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ドクター・ジンマのミステリーカルテ Neo

痛み 〜ドクター・ジンマのミステリーカルテ Neo〜

作者: 一飼 安美

 ……医療現場ってのは、妙な体験をたくさんするものだ。オレか?医者じゃねえよ。なる前にやめた。おかしなことばっかりなんでな。漫画の読み過ぎから始まったもんだから特に惜しいとも思わず、今は日銭を稼いで暮らしている。……もうだいぶ前にやめたんだが、人の体を見るとああこうだなあって思うのは常日頃、あーあ、なんて思っても口には出さない。どうかしてると思うわれるのはこっちなもんでな。だから……妙なことが起きると、なんでだろうって考えるんだよ。


 繁華街、歌舞伎町。ガラが悪いという点では国内有数の名所だ。筋物、チンピラ、もっとヤバいヤツも彷徨いてる。そんな場所で、喧嘩を見た。まあ一方的だったから喧嘩とは言わないかもしれない。気になったのは、長かったからだよ。体格も力も数も、何一つ理がないヤツ。ボコられる以前に尻尾を巻いたってそんなもんだろうと誰が見ても思う。そんなの恥ずかしがるのはせいぜいが高校のクラスまでだってのに、逃げないんだよ。へたってりゃ相手はどっかに行くのに、立って平気そうにしている。金もなく身元もわからず、靴を舐めろと凄まれたら今日はもう歯を磨いたなんて宣って、また殴られる。何やってんだか。長いな。最後にもらったのがレバー、流石にうずくまってうめいたまましばらく立ち上がらずに相手の連中はどっかに行っちまった。勝った勝った!って喜んでるんだから連戦連勝なんだろう。オレはそいつの様子を見に行った。肋が折れてたら何かしないとな、と思ったがそうでもない。そいつは息が整うと立ち上がって、お気遣いどうも、なんて素知らぬ顔をした。痛くねえのか?そう聞いたら、そいつが言いやがるんだ。


「痛かったらなんだ?」


 ……痛い。苦しい。もちろんだ。殴られたからな。その痛みを、感じる。肌がひりつき、肉が腫れ上がり、骨が軋む。それを感じていると……「痛い」という感覚と、一緒にいられるのだそうだ。痛みはそのうちに体に溶け、自分の一部に。一緒にいれば、嫌な気もしないのだそうだ。だからっていい気はしないけどな。痛いしよ。聞いたこともない話を当たり前にする男は、きっと世界の隙間に挟まらずに生きてきたのだろう。喧嘩はしない方がいい、百害あって一利なしだ。そう言って男は歌舞伎町に消えていった。遠くにあると思っているのは、オレたちだけかもしれない。

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