと思っているわけじゃない。ただ、聞こえてくる。音が耳に流れ込んでくる。濁流のごとく浸入してくる。今日はかなり調子がいい。だから、誰がどれを話しているか判る。
普段は走って、玄関に飛び込む。そして、教室で宿題を出してすぐ学習室で籠城する。そのまま朝礼ぎりぎりまでそこで自分に言い聞かせる。一日取り乱さず普通に過ごすように。
幸運なことに今日はそうせず済みそうで私は安堵した。