53話 告白
彼女の部屋をノックする。
ドアが開く。ドアが開くと同時にいい匂いがする。高級そうな匂い。
「さあ、入って」
綺麗なパジャマに着替えていた。
「失礼します」
ゆっくりと踏み入れた。後悔するのに。
「じゃあ、答えを聞かせて」
「結婚の話をしに来たわけじゃありません」
目の色を変える。深い、深く。黒い目に。光がない目に。
「あっそ」
態度は豹変する。まるでその言葉を待っていたかのように。
「じゃあ、どこから聞きたい?」
「まず、あなたは上野雪のお姉さんですね」
「そうだよ」
そっか、雪のお姉さんか。確かに昔、雪は言っていたな。深呼吸をする。
「一つ聞いても良いですか?」
「いいよ」
「なんで俺に近づいたんですか?」
「地獄に落すためと、なんで雪はお前のことが好きになったか、気になったから」
地獄に落すか。確かに俺には地獄がお似合いだな。
雪が好きになった理由ね。俺には分からないな。けど俺も好きだった雪のことが。
けど、もう、認めるしかない、雪は死んでいいるんだ。
「わかりましたか?雪が俺のことを好きになったか」
「いや、わからないよ。いろんな人を助けて、善人のふりをしている人を好きになるとは」
「違います。俺は全員助けたいんです」
「は? 全員? 雪を助けることができなかったくせに、何が助けるだ」
雪は病気で亡くなった。しかし学校では変な噂が流れた。
俺と雪と成瀬は仲が良かった。三人で一人みたいな関係だった。ある日、雪が亡くなった後、ある噂が流れた。
『成瀬が雪を殺した』
みたいな噂が流れた。根の葉もない噂だ。当然成瀬は否定した。けど、中学生は噂の真実なんてどうでもよかった。ただ、人を叩く道具が欲しかった。
だから、誰でもよかった。それなら俺が犠牲になってやる。そう思った。
そして、雪についても噂が流れた。
俺と雪が家に入っていく写真がみんなに広がった。たかが家に入っていくだけだろ、こんな写真意味ないと思ってた。それなのに、みんなは馬鹿だった。
『雪は色気を使っているバカ女だった』
と噂が流れた。
あまりにも意味が分からない。何を言ってるんだって思った。この写真を持っている人を探し続けた。けどいくら探してもいなかった。
ある日、クラスの男子が雪のこと馬鹿にしていた。あの女ってクズだよな~って言っていた。
俺は自分を忘れて怒った。無我夢中で。
そして、その男子を殺しかけた。大切な人を馬鹿にされ酷い噂が流され、成瀬までが酷い扱をされた。それが、むかついた。怒りが沸いた。
俺の殴っている写真は広がった。だから、高校は同級生が少ない高校に入学しようと思った。そして、俺の目の前に雪の、お姉さんがいる。これは、俺の罰だ。
「いくら、助けようと頑張りましたが無理でした」
「嘘を、嘘をつくな」
隣に聞こえそうなくらい大きい声を出す。
「嘘じゃありません。本当になにもできなかったんです」
「じゃあ、お前が死んで、心臓を提供すればよかっただろ」
何を言ってるんだよ。話が飛び過ぎだ。
「本当にそんなこと言ってるんですか?」
「ああ、お前なんか死んでも誰も悲しまない」
大切な家族を失っている。もう、家族以外全員邪魔なんだろう。だって、大切な家族は生きていないから。
「そんなの、無理ですよ」
「ほら、お前は偽善者だ」
「それは、話が飛び過ぎだ」
「飛び過ぎじゃない。お前が偽善者だ」
「...」
俺はどこで間違えたんだ。雪と出逢ったこと?
「お前が死んで、雪を生き返さしてくれ」
悲しい顔をする。
俺はやっぱり間違ってたんだ、あの選択は間違ってたよ環奈。雪の見舞いに行ったとき、雪は自殺しようとしてた。もう後がないんだって泣いて叫んでいた。そして雪は俺に言ってきた。
一緒に死のうよ。って俺は何も言えなかった。中学生ではあまりにも重たかった。何が正解で何が不正解か分からなかった。だから俺は逃げた、何も言わないまま。
きっとこの話は環奈も知ってるんだろう。いや、環奈しか知らないだろう。
あの時、俺も死ねばよかったのかな。
崩れていく心。痛みが感じなくなっていく心。
「全部俺が悪いのか?」
「そうだ、お前さえ居なければ、雪は死ぬことはなかった」
そんなの嘘だよ。あれは運命だったんだ。誰がいて、誰がいなくても。変わらないんだ。そんなことで変わるなら俺はすぐに死んでやるよ。
「それは、本当に思ってるのか?」
「思ってるよ、相馬から君は人を殺しかけてる写真と、雪はお前の家に入っていく写真をたまたま見せてもらったよ」
「は?」
たまたまって、俺のことを調べてるくせに何がたまたまだよ。自分に都合が悪いのは消去するくせに。
どうせ、俺が相馬を殴ったていう噂を聞いて相馬に近づいたんだろう。
「お前はクズだよ。人を殺しかけて、雪まで殺してる」
全部違う。また、相馬から真実とは違うことを話されてる。もう、否定する力もない。
「全部違いますよ。雪は病気で亡くなったんです。そして、俺が殺しかけた男子は...」
「違う、お前は悪魔だ、だからなんも罪のない雪を殺した。人の心を持っていない悪魔が」
ダメだ、話が通じない。もう、帰ろうこれ以上は俺がもたない。
「いいか、お前は雪のことなんて好きじゃ..」
俺は、彼女の胸倉を掴む。
「どうした、また殺しかけるか?」
うす笑いを浮かべる。彼女は、大切な人を失って壊れている。家族を失ってるのに、俺はのうのうと生きている。そんな現実を憎んでいるんだろう。
「俺が、俺が何も感じないと思ってるんですか」
「思ってるよ、お前さえ居なければ」
「それは、違う。俺だって悲しいよ。なんで雪なんだって思ったよ。俺だって雪が好きだよ」
「ふざけるな、何が好きだ。お前なんかに雪を好きになれる資格なんてない」
視界がぼやける。もうやめてくれ。胸倉から手を放し、俺はおぼつかない足で後ろに歩く。
その時ドアが開く。
環奈や他の人たちがいる。環奈は部屋に入ってくる。
そして、彼女に向かってビンタをする。
「最低ね」
環奈はそれだけ言い、俺に近寄ってくる。
優しくハグをする。全てを包みこむようなハグを。
優しく言う。
「頑張ったね」
泣きまくる。俺は何も頑張ってない。
「大丈夫、全部分かるから、大丈夫」
背中をポンポンと叩く。
そして俺はそっと、眠る。




