70話 初日
俺たちは疲れていたため休むことにした。
寝室は本当に一部屋しかなかった。
「じゃあ、寝よっか」
早百合はベットに飛び込む。
一応ベットは一つだけしかない。これは、なんでだ? 日本語がおかしくなる。緊張しているからだろう。
「さあ、早く来てよ」
ベットを叩く。
「俺もそのベットで寝るのか?」
「いや、なの?」
首を傾ける。こいつ自分の可愛さを分かっている。破壊的な仕草をする。
「嫌っていうか、その、」
「私抱き枕がないと寝れないの」
つまり、俺が抱き枕になるってことだよな。うん、なってやろう。ってなるかよ、なんだよ、抱き枕になるって。
「分かったよ」
仕方ないよな。言い訳をして俺はベットに入る。
ベットの質感は高級ホテルみたいだった。
これで寝たら気持ちいいぞ。でも寝られないと思うけどな。
俺は横になる。早百合と顔を合わせないように反対側を向く。
「なんでこっち向かないの?」
とんでもないこと言ってるぞ。ギリギリ犯罪だ。
「この抱き付かれてる状況で俺は早百合の方を向けると思うか?」
そう、いつの間にか早百合は俺を抱き枕かのように俺に抱き付いていた。
「うん」
できるかよ。
「拓哉~」
早百合の方を向かないからなのか早百合は俺の名前を呼び続ける。
俺を寝かせないつもりか、まあ、寝られないが。
「拓哉~」
分かったよ、向くよ。向くからその甘え声を辞めてくれ。耳元で言われるとムズムズするから。
俺は早百合の方に寝返りをする。
ちっか。なんだこの距離は。
「やっとこっち向いた」
ニッコリと笑う。
いつもとは違う性格なのは理解する。甘えん坊っていうか、愛を表現しているように感じる。
「さすがに近くないか?」
「いいじゃん」
何もよくないよ。逆になんでいいと思ったんだよ。
「私は誰にも譲らないよ」
「何を?」
「えーと」
俺の目をしっかりと見つめ口を開く。
「拓哉を」
照れることなく言う早百合。
それに比べ俺は照れてしまう。
そして、初日は無事に終わる。
いや、全然無事じゃないんだが。




