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階段下の少女  作者: 尾見環
第一章
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学織沙詠②

 三時間目の授業が終わった。あと、半分。自分を鼓舞し、数学の準備に取り掛かる。といっても、昨日のうちに今日の授業で必要な物は全て机に入れておいたので、それを取り出すだけでよかった。忘れないため明日授業で必要になる物を前日のうちに入れておく。それが私の習慣だ。

 授業が始まった。

「では、問題7を学織さんお願いします」

「-4です」

 黒板に赤いチョークで円が描かれた。正解。私もプリントに同じ図形を描く。数分後、プリントを二十五個の赤い丸が彩った。全問正解。

「それでは、新しいプリントを配ります」

 前の人から貰ったプリントを眺めた。さっきまでのより計算に時間がかかりそうな問題だった。

「難しい問題なので他の人と話しても0Kとします。今から十分間、それまでに自分で考えるなり友達に教わるなりして答えを出してください」

 先生の言葉に私は眩暈を覚えた。眩暈は比喩だけど、軽い絶望を味わったのは事実だ。

 タイマーがセットされる。特徴的な機械音。クラスメートたちが一斉に席を立つ。それぞれの友人の許へ寄る。関係ない会話が始まった。

 私は問題を解こうとするも、会話が邪魔する。

「それで彼氏がさ」

「わかるー。ホントひどいよね」

「昨日、親にゲームのことで注意されたんだけど」

「俺だけあの家で」

 耳を抑えようと左手をプリントから離す。手先が安定せず、数字が歪んだ。消しゴムを取るため、左手をペンケースに伸ばす。再び、騒音が脳内をジャックする。大体、その繰り返し。

「えー! 付き合ってるの」

 隣で女子が大声を上げた。今から私の体に起こることを覚り、私は絶望する。

 初めに首が苦しくなった。制服のリボンが触れている部分が猛烈に痛くて、私は首元に手をやる。自分を安心させるよう優しく掴んだ。次に痛みを感じたのはスカートと接している太ももから膝までの広範囲。もちろん、両足だ。ここに関しては何の対処もできないとこれまでの経験からわかっている。なるだけスカートが肌に触れないよう気を付けるほかなかった。幸いなことに痛みを感じる部分は二か所で終わった。ひどいときは人目が無ければのたうち回っている。

 これに悩まされているのが自分だけだと知ったのは小学生に上がってすぐだった。徳星学園は初等部から高等部まで微妙にタイプの違う制服を採用している。忘れもしない入学式。私は泣いていた。制服が痛くて、たくさんの人の声が苦しくて、保護者の香水が辛かった。家に帰って両親にそれを話し、笑われて、初めて自分だけが違うと解った。家の中が温室だったと気づいた。

 タイマーが鳴った。問題は何とか解き終わったものの時間ぎりぎりだった。


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