拓哉の告白
俺はあの日を思い出す。
中学二年生冬。
俺に馬乗りをする雪。
「だかさ、私をずっと愛してね」
「は?」
「それで、もし私が死んだらみんなを幸せにしてね」
「何を言ってるんだよ」
「だから、一年は私を愛してね」
「無理に決まってるだろ、だって俺は」
「だーめ、じゃなきゃ終わるよ」
「私を嫌っていいから、それでちゃんと守ってね」
「分かったよ」
「いい子だね」
不気味そうに笑う雪。
俺は死んだ目で雪の目を見つめる。完全に光を宿していない。もう救うことができない。
「ご褒美欲しいかな」
「もう、辞めてくれ」
「分かったよ、拓哉愛してるよ」
これが本当の雪を知った日だ。
「これが本当の雪と出会った日だ」
俺は思い出したことを早百合に言う。
早百合は数秒程固まる。
俺は誰よりも心に深い傷を背負っていた。
「俺は、この日から変わったんだ。雪がこんな風になってしまったのは何か原因があるんじゃないかって、だからこんなことになるなら、こうなるまでに俺が助けてやればいいと思ったんだ、だから俺はみんなを助けるために行動している」
「そうだったんだね」
早百合は優しい声で言う。
当時の俺は何が起きたか分からなかったけど、雪がこうなってしまった原因があるんだと思った。だから俺は救いたかった。雪を救いたかったいつもと同じ明るい性格に戻って欲しかった。
「拓哉、大丈夫だよ」
強く抱きしめられる。冷たく温かい温もりを感じる。
「私はね今の拓哉しか知らないでも、昔の拓哉も今の拓哉も好きだよ、だから安心して」
「...」
俺は続きを話す。酷く残酷で悲しい話を。
「俺の部屋で遊んでいる時、雪はナイフを持って自殺をしようとしてた」
「え?」
「その時雪は言ったんだ、私はもう少しで死ぬってだから私は自殺するのって、俺は必死に止めたんだ。その時思った雪は怪物で化物なんだって」
「化物?」
「そう、怪物に化けている、どこにもいる普通の女の子なんだって思ったんだ、雪は多分死ぬのが怖かったんだ、だから雪はあんなことをしたんだって理解した」
「そして俺は雪の持っているナイフを強く握って俺は言ったんだ」
「俺と付き合ってくれ、俺は雪が好きだって」
「そして雪は、驚いていた。ちょっと泣きながら嬉しそうに俺に抱き付いたよ。でも俺は何も感じなかったよ」
「拓哉?」
「俺はさ、きっと、どこか壊れているんだ。雪は嬉しそうに抱き付いているのに俺だけは何も感じなくて失礼に感じた。雪はこんな嬉しそうなのに、俺だけこんなでいいのかって、そして俺は自分に嘘を付いて雪を好きだと思い込んだ」
「拓哉待って、落ち着いて」
「落ち着いてるよ、これは真実なんだ、それで俺は自分に嘘を付いて雪を好きと思い込んで過ごしてた。なんでこの出来事を忘れていたか分かったよ、俺は自分のしたことを忘れるために、自分に都合の悪い記憶を消したんだ」
「だからさ、雪は何も悪くないんだ。俺が全部悪いんだよ。雪を騙して俺は生きていた。こうすれば雪は救えると思ったから。俺は本当に最低なことをしたと思ってるよ。だから俺は人を好きになる資格も幸せになる資格も生きる資格もないんだ、だから早百合」
「待って拓哉」
「だからさ、早百合は違う人を好きになって幸せになって欲しいいんだ」
「拓哉、話の趣旨が違うよ、今はその話じゃない」
「早百合、俺は本当にクズだよ、雪を騙していたんだ、好きでもないのに付き合っていた。こんなクズを好きにならない方がいい」
「拓哉、私は」
「早百合、ごめんなこんなクズで」
「俺は雪に怯えていたんじゃない、過去の自分に怯えていたんだ。俺のしたことは許される事じゃない」
「俺は感情を持たない怪物だ」
やっぱり俺は幸せになるべき人じゃない。
そして、早百合は手を後ろに引き、勢いよく俺にビンタする。




