表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/91

23話 愛の証

0を1にするのは難しいと思う。じゃあ、1から0にするのは?俺は簡単だと思う、例えば、新しい友達ができたとして、喧嘩をする。それだけで、友情は0になってしまう。それに比べて、0から1にするのは難しい。

 目を覚めると、まだ、志保は横で寝ていた。

 俺は、志保を見つめながら、考える。彼女を救える方法は果たしてあるのか。

 俺は、志保にバレないように台所に向かう。

 冷蔵庫を開けると、卵や、野菜、冷凍パスタ、など様々な食品があった。

 俺は、オムライスの気分だったので、オムライスを作ることにした。

 オムライスを、志保のいる部屋に持っていき、二人で食べようと考えた。

 俺は、床に座り。ただ、志保が起きるまで待った。

 10分、40分、いくら待っても志保は起きなかった。

 スマホで時刻を確認する。10時か、暇だな。

 壁に貼られている、俺の写真を見る。なんで俺なんだ?

 俺は、オムライスを食べて、志保が目を覚ますのを待った。

 一時間後、志保は目覚めた。

「おはようだね、拓哉」

「ああ、オムライス作ったから食べて、遊びに行こう」

「え??私のために作ってくれたの、ありがとう」

「結構美味しいぞ」

「隠し味入れたの?」

「いや?」

「じゃあ、いらない」

「思いが入ってるよ」

「なら、食べる」

えええ、どういうことですか?まあ、食べてくれるならいいだろう。

「この、ナイフ回収するぞ」

「うん」

俺は、ナイフが入ってる袋を鞄に入れた。

「美味しいか?」

「うん」

 安心してるようだった。腕には傷があって、見ているだけで悲しい気持ちになる。

 人は、ストレスや不安が限界を迎えると心が壊れる。自分を傷つけるか、人を傷つけるかの二択だ。

 どっちも正しくはない。そもそも、心が壊れる環境が悪いと思う。

「じゃあ、俺風呂入ってくるから」

「うん」

 どこか怪しい雰囲気を感じたが、多分大丈夫だろう。

異性の家での風呂はもちろん初めてで緊張した。どんな緊張って?わからない、ただ、緊張した。

俺は、体や髪を急いで洗い、風呂場を出た。

部屋に着くとすべてが変わっていた。

志保の腕には血がついていた

「お、おいどうした?」

手の甲を切っていた。

「いや」

「ねえ、私のこと好き?」

どうしたんだよ、急に。

「俺は、好きではない。だけど、親友だ」

「親友ってなに?親友で何番目?」

「何番目もなにもないだろ」

「答えてよ」

「いったい、どうしたんだよ?何が君を追い込んでるだ?教えてくれよ」

「教えたら、好きになってくれるの?愛をくれるの?想いをくれるの?」

「わからないよ、でも、救える」

「じゃあ、いらないよ」

 俺の方を向く。手の甲からは血が出ていた。

 痛いのは見たくない。

「ねえ、トロッコ問題って知ってる?」

「ああ」

「じゃあさ、私と、琴音と早百合が死にそうだったら誰を助けるの?」

「全員助ける」

「無理だよ、誰か一人だけ」

「誰も見捨てない」

「だから、無理だって選んでよ」

大きい声で言う。悲しくないようなどこか切ない感じがした。

「選べない」

「なんで?ねえ、私じゃないの?助けるってなに言ってたじゃん」

「その話とトロッコ問題の話は違うだろ」

「違くない、違くないよ」

 呼吸が荒くなっている。なあ、どうしてそんなにつらそうなんだよ。どうすれば救えるんだよ。

「拓哉なら私の気持ち理解してくれると思ってたのに」

「話の内容がわからないよ、君は何が欲しいんだよ」

「愛が欲しい」

「ねえ、最後に教えて、私のこと好き?」

「好きって言ったら救われるのか?好きでもない人に好きって嘘をつく方が最低だ、思ってもない言葉に愛なんて無いんだよ」

「ねえ、なんでよ、なんでわからないの?好きっていえば私は救われるよ?助けたいんでしょ?」

「そうじゃない、全部間違ってる、志保は親友だ」

「これから好きになることはないの?」

「わからない」

「好きになるのに理由なんている?」

「なあ、どうして、そこまで愛に飢えている?」

「飢えてなんかいない、ただ、誰かに必要とされたい、誰かに愛されたい」

「なら、俺の隣に居てくれよ」

「その、発言は無責任だよ、じゃあ、私を愛せてくれる?好きになってくれる?私を必要としてくれる?」

「.....」

 言葉に詰まる。俺は、最低だ。志保の気持ちには今は答えることができない。

「隣にいるだけじゃダメなのか?俺を、利用すればいい」

「それは、君なりの優しさなの?だったら、君は悪魔だよ」

「優しさだ、俺は志保を必要だと思ってる」

「必要だと思ってるならさ、愛してよ、愛が、愛が欲しんだよ」

「だから、その愛は偽りだ。好きでもない人に愛情なんか芽生えない。それは、愛情ではなくて、情だ」

「もういいよ」

 俺の足元にナイフが飛んでくる。

 その時だった、俺のスマホから電話が鳴る。

「電話出たら?」

「あ、ああ」

 早百合からの電話だった。

「拓哉今どこにいるの?」

 声が震えていた。

「あのね、琴音が倒れたの」

「え?」

 思考が止まる。倒れた?まさか、無理をしてるんじゃ。まだ、人前でピアノを弾くのを怖がっている。

「すぐに、病院に向かって」

「どこの病院だ?」

「近所で一番でかい病院だよ。琴音が拓哉に会いたがってるよ、今すぐ来て頂戴」

「ああ」

 それだけ、言い電話を切る。

「ほらね、君が優しいから、琴音は君に依存してるよ」

「なんだよそれ、依存してないだろ、ただ、助けて欲しいだけだ」

「本当に最低だね、琴音がどれほど拓哉に依存してるかわからないんだ」

「今度、ゆっくり話そう。今は病院に行かないと」

 今は、一刻でも早く病院に行きたい。俺は、部屋を出ようとする。

「まって」

 俺は、後ろを向く。

 志保は自分の首にナイフを当てていた。

「ねえ、選んで、私か琴音か」

「もし、琴音の所に行くなら、私は死ぬ」

「さ、選んで、選んでよ拓哉」

 俺は、志保に近づく。

「どうした?絶望した?めんどくさいと思った?キモいと思った?それとも、可愛いと思った?」

 志保の持っているナイフを取る。

 「あれ、怒ったの?私を切るの?」

「俺は、志保のことはまだ、好きじゃない。もしかしたら好きになるかもしれない。誰も、未来のことなんてわからない。けど、今、志保が安心できて、俺の隣にいてくれるなら、愛が必要なら」

 俺は、自分の手の甲にナイフを当てる。

「もう、これからは、自分を傷つけるな、俺を頼ってくれ、不安ならいつでも、相談に乗ってやる、もし、夜が怖いなら一緒に寝てやる。もし、朝が憂鬱なら俺が楽しくしてやる。もし、地獄に落ちたいと思ったら俺が一緒に地獄に落ちてやる。限界になったら、俺を利用すればいい。だから、もう、自分を傷つけるのはやめてくれ。志保は、可愛いんだから」

 そして、俺は手の甲をナイフで切った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ