55話 幸
「おはよ~」
朝のウザイ目覚ましと同等くらいうざく叫ぶ幸。
「さあ、朝が来たぞ~」
どこからその元気はくるんだよ。
俺たちは、それぞれレポートまとめに取り組んでいた。アメリカにいれるのも後四日。
「お~い、拓哉」
朝からなんでそんなに元気なんだよ。大きく手を振る幸。
今俺たちはグループで行動している。くじ引きで幸とグループになった。
アメリカに来て、やっとゆっくりできる時間だと思ったんだがな。
上野彩音と話合う時間が多かった。上野彩音は雪のお姉さんだ。数日前やっと名前がわかった。
「こっちに来てよ~」
少し先に止まっていて俺に手を振る。元気すぎだろ。小走りで俺は向かう。
「ほら、ここが有名なスポットだよ」
「ここ綺麗だな」
夢とかで想像するような絶景。こんな場所あるのかよ。あまりの綺麗さに言葉を失う。
綺麗って言う言葉が失礼なほど。
「じゃ写真撮ろっか」
肩に手を回してスマホのカメラをつけて、内カメラにする。
「なんでツーショットなんだよ」
「良いじゃん、良いじゃん!」
邪悪な心が綺麗になるほどの、笑顔を見せる。
「はい、チーズ」
俺の笑っている顔と、幸の笑っている顔は比べない方がいいだろう。悲しくなってしまうから。
「拓哉が笑うとこ初めてみたかも」
「確かに、久しく笑ってなかったな」
まあ、色々あったからな。でも本当に久しぶり笑ったかもな。
「笑顔素敵じゃん!もっと笑いなよ」
「幸の方が、いい笑顔だろ」
「え?もしかして狙ってる?」
「狙ってねぇーよ、ただ思っただけ」
「狙ってないか〜」
ちょっとお馬鹿さんのように言う。
「写真撮ってくれない?」
鎖ギリギリな所に立ち、綺麗な絶景をバックに立つ。
「じゃ、私がジャンプしたら撮ってね」
「危なくないか?」
「大丈夫だよ!私はスポーツ万能だから」
何も大丈夫じゃないんだが。
「いくよー」
俺の考えを無視してジャンプし始める。
スマホのカメラ越しからわかる。完全にバランスを崩している。もし後ろに倒れたら終わる。
俺は急いで幸を引っ張る。俺は勢いのまま倒れる。
幸の頭を打たないように俺が下になる。
ザーッと鋭い音が鳴る。腕にたくさんの石が引っかかる。血が出る。いってー。
仰向けで倒れる。頭を浮かせ打たないように。
「大丈夫か?」
「格好良いじゃん」
今言うべきなのはそれじゃないだろ。
幸は俺の上に倒れる。
「今言うべなのはそれじゃないと思うが」
「いや〜つい思っちゃったこと言っちゃって」
そう呟くと幸。
そしてなぜか10分ほど俺の上に乗り続けた。




