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灰色の春

作者: あゝ

ヒーターの前でモルモットを温めたのはいつだっただろうか。

僕は×大学に通う2年生の田中一、趣味も特にない、しょうもない男だ。

人生で初めて彼女ができたのが大学一年目のこと。まさか自分がここまで人を好きになるのか、と思うこともあるが、きっと皆んな思っていることなのだろうとも思う。


そんな彼女の実家は、大学から900kmも離れていて、時たま離れ離れになることがある。そんな時、僕には周りの女性が輝いて見えてしまう。

その輝きが本物だったかわからないが、僕は同じサークルの後輩で、彼女の穴を埋めようとした。


「しっかり自炊してた?」

彼女の声は、久々の再会の嬉しさで明るい。

「ぼちぼちね」

後輩と出前を取り続けていたことを彼女が知る由もなく、僕は嘘をつく。

「今度どこ旅行行く?」

旅行好きの彼女から、プレッシャーを早々にかけられた。

「どうしようか」

と、言いながらも、居心地の悪さは隠せない。終わりだと、僕は気づいていた。


やはり、僕らの恋は長くは持たなかった。きっかけは、旅行中のいざこざだった。

彼女は、最後まで僕を好きだったのだろう。別れの際、泣いた彼女を横目にかける言葉があったのだろうか。寒い冬の日、ヒーターを前に慣れない部屋で、僕は体を丸めて何度も考えてしまう。


彼女は、別れて四度目の春に結婚することになった。

とてもおめでたいし、嬉しいことだ。

いや違う。本心は違うはずだ。

僕はずっと自分に嘘をついて生きてきた。こんな時も癖は治らないのか。驚きと呆れが同時にくる。


きっと僕は、モルモットを殺したあの日から何も変わっていないのだろう。母親が、私の部屋の移動をさせたことを言い訳に、自分は殺していない、自分のせいじゃないと言い聞かせたあの日。モルモットだった小さな躰をヒーターで温めようとした朝。あの時、私の心の時間は止まってしまったのだ。


涙がなぜか出てきた。僕は自分の未練も、殺してしまっていたと気づく。

昔掘った墓の隣に、僕は穴を掘り、そして埋めた。

読んで頂きありがとうございます。

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