51話 流れて行く
「これは、どういうことなの?」
志保は首を傾けて聞いてくる。
「あのー幼稚園の頃に俺が彼女に言ったみたいで」
なんで俺は嘘をついてるだよ。
「そっか!じゃー大丈夫か」
絶対大丈夫じゃない。
重たい足のまま飛行機に乗る。てか、なんで志保はバスでキスされたことを知ってるだよ。
ゾッと震える。もしかして一緒のバスに乗っていたのか。
よし、俺は何も知らない!!
指定されている席に座る。飛行機はなんと貸切だ。さすが名門高校だな。名門高校でも飛行機貸切はおかしいけど。
飛行機内はざっと100席ほどある。俺たちは合計36人が来ている。最初一年と二年だけだったが、三年も参加することになった。
ちなみにまだ俺が次期生徒会です。窓から見える景色を眺めながら、ドヤ顔をする。
100席本当にあるんだよな?
俺の横に環奈が座り。前には、琴音、志保が座っている。後ろには、早百合、花梨が座っている。
すみません事件です。あのー誰か〜いませんか?
俺の声は届かず飛行機は動き出す。
「拓哉っちってまだ雪のこと好きなの?」
飛行機内で話すことではない、けどそんなこと、お構いなしに環奈は聞いてくる。
「分からないな」
「じゃー結婚しても良いと思うけど」
「ちょっと待って」
「冗談だよ」
「はー、よかったよ」
環奈は真剣な顔をする。まっすぐな眼差しを。
「なあ、拓哉っち、いつか忘れるのかな」
「いや、忘れることはないな」
「それは、償いか?」
「違うよ、忘れたくないんだ」
「そっか」
鞄からイヤホンを取り出し。耳に着ける。
「しばらく寝るよ」
しばらくって、飛行時間どれくらいなんだよ。
「今日ってどこ行くんだっけ?」
「アメリカ」
そう言い。イヤホンを着ける。
ア、アメリカ?まさか、そこまで行くとは思ってもみなかった。てかなんでアメリカやねん。
雲を突っ切る飛行機。少し揺れる機内。なんか不安だ。飛行機が心配とかじゃない、何か、何かが心配だ。
こっからアメリカまで飛行時間は約10時間弱。
何しようかな。暇だ。スマホは使えないし。音楽も聴くにしてもイヤホン無いし。はあ、暇だ。
ただ、外の景色だけを眺めとくか。
はあ、トイレに行くか。
飛行機が飛んでから7時間が経過していた。さすがに腰が痛いな。
確かトイレはこっち側だよな。
右側に進み、共同トイレを見つける。よかったカギは閉まってない。さっきからお腹が激しい痛みをしていた。多分あれだ。
取っ手口に手を掛ける。
ザーと音が鳴りながらドアを開ける。
全開に開くと同時に、中に人がいるのが見えた。
俺の服を引っ張る。
俺はトイレの中に入る、二人ではあまりにも狭すぎるトイレに。
カギを閉められる。
「やっと、二人になれた」
壁ドンをする。飛行機で壁ドンって何?これが、エモいってやつか!!
「じゃあ、説明と、キスしてもらおうかな」
絶対に俺のことをずっと待っていた志保が壁ドンをしながら言ってくる。
「まずはここからでようか」
「いいよ、トイレしても」
いいわけない、絶対にダメ。逆になんでいいんだよ。
「それは、ちょっと」
「大丈夫だよ、全部受け止めるから」
「本当にお腹が痛いんだ」
「だーかーら、やってもいいよ」
もう完全に愛が溢れていた。全部受け止めるよ的な感じがする。
「本当にお腹が痛くて..」
俺が喋っているのに物理的に黙らす。
「これならいいよ」
そう言い。志保はトイレから出て行く。




