起きていても見られる夢
「夢見の森?」
今年で16才になる少女。小倉美夜子は聞き返した。
今は放課後。授業も終わりホームルームが終わって、
クラスには2人の生徒しかいない。
教室の隅の席で帰り支度をしながら、他愛もない雑談を楽しんでいた。
「知らないの美夜子!?」
美夜子の目の前には、友達のカスミが
信じられないっ!といった顔で美夜子を見ていた。
「学校の校舎の西に、小さな森があるでしょ?」
「あそこは夢見の森って言って………
なんでも起きていても夢を見られる森らしいの」。
カスミは無邪気な笑顔でそう語った。
カスミとは中学からの付き合いで、
たまたま同じ高校にも一緒に進学することができ、
奥手で、どちらかというと無口な部類に入る私にとって
数少ない友人のひとりだ。
噂話が大好きな娘で、学校で流行っている噂話を
ときどきこうやって私に教えてくれたりする。
「なにそれウワサ?」
私は尋ねた。
「事実よっ! じ・じ・つッ!」
カスミは目を細めて、うぅーもうっ!といった感じで、
もどかしそうに言った。
「学校中で評判になってて…2組のみっちゃんも
そこでUFOに乗る夢を見たんだって」。
「森を歩いていたら、突然場所が円盤の中に変わっていて、
『あっ』って思った瞬間、そこから意識がぼんやりと薄れていって、
そのあたりから記憶が思い出せないんだって」。
「気がついたら、また元の森の中に居て、体にも異常はなくて、
それ以来怖くなって、その森には近づいていないんだってさ」。
美夜子は黙ってカスミの話に耳を傾けた。
みっちゃんは隣のクラスの友達で、おとなしいおっとりとした女の子だ。
バレー部に所属していて、勉強も熱心に取り組んでいるので、
テストはいつも上位をキープしている。
成績優秀で性格も優しい、芯のしっかりとした女の子だ。
いっしょに学園生活を過ごしていて、
何度みっちゃんに対して「偉いなぁ………」と
心の中で感心したことか。
そんなみっちゃんが「森でUFOに乗る夢を見た」という、
荒唐無稽な話を人に話したということが、
ちょっと信じられなかった。
「他にも不思議な夢を見た生徒が多くいて、
ちょっとしたミステリースポットになっているのよ」。
カスミは澄んだ目で美夜子に話しかけた。
「気になるなら行ってみたら?
美夜子、そういうの好きでしょ」。
「ふ〜〜ん……」
小倉美夜子は目を横に流して、さっき聞いた話を
頭の中で反芻していた。
そんな私の様子を、友人のカスミは、
ちょっぴりイタズラっ子のような笑顔で、
ふふふ…と、見つめていた。