64話 後一年だけ待つから
「早く食べさしてくれよ」
口を大きく開ける、凜先輩。
「自分で食べれそうですが」
カレーライスをテーブルに置き。凜先輩の前に座る。
「私は熱があるんだぞ? 無理に決まっている」
甘えん坊になっている。
「それでも、キスできるくらい元気ですよね?」
「それは~、あれだ」
見苦し言い訳をする。
「分かりましたよ。ほら」
カレーライスをスプーンで取り、凜先輩の口元に運ぶ。
「ふーふーしないと食べれないよ」
どんだけ甘えたいんだよ。後、甘える内容可愛すぎないか?
カレーライスをふーふと息をかけ熱を逃がす。
「ほら、どうぞ」
「あ~ん、しないと食べれないよ」
「あ~ん」
「おお、美味しいぞ」
もぐもぐと噛み、カレーライスを堪能する。自然と頬が上がっているのがわかる。
「俺って、結構料理上手いですよ」
「じゃあー毎日作って欲しいな」
「できるときに来ますよ」
「毎日が良いな~」
テーブルに腕を置き。腕を縦にして親指に顎を掛ける。
なんて可愛いだ。
「俺は凜先輩の弁当とか食べたいですけどね」
「明日から作ってこようか?」
「でも、大変ですよ」
「なーに拓哉のためなら大変じゃないよ」
「じゃあ、俺もできる限り家に来ますよ」
「交渉成立だ」
いつの間に交渉していたんだ。自然と俺が凜先輩の家に来るように交渉されていた。さすが生徒会長だ。
「体調は大丈夫なんですか?」
「もう大丈夫だよ」
「それは、よかったです」
「なあ、拓哉」
真剣な顔をする。
「来年の夏祭りに行きたいから一年だけ待つよ。だからそれでまでに決めてくれ」
一年か。俺にとっては短いかもしれない、けど凜先輩にとっては長い一年だろう。もっと早く決めたいが、そんな簡単に決めることじゃない。
人は気持ちを踏みにじられた時最も傷つくから。
「分かりました」
「拓哉私は本当に心の底から好きなんだ、誰も頼れる人がいないから、拓哉に依存をしているんじゃない。本当に、本当に心から好きなんだ」
学校では決して見せることはない、いや、見せることができない姿や表情を見せる。
「大丈夫ですよ、知ってますから」
嘘なんてつく余裕がないのは見てわかる。
俺って本当にクズだよな。今でも好きと言う感情がわからない。なんでだろうな。
こんなことを考えてるって知ったら嫌われるかな。ちょっと怖いな。
好きになることは素晴らしいと思っている。恋は魔法だ、人を変える。いい意味でも悪い意味でも、だからこそ恋は魔法なんだ。
けど俺はそんな魔法が効かない。どんなに強い魔法でも必ず防いでしまう。
いつか、魔法にかかるかな。
「だから、拓哉私は待つよ一年間だけ」
「はい」
「本当に罪な男だよ」
頭に手を置き。髪をくしゃくしゃにする。
「さあ、もう遅いぞ帰るんだ」
外はすっかり暗くなっていた。スマホで時刻は確認する。もう20時か。
「あ、後三十分待ってもらっていいですか?」
「まあ、いいけど」
俺は、立ち上がり再び台所に向かう。
これと、これなら、いけるな。
俺は、さっと料理をする。
「何を作っているんだ?」
「チャーハンと、肉巻きピーマンです」
「ほんと家庭的な料理を作るな」
「だって、凜先輩には健康でいてもらわない困りますから」
「惚れること言うね」
俺はさっと作り、皿に移す。
ラップをかける。
「今日の夜の分です」
「ありがとね」
「じゃあ、俺は帰ります」
俺は玄関に向かい、靴を履く。
「拓哉」
後ろを向く。
「大好きだよ」
「知ってます。それじゃ明日」
「うん、明日ね」
俺はドアを開け凜先輩の家を出る。
拓哉がいなくなった家は、ただ叶うことが難しい恋だと知っていても、諦めきれず。ただ、悲しくなっていく現実から目を背けるため泣いている凜先輩がいる。




