プロローグ 居場所の話
「つまり、だけど。居場所を失ったような気がする、という事かな」
ささいな人間関係のトラブル。彼が親身に話を聞いてくれた事は意外だった。
普段の振る舞いからして高慢で他人を顧みない性格なので、こういう話は感傷的だと、切って捨てるタイプだと思っていた。
「まあ、珍しい話じゃない。俺も……」
私の話を受けたうえで、自分の体験談を話そうとしたらしい。
でも、上手く纏まらなかったのか、ぶつぶつと自問してから腑に落ちない様子で確認してきた。
「えっと、有名プレイヤーを四人ぐらい潰して身ぐるみ剥がしたら、なぜかGMが出てきて報復された、というのと同じカテゴリの話でいいか?」
「ダメです。って、問題しかないじゃん。両方に!」
急に雲行きが怪しくなった。
他のプレイヤーを潰した時点で加害者だし、相手も相手でGMが一部のプレイヤーに肩入れするのは違反行為だ。
そういう無法地帯とか民度底辺の体験談と一緒にされたら困る。
「まあ……珍しい話じゃない。俺も友人がそういう目に遭った事がある」
「あ、仕切り直した」
つい指摘してしまうのだけど、彼は少し睨み返しただけで話を続けた。
「最初は腹を立ててたが、すぐに落ち着いて次のグループを見つけていたよ。君もそうすればいい。人懐っこい性格だし、場所には困らないだろ」
百八十度変わって、今度は模範解答。
十人のうち八人くらいは、こう言いそうな冷静な意見だった。
そして言われた側の十人のうち八人くらいにとって、救われない意見だと思う。
「でも、誰だってそうできる訳じゃないし」
「そうだな。君と彼の違いがあるとすれば……」
大半の人にとっての正論、『落ち着くまで距離を置け』とは言わなかった。
私からの不明瞭な反論に少し考えるように宙を見上げて、彼はこう続ける。
「”自分の居場所”を見出したか、”居場所に自分”を見出したか。同じようで、この差は大きい。たぶん君は後者なんだろう」
「自分の居場所じゃなくて、居場所に自分を……」
彼の指摘は少し難しい。でも、私にも思い当たる事はあった。
居場所を失った、と思っていたけど、自分の意義が欠けたような、たしかにそんな気がしていた。
「もちろん、まず居場所があって自分になれる、なんて錯覚だ。なんとなく空気を共有して、安心感を覚えただけ。そこに自分がないのは当然だろ」
やや会話としては上の空。説教のつもりもなく、きっと考察なのだろう。
それでも説教臭くなったと自覚したのか肩をすくめて、そのまま彼は結論付けた。
「居場所よりも先に、身を置くための自分を捜してやればいい」
VRゲームでスコップしてたら自分でも書きたくなった系です。お手柔らかに。