57話 人それぞれの人生
癒えることのない深い傷
「私中学の頃陸上部だったの」
重たい口を開く幸は昔のことを喋り出す。後悔と恐怖を交えて。
「ある日、友達と部活をしてたの。ほんの一瞬の出来事だった。私がその友達と喋りながら走ってる時、転んでしまったの。私が転んだせいでその子も転んだの。でね」
「うん、ゆっくりでいいから」
「でね、その子はすぐに立ち上がって、私に向かって手を伸ばしてくれたの。何も怪我がなくてよかったって思った。私も怪我がなくて、多分笑い話になるんだろうなって期待してたの、けどさ、けど」
「その子は次の全治六か月の怪我をしたの、完全に私のせいだって分かった。それなのにその子は笑顔で私を憎んでいなかった。私のせいで最後の大会も出れないのそれなのに、私にずっと笑顔を見せてたの。それから、誰かの怪我を見ただけで心配になってしまうの、明日には大変なことになってるんじゃないかって」
「そっか」
俺じゃどうすることもできない、ただ自分の気持ちとの闘いだから。俺がどうこうする問題じゃない、それなに俺はどうしても助けたい。だから、だから。
「その子とはまだ仲が良いのか?」
「高校に入ってから疎遠になってる」
「じゃあ、今度会いに行こう」
「え? でも」
「大丈夫、俺も行くからさ」
「怖いよ、私をきっと恨んでるよ」
「大丈夫、俺となら必ずなんとかなるから」
「本当に?」
「だって俺は次期生徒会長だぞ?」
「なによそれ」
「一緒に行くから悲し顔なんてしないでくれ、楽しそうにしてる方が似合うから」
「それ、告白?」
「まあ、捉え方次第だな」
「ありがと」
「おう」
少しだけでも楽になれてたらいいな。誰にだって間違いや過ちはある、それを責めたりはしない。だって、その人の人生だから。人生は人それぞれだから。
「みんなお疲れ様、今日はしっかり寝るように明日は早めの飛行機に乗るからな。ちなみに発表は9月の後半だからな」
もう今日で最後のなのかよ。あんまり、楽しかった記憶がないんだが。楽しいとは程遠い出来事ばかりだったな。
「そして、拓哉後で私の所に来るように」
凛先輩が俺の名前を呼ぶ。何かやらかしたのか?不安になる。けど、その不安はすぐに消える。
みんなが自分の部屋に戻って行く。
「凛先輩、俺って何かやらかしましたか?」
「いー、いやその、デート行かないか?」
デ、デ、デ――――――ト?
まさかの誘いに驚く。アメリカデートか、なんかこう、あれだ、楽しみすぎて言葉が出ないやつだこれ。
「もちろん、でももう21時ですよ? それに他の人にバレたら?」
「何を言っておる、私は生徒会長だそ? 言い訳は10個くらいできてるよ」
さすが生徒会長だ。
「どこに行きたいですか?」
「そうだな〜まずは、アメリカのハンバーガーが食べたいな」
なにそれ、可愛すぎないか?
俺たちは誰にもバレないようにホテルを出る。まるで、修学旅行の時先生からバレないよう行動するかのように。
「流石にこの量は」
2500円のハンバーガーを注文したが、流石にこの量はやばすぎじゃね?
ありえないくらい大きい肉に、ありえないくらいでかいパン。チーズに、あれや、これ。それぞれの具が普通の4倍ほどでかい。食えるのかこれ。
俺たちは二人でこのハンバーガーを頼んだが、凛先輩はどれくらい食えるのか。
「まず、半分に分けます?」
「そうだな、その方が食べやすし」
ナイフを取り半分に分ける。
肉の厚さにナイフが通らない。これって終わりかもな。
「いただきます」
それを見た凛先輩は、決心する。
凛先輩は手を合わし、ハンバーガーを持ち口に運ぶ。
大きく口を開き、ガッツリと食いつく。
「う、美味いぞ」
うん、美味いのは分かるだよ、ハンバーガーのデカさの問題をどうするかだよ。
「ほれ、拓哉も」
手で少し切り、ハンバーガーを俺の口に持ってくる。
「あ〜ん」
可愛い仕草をする凛先輩。ハンバーガーよりその可愛さの方が気になって仕方がないんですが?
うっまこのハンバーガー、なんて言うか、これだけで5日間生きて行けると言っていいレベル。
デカさも相俟って。
「もうギブかも」
もぐもぐと食べること10分、俺たちの腹は限界を迎えていた。これ以上食べたら……。
「俺が頑張ります!!」
やっと食べ終わった。食べ終える頃には22時を過ぎていた。
もう、どっかに遊びに行く時間ではない。
悲しそうな顔をしながら、凛先輩は言う。
「もう、時間だな。私の計算ミスだ」
「とんでもないです!凛先輩と一緒にハンバーガーを食べた思い出は消えませんし、めっちゃ楽しかっですよ」
「そうか、なら良かった」
提案を殺すように喋る凛先輩。
俺は、恥ずかしくなりながら言う。
「今度、二人で遊びに行きません?」
「うん」




