学校のうわさ『夕方に聞こえる怖いラヂオの声』
「ねね、この高校のうわさって知ってる?」
「何それ、知らないよ。怖い話なの?」
「そうそう、凄い怖い話でね……夕方遅くまで校舎に残っていたらね、講堂にある大きなラジオから、小さい女の子の声が聞こえるってさぁ」
「ええ~?そんなのが本当にあるの?」
「ここに通っていた知り合いの先輩が言っていたから、案外本当かもよ。……でね、そのラジオの声を聞こえたら、呪われるって話らしいし~」
「ち、ちょっと!やめてよぉ。本当に怖くなってきたわ……」
▪▪▪
都内にある、とある私立高校。
僕はそこに入学した。
まあ、本当は第一の志望校じゃ無いんだけどね。
第一志望は落ちてしまって、それから第二の志望であるこの高校へ受かったって話。
……で、入学式を終えた僕は、さっきおっかない話を聞いた。
同級生の女子二人組から、 (怖いうわさの一つとされる) 学校にあるラジオの話を聞いたのだ。
この学校の講堂は、一階の離れにある。
そして、そこにあるラジオと言うものは戦前からあると担任の先生から聞いた。
今は使われていないらしく、単なる『貴重なオブジェ』として置かれているとも聞いている。
まさか、そのうわさって、本当じゃあない……よね。
▫▫▫
それから、何事もなく月日が経ち、夏になった。
僕は演劇部に入って、楽しい学校生活を送っていた。
と、言いたいんだけれど、一つ気になることがある。
部活の先輩の一人が、数日前から部活を休んでいるんだ。
……それに、家にも帰っていないってことで、警察にも行方不明者として届け出を出しているとも聞いた。
僕の記憶が正しければ、その先輩は舞台の衣装作りを兼ねてやっていた。
その衣装作りは、講堂で自分たちが練習をしている合間に作っていた。
本来は家庭科室でやるもんだが、調理部が使っているとの事で仕方なしに講堂で作っていたのだ。
最近は時間が無いからと、遅くまで衣装作りと称して残って作っているとその先輩は話していた。
……で、だ。
先輩の経緯を思い出した僕は、あのうわさ話も同時に思い出していた。
まさか、その……まさか、ねえ。
謎の声が聞こえて、呪われたのかなあ。
いやいや、そんな超常現象みたいな事だなんて――
「……ねえ、ちょっといい?」
そんな考え事をしていたせいか、後ろから聞こえた声に驚いた。
「う、うわぁぁ!」
「……ごめん、ごめん。驚かせちゃったかな」
その声は、演劇部の部長だ。
「僕こそすいません。気を取り乱してしまって。で、部長……どうしたんですか?」
「あの、申し訳ないんだけどね。衣装作り、一緒に手伝って貰いたいんだ」
そう、部長が言った。
「え、僕が……衣装作りを、ですか?」
そう返すと、部長は頷いた。
「能戸さん (例の行方不明の先輩) が居なくなっちゃってさ、衣装作りが止まっちゃっているの。人が居ないし、お願い出来るの貴方しか居ないのよ」
衣装の生地型は出来ているから、あとは縫い合わせるだけ……とも、部長はそう付け加えた。
まぁ、確かに……比較的残れるのは僕だけかもしれない。
元々部活の人数は7人しか居ないし、その先輩が欠けてる訳だから……やれることをやらなきゃいけないよね。
「分かりました。衣装作り、手伝います」
それから、僕は部活の合間に衣装を作っていった。
普段やらないミシンに悪戦苦闘しながらも、進めていった。
▫▫▫
それから、3日後の夕方。
僕は、正門の閉鎖時間ギリギリまで衣装を作ろうと講堂に残っていた。
(ラジオから声って、本当に聞こえるのかなぁ)
作業をしながら、ふと僕はそう思った。
その瞬間、微かだが何かが起動した音が聞こえた。
(……?)
僕は気になって、辺りを見る。
(……もしかして)
ラジオの方向を見ると、動かないはずのラジオが起動していたのだ。
(これは、まずい!!)
そう僕は思って、衣装やミシンもろともを置いて、荷物を持ち……講堂の扉の方へ走る。
『……おかあちゃん、おとうちゃん』
ラジオから、幼き女の子の声が聞こえ始めた。
これが噂の『声』ってヤツかよ。
それと、後ろを振り向いちゃぜってぇ駄目だ。声に呑み込まれるかもしれない……こればっかりは、自分の勘がそう言っている。
『お兄ちゃん……わたちを、置いて、いか……ない……で……』
その声がした時に、ドアノブに手が掛かった。
「うわぁぁぁっ!!」
外へ出てそう大声を出した瞬間、僕は倒れ掛かるのが分かった。
▫▫▫
「あれ、ここは」
そう僕は呟く。
そして、僕は違和感を覚えた。
今居るの、ベッドの上?
あれ、僕は講堂から外へ出たんだけれど。
そうだ、あの時倒れ掛かったんだっけ。
そこまでの記憶はあるものの、その後の記憶は一切無い。
まあ、誰かがここへ担ぎ込んだと思うんだけど――
「野澤君、気が付いたのね。大丈夫?」
カーテンから、保健室の先生が覗いてそう聞いた。
「……え、あ、はい……」
それから……僕が保健室に担ぎ込まれた時の事を、先生が話してくれた。
事務の人が叫び声を聞いて、講堂の前に倒れていた僕を保健室に担ぎ込んだとの事だった。
そして、僕は講堂にあったラジオの声を聞いたと先生に伝えた。
振り向かずに講堂を出たこと、外へ出た瞬間に気を失ったことも伝えた。
「……野澤君も、あの声聞いちゃったのね。まあ、振り向かなかっただけ良かったかもしれないけれど」
『事実を誰にも話さない』との約束で、先生があのラジオの事を話してくれた。
どうやら、あのラジオはこの学校が出来た昭和初期からあるものだった。
戦前は学校の傍ら、ラジオの集会所の役割を果たしていた。
戦争の時に学校があったこの場所は焼け野原になったというが、このラジオだけは無事だった。
だが、家族と離ればなれになった小さな女の子が、そのラジオの近くで亡くなったという。
それも、亡くなった時刻は17時前との事だ。
いつしか、あのラジオにはその女の子の幽霊が取り憑いて、実際に身の上に起きた。
あの場で振り向いたら、その女の子に連れていかれていたかもしれない。
……まあ、一応僕は助かったと言えるのだろうか。
そうだと信じたい。
▪▪▪
あれから、僕が提案をして地域の神社の神主さんにお祓いをして貰った。
これで一安心したと思った。
そう、安心したと思ったのだが―――
例の行方不明だった先輩が、学校の裏にある林の中で一部白骨化した状態で発見されたと聞いたのは、あの事件から1カ月後だった。
「ねえ、ねえ。知っている?この学校のうわさ。ラジオから女性の声が聞こえるらしいよぉ?」