藤波志保は振られる
「早百合、俺は全員を救いたい」
「でも、それでも、行かないで、私だけを見て」
「早百合、もし今不安を感じているなら、不安が消えるまで隣に居てやる。それに、どんなことが起きようと早百合の味方で、ずっと隣いるから。だから今だけは安心して欲しい」
「約束だからね」
「うん、今度美味しいパフェ食べに行こうな」
まるで、告白のようなことを言う。
そして俺は屋上に向かう。
走って行く姿を見ながら早百合は独り言を呟く。
「不安なんてないよ、ただ、私を好きになって欲しいだけなのに」
屋上のドアを勢いよく開ける。
「志保、何してるんだよ」
「私、死のうと思うの」
段差に上る。
「ダメだそんなこと」
「だって、最近拓哉冷たいじゃん、それに私はただ拓哉のことが好きなだけなのに、それだけなのに、現実は邪魔をするの。だからこんな世界生きる意味が無い」
「それは.....」
「拓哉はさ誰が好きなの?」
「そ、それは、分からない」
「じゃあさ、私と付き合わない?」
「え?」
「だって、好きな人いないんでしょ? ならいいじゃん付き合っても」
「それは、できないよ」
「なんでよ、なんで」
「無理だよ、本当に自分の気持ちが分からないんだよ」
「そんなの理由になってないよ、また自分に嘘を付くの?」
「嘘なんて付いていない」
「嘘だよ、だって私のことこの先好きになることある?」
震えている声で言う。
雨が降り始める。
「分からない」
「逃げないで、今の気持ちを言ってよ」
「無理だよ」
「拓哉、今の気持ちを教えてよ」
言うな、駄目だ言ってしまえば関係が終わるかもしれない、それに傷つくかもしれない。
「嫌だ」
逃げるように言う。
「もし、言わないのが優しさと思っているなら、最低だよ。そんな優しさいらないよ」
「俺は、俺は誰も傷ついて欲しくない」
「拓哉、その行動が最も傷つけてるよ」
「教えて、今後私のことを好きになるか、ちゃんと今の気持ちで」
段差を下り、俺のとこに歩いて来る。
そして優しく俺の手を握る。
「俺は」
言うな、言うな。
「俺は志保のことを好きになること」
ダメだ、やめてくれ。傷つけたくない。いやだ、言うな。言うな。
「ない」
志保は泣くのを我慢する。そして、強い瞳で俺を見つめる。
「ありがとう」
そう言い、唇にキスをする。
長い、長いキスを。
決して忘れることないキスを。
そして、早百合は屋上を出て行く。
冷静に判断できない無能な脳。
声を出すこともできない喉。
後ろを振り向くことさえできない無能な体。
それなのに、手の甲にできた傷は痛くて痛くてたまらなかった。
ただ、立って泣くことしかできなかった。
こんな結末になってしまったのも全部自分のせいだと後悔と憎しみを乗せてただ、ずっと泣いた。




