32話 俺は多分世界で一番バカだと思う。だがそれもまたいいと思う
教室は俺と直美の二人だけだった。他のメンバーは帰ってもらうことにした。志保は納得がいっていないようだったけど、多分大丈夫。多分。
教室は夏だというのに暑さなんて忘れていて、静かで、小さな風が吹いていた。俺は、直美の横に座り、口を開ける。
「無理に話さなくてもいいんだよ」
「大丈夫、ちゃんと話す」
眼鏡をクイと上げる。
そして、直美は語り始める。
「私は、あなたに嫉妬をしていたの、いつも学年一位で、次期生徒会長も決まっていて、羨ましかった。そして、憎んだ。あなたさえいなければ私が学年一で生徒会長なのに、それを邪魔したあなたを憎んだ」
嫉妬か、人間の感情はよくできている、喜び、怒り、悲しみ、楽しい、などの喜怒哀楽がよくできている。けど、人間はあまりよくできていない、嫉妬深い人や、愛が重い人、よく泣く人、毎日が元気な人、などの、様々な人がいる。
けど、一番醜いのは嫉妬だ。これは、絶対だ。嫉妬ほど醜いのはない。
だけど、それは違うと思うんだよ、だって、人間は全員が同じ感性ではないし、同じ顔でも身長でもない、みんな違う。それなのに、嫉妬深い人は醜いと断言するのは違うと俺は思うんだ。その人なりの考え方や、その人なりの感情があるのは当たり前だ。だから、嫉妬は醜いと断言するのは違う。
「それでね、私は嫉妬深いの、あの人は私より頭が良いのが気に食わなかった、だから、私はあなたに罠を仕掛けたの、あなたの性格も知っていたから」
「うん」
「それで、あなたを落として私が学年一位になってやるって、けど、それからだった、私は自分が抑えきれなかった。あなたをもっと地獄に落せば私が生徒会長になれるんじゃないかって思った。だから、嘘の情報を生徒会長に告発したの。それで、君が生徒会を追放されるように仕向けた。それで、今日様子を見に行った時、あなたを見た。どこか怒っているように見えた。私は怖くて生徒会室に逃げたの、その時だった、窓ガラスが割れて、あなたの左手がガラスが刺さっていて、血だらけになっていたの、その時に気づいたの、私は馬鹿なことをしたって、私の嫉妬で彼を追い込んでしまった。私の嫉妬で、私の快楽のために、彼が犠牲になっているって」
顔を下に向ける直美。
「そっか」
なんていえばわからない。ただ、思っていることを言う。
「じゃあ、今度からはライバルだな、俺は絶対に学年一位を譲らないよ」
下を向き続ける直美。俺はただ、待つだけだ。自分のした罪に向き合い、前を向いて歩くしか道はないから。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「大丈夫だよ」
「ごめんなさい、本当に、本当にごめんなさい」
「大丈夫だよ、わかった、許すからさ、俺とさ、暇なとき勉強をしようよ。俺たちライバルなんだからさ」
「う、うん」
少し戸惑いながらも納得をする。
なんで、ここまで嫉妬深くなってしまったのか気になるけど、今聞くべきじゃない。
時間はたくさんある、だって、俺たちはこれからライバルで一緒に勉強をして、競い合う親友だから。
その後は、俺たちは学校を出て、近くの図書館に行った。
勉強スペースに座り、俺たちは勉強を始める。
俺はふと横を見る。
何故か、俺の隣に、嫉妬の感情なんてなく、まっすぐに勉強をしている、容姿端麗で嫉妬深かった、九条直美が俺の隣で勉強をしている。




