52話 必ず後悔するだろう
機内から見える景色は普通と違っていて、全く飽きなかった。飽きないというのは嘘で景色を眺めるしかやることがないんだ。
スマホに電源を入れ、ライトノベルを読み始める。確か前に買っていたやつだよな。すっかり読み忘れていた。ラッキー。
待てよ、タイトルが。なんでこれ買ってるんだよ。
『キス魔からは逃げることは絶対にできない!キス逃げ』
絶対に買うのミスってるよ。過去の俺は何をしてるんだよ。いや、当時はキス魔ってなんだ? 的な感じで気になってたんだろうな。
こんな数か月でキスされることなんて知らないだろうな~。
てか、このままじゃだめだよな。いろんな人からキスされるのってどうなんだ。俺はまだ高校生だぞ? さすがにちょっと。
もー頭を抱えながら、買ったキス逃げを読み始める。
このラノベ神だぞ。誰かにおすすめしてえ。いや、できるかよおすすめなんて。おすすめしたらお前ってこんな本読むんだって引かれるな。
「間もなく到着いたします。シートベルトを着用してください」
アナウンスが流れる。
みんなはだんだんと起きてシートベルトをする。
俺だけじゃね寝てないの。志保のこともあり、この本もあり。全く寝るっていう選択肢がなかったわ。
まあ、なんとかなるだろう。
荷物の審査も終え、やっと空港から出ることに。
「inアメリカ――」
腕を伸ばしながら大きな声で叫ぶ幸。
「あんまり浮かれるなよ」
三年の厳しそうな先輩が言う。あのー多分一番楽しみしてるのは先輩だと思いますよ。
浮かれてる服に、アメリカ風のサングラス。
「さあ、並んでくれ」
凜先輩が声掛けを始める。それを聞き俺たちは並び始める。
一年の列。
二年の列。
三年の列。
三年の列に結婚を命令してきた彼女が並んでいた。あの人先輩かよ。
先輩は俺の方を向き呟く。
「ホテルで答え聞かしてね」
可愛い仕草をする。答え? あの結婚の話かよ。
「分かりました」
「楽しみにしとくよ」
俺たちはバスに乗ってホテルに移動する。
もちろん、バスの中は地獄である。
「さっきから手を握りすぎだと思うですけど?」
「あら、そう?」
大人の色っぽさを出し。綺麗な口紅をしている。
「本当になんでこんなことをしてるんですか?」
「別れてから寂しいの」
高校生の言うことではない。大人が言いそうな発言だ。禁断の恋みたいな雰囲気をどこからか感じる。まして、禁断の恋など一切していない。
「けど、どうして俺なんですか?」
「なんとなく」
「怒りますよ?」
「君は怒れないよ」
なんだよそれ、実際に怒る気持ちなどなかった。ただ、一刻でも早く花梨が立ち直れるように俺が支えるしかない。人間は支え合いをしないと生きていけない。
俺の今していることは、優しいとは言えないだろう。まして、今やっていることはクズみたいなもんだ。凜先輩の気持ちや、琴音の気持ち、早百合の気持ち、志保の気持ち。それだすべての気持ちを俺は無視をしている。本当にクズだ。
「俺ってクズですよ?」
「知ってるよ、いろんな女を弄んでる」
それは、違くね? いや本当だな。
「まあ、それはそうかもな、けど俺は助けを求めてる人を助けます。男女関係なく」
「あら、じゃあ私も助けてくれるの?」
「今、この状況で助けてないと思いますか?」
繋いである手。力を入れたらすぐに抜くことだってできる。けど、花梨の手はあまりにも冷たい。
「悪い男ね」
「そりゃ、お互い様」
「ふふ」
椅子が蹴られる感覚がしたが今は気にしない。だって気にしたら終わるから。
「今日はもう遅いから明日から自由時間で、好きなように調べて、生徒会長になれるように頑張りたまえ」
凜先輩が言う。
「うおおおおおおおお」
一致団結するかのように、俺たちは叫ぶ。ちなみにホテルのロビーで。
一年生用のホテルの階に行く。
俺と成瀬は同じ部屋である。
「今日は疲れたな」
ベットに飛び込む成瀬。
「そうだな」
「なんか浮かない顔してるな」
「まあ、行かなきゃいけない所がるんだよ」
「あーあの結婚がどうとか」
「そう、ほらちょうど」
成瀬にスマホを見せる。電話の名前は彼女になっている。彼女は名前を隠している。不安になりながら電話に出る。
「もしもし」
「拓哉、早く来ないとまた失うよ」
それだけ言い電話が切られる。
力いっぱいにスマホを握る。高鳴る胸。脈が速くなる。心臓の鼓動が速くなる。
深い、深い深呼吸をする。
行こう。




