35話 キス
太陽の明るさに負けないくらい照れている。
「そのだな、私にしつこい男子がいるんだ、だから、私の彼氏役をして欲しい」
そういうことか、確かにしつこい男子とかよくいるもんな。でも、どうして俺なんだ? 噂もあるし。
「でも、どうして俺なんですか?」
「私は君が良いんだ」
顔は見えないのに、どこ照れてるように見えた。後、俺も照れている。
「え、えーと、分かりました」
「あ、ありがとう」
「その、期間はいつまでなんですか?」
「しつこい男子が諦めたら、終わりにしよう」
「わかりました」
凜先輩は体を起こし、俺の方を向く。そして、頬にキスをする。
「付き合った記念だ」
え、えええええええええ、付き合った記念って? え? 付き合ったって? 役だよね? 俺の頭はパンクする。
まさか、世のカップルは付き合った初日にキスをするのか? いや、絶対に先輩がおかしいだけだ。
俺は、数秒ほど固まる。
「さて、楽しむぞ!拓哉」
そう言い、俺の手を引っ張る。いつもと違って、心の底から楽しんでるような表情をする。
俺たちは海に入る。
夏の海は、夏なんて感じさせないほど冷たい。
凜先輩は、俺に水をかけてくる。
そして、俺も水をかける。
「ちょ、私の負けだ~」
俺は、見事に勝利する。
「俺の勝ちですね」
その時、また水をかけられる。
なんだ、この、青春は。最高すぎだろ、しかも、相手は生徒会長の凜先輩だぞ。俺たちは、時間なんか忘れて遊びつくした。
いつの間にか、時刻は15時になっていた。
砂浜のベンチに俺たちは座る。
横を見ると、濡れている髪も、美しく、目の保養だった。本当に、非の打ち所が無い。
「なあ、何か食べにいかないか?」
「確かに、お腹空きましたね」
「近くにいい店ないかな?」
「確か、近くにカフェができたとか?」
「おお、さすが拓哉、そういうの調べてるのポイント高いぞ」
俺の肩をポンポンと叩く。その、仕草は、本当に魅力的すぎる。世の男子ならすぐに好きになってしまうだろう。
「でも、うちの高校の生徒がいるかもですよ?」
「なーに、私たちは付き合ってるんだぞ?」
普通のことみたいに言わないで、その、俺の心がもたないから。
「は、はい」
「じゃあ、着替えに行ってくるよ」
ニッコリと笑い、凜先輩は更衣室に向かった。
俺は反対方向の更衣室に向かう。
更衣室に向かっている時、ふと、横を見る。
「楽しい匂いがする」
優香が俺の横にいつの間にかいた。優香は代表者会議の時にいた、あの優香だ。
てか、本当に距離が近いよ。
「距離近くない?」
「あ、ごめん」
そう言い、2分ほど俺を見つめる。
後ろから声が聞こえる。
「優香~なにしてる...」
この声は、あの時会議にいた、環奈だ。
「って、拓哉っちじゃん」
俺に飛びつく環奈。
俺の、腕に何かが当たる。何かがな。知らない。本当に何かが。
「ああ、ごめん、ごめん」
顔の前で手を合わせて言う。
環奈の水着は男が好きそうなランキング一位だと思う。
それに比べて、優香は普通の水着を着ている。
って、俺は何を観察してるんだよ、キモすぎる。
「俺、待ち合わせしてるから、また、今度ね」
「ええーそうなの?もーじゃあ、連絡しとくから」
「ああ」
「じゃあねー拓哉っち」
「じゃあねの匂いがする」
「あ、ああ、じゃあ」
俺はそれだけ言い、歩き始める。てか、なんで俺の連絡先知ってるんだよ、流失してるのかよ。それになんで俺のこと知ってるんだよ。
不思議でしかないけど、今は更衣室に向かおう。
俺はすぐに着替えて、さっきの場所に戻った。
「すみません、遅れました」
「ふん、二時間の遅れも許せるのが彼女だよ」
あの、多分違います。
「さて、行きますか」
俺は、凜先輩に手を伸ばす。
強く手を握り、凜先輩を引っ張る。
そして、俺たちは近くのカフェに向かって歩き始めた。ゆっくりと。
新しくオープンしたカフェは、とても綺麗で居心地がよく人気になりそうな雰囲気を感じた。
やはり、高校生が多く、うちの高校の生徒も多くいた。
「やっぱり、人多いですね」
「そうだね」
俺たちは、空いてる席に座る。
凜先輩はどこか落ち着いていない様子だった。
「どうしました?」
「い、いや」
微かに震えている。
「あれ、凜じゃん。今日忙しいってたのに?なんでいるの?」
後ろを向くと、イケメンが喋っていた。雑誌とかに載ってるモデルと同じくらいイケメンだ。
凜先輩は下を向く。どうやら、しつこい男子っていうのはコイツらしい。
男は、俺たちの席に近づく。
「あれ、お前って確か、相馬殴って、女にちょっかいしてるクズって有名な拓哉って奴だよな?」
「そうですけど、なにか?」
俺は男の前に立つ。
「もしかして、凜にまで、ちょっかいしてるの?クズやな~」
ごみを見ているような目で見る。
俺たちは付き合ってるんだよって言ったら、凜先輩の評判が落ちてしまう。それは、だめだ。じゃあ、どうするかって、クズになるしかないんだよ。
「そうだけど?問題あるの?」
悪魔みたいに笑う。
男は、手に持ってるコーヒーを俺に投げる。
「お前、クズだな」
人にコーヒー投げる方がクズだと思いますよ。後、お前嫌われてるからな。
俺は、男に近寄り耳元で言う。
「もし、次に凜先輩に近づいたら、相馬みたいに殴ってやるよ」
それだけ、言うと。男は怯えて走って行った。コーヒー投げておいて、逃げるスピード早過ぎ。
でも、これで、あいつは近づくことはなくなるだろう。多分俺の噂が流れるけど、安いもんだ。
店内の客は俺たちしか見ていなかった。俺たちは、急いで店を出る。さすがに、人が多すぎた。
凜先輩は外に出ても、ずっと無言だった。
近くのベンチに座る。
「大丈夫か拓哉?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「すまない」
「本当に大丈夫ですよ」
「ありがとう」
「はい」
沈黙が続く。
数十分経ち、凜先輩は自分の顔を叩く。
「よし、元気が出てきたぞ!!」
「それは、よかったです」
「本当にありがとうな」
「はい」
「やっぱり拓哉に頼って良かったよ」
あの男はもう諦めたと思う、つまり俺たちの関係も一日で終わりだ。
「もう、彼氏役は終わりですね」
薄暗くなっていく、空を眺めながら言う。
凜先輩は、数分無言になる。
そして、突然立ち上がる。
俺の前に立つ。
そして、キスをする。今度は頬じゃなくて。唇に。
「本当に好きだ」




