26話 依存
「だからさ、君の絶望のしてる顔が見たかったのはストレス発散でもあったの、私を弄んだ罪と、私の愛から目を背けた罪」
意味の分からないことを言う志保。正直、それはどうでもよかった。なんとも思っていないから。
俺は考える。
人間はすぐに変わることなんてできない、例えば好きだった人が、他の人と付き合ってしまったとき、もちろん悲しんで、諦める。けど、すぐに諦めることができるか?と聞かれると、うん、とは言えないだろう。
志保はまさしくそれだ、好きすぎるあまりに、諦めることができなかった。
だから、好きだった人に似ている俺に依存してる。
依存してるって言い方は違うな、依存するしかない。だって、諦めることができないから。
俺は、志保の前に座る。
「俺は、真治拓哉だよ。君の好きだった人じゃない」
「わかるよ、かわかってるよ」
「けどさ、好きなんだよ、今でも彼がずっと、彼が好きだから似ている君も好きなの。もうさ、私はおかしいの」
「おかしくないよ」
「おかしいよ」
「じゃあ、俺を好きになれ」
「頭おかしくなったの?」
「いや、正気だよ。俺を好きになれ」
「好きになる理由がないじゃん」
「好きになるのに理由なんていらないんじゃないのか?」
「いらないけどさ、拓哉は私のこと好きじゃないじゃん」
「そうだよ、好きではない。けどさ、これ以上過去を引きずってる暇はないよ」
俺は、今最低なことを言っている。でも、これしかないんだよ。今の彼女を救えるのは目を覚ますしか方法がない。だから、俺がクズになる。もともと、最低辺だから。
「なにそれ?私の何がわかるの?」
「わかるよ」
「わかってたまるか」
大きい声で叫ぶ志保。
「わかるよ、彼に依存するんじゃなくて、俺に依存してくれ」
「何よそれ」
「大丈夫、俺は裏切らない」
「そんなはずないよ、拓哉だって裏切る、だって似てるもん、性格も、顔も、彼と似てるの」
「似てないよ、俺は、真治拓哉だ。君が好きな人とは別人、目を覚ますんだ志保」
「.......」
「大丈夫、依存することは悪くはない、ただ、志保が依存している彼はクズだ。そんなクズより、俺を、真治拓哉に依存してくれ。必ず、必ず、幸せにするから」
大泣きをする志保をただ見つめて待っていることしかできない。だって、後は己との闘いだから。
「でも、さ、私は、クズだよ、何も関係もない君を地獄に落とした。ただ、彼と似ていたから。こんなに、クズだよ。君の隣にいてもいいの?」
「いいよ、だけどさ、俺が幸せにするから、もう、ありのままでいてくれ、自分を隠さないで好きなように生きよう。そしてさ、あのクズを忘れよう」
「最低だよ」
志保は呼吸を忘れるほど、泣いている。
「私を助けてよ、私を幸せにしてよ、私の隣にいてよ、私とずっと友達でいてよ、私の愛をもらってよ、私の、私の、」
「絶対に助けるし、幸せにするし、隣にもいる、ずっと親友でもいる、愛ももうら、だから、俺に依存してくれ」
高校一年生と思えないセリフを吐いている。ちょっと、恥ずかしいよ。
「わかったよ、忘れるよ。ありがとね、真治拓哉」
前を向く顔をしている志保に、少しだけ安心する。
「じゃあ、お昼ご飯食べに行くか」
「う、うん」
部屋から出るとき、壁に貼ってある俺の写真が風で剝がれていく。
夏で風はさほど強くないのに。
俺たちは、家を出て店に向かった。
なぜか、いや、ちがうな。
楽しそうで、誰にでも譲らないように、俺の腕を抱きしめてる藤波志保が俺の隣にいる。
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