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敵との対決

「これはこれは、ストリックランドさん。何の御用ですかな」


 スクルージは上機嫌に俺を出迎えた。


 俺は、ハリソン魔法研究所のスクルージの研究室をふたたび訪れていた。今日はクレアを連れてきてはいない。


 俺一人だ。

 

 こないだは魔術書が雑然と机の上に積み上げられていたが、研究室がかなり片付けられて、綺麗になっていた。


 スクルージは俺に微笑み、金色の瞳を輝かせた。


「実は王立アカデミーの専属研究員のポストを手に入れることができましてね。寂しいですが、この研究室とももう少しでお別れです」


 まったく寂しくなさそうにスクルージは言う。

 王立アカデミーの専属研究員に選ばれるのは、魔術研究者の最大の栄誉の一つだ。


 研究成果を手土産に出世を果たしたのだろう。


「ご栄転おめでとうございます」


 俺もにこやかに応じる。

 ここまではただの挨拶だ。


 スクルージもぽんと膝を打つ。


「ところで、ブラックの件の調査は終わりましたか?」


「あと少しというところでして、それで本日はご協力のお願いに参りました」


「ほう。何でしょうか?」


「これを見てください」


 俺は机の上に、小さな鍵を置いた。

 スクルージが顔色を変えた。


「これはなんですか、ストリックランドさん?」


「スクルージさんはご存知のはずだと思いますが」


「何が言いたいんです?」


「ブラックさんは魔術師でないとはいえ、熟練の技術者でした。そんな人が機械の誤動作で事故死するのか、そもそも私は疑問に思っていたんですよ。スクルージさんほど優秀な魔術師がついていたなら、魔力導出機も完璧であってしかるべきです」


「ですが、現に事故は起きました」


「いえ、あれは魔力導出機の事故ではありませんでした。問題は魔力水晶の方にあったんです。この鍵は、魔力水晶の魔力発動を遠隔で操る道具だそうですね。地味ながら、ブラックさんの画期的な発明ですよ」


「それを使って、私がブラックを殺したと言いたいのですか?」


「その可能性はあるということです。現に私はふたたび事故の起きた研究室を調べさせていただきましたが、魔力の経路や事故の経過を検証すると蓋然性は高い」


 そして、俺は壊れた魔力水晶と新品の魔力水晶の二つがあるというからくりに気づいたことを、スクルージに告げた。

 隠蔽のために、スクルージは新しい魔力水晶を用意していたのだ。


 スクルージは、赤い髪と同じぐらい、顔を赤く、俺を睨みつけた。


「勝手に研究所の部屋を調べたのですか。厳重に抗議させていただきますよ。それに、人を犯罪者呼ばわりするとは……何の証拠があるんだ!」


「あなたを刑事告発するには足りませんが、少なくとも、私の調査結果は、ライト保険組合に保険金の支払いを停止させる十分な理由になります。王立アカデミーも、あなたの素行を調査されるでしょうね」


 研究所の調査は、事前にスクルージを通さずに研究所の幹部に話を通してある。


 俺は最後の心証を得るために、スクルージに会いに来ていたのだ。

 やはり、スクルージの反応を見るに、黒だ。


 とはいえ、このままスクルージが引き下がれば、保険金の支払いが停止されるだけだ。俺は侯爵からの依頼は果たせたことになるが、ブラック殺しの犯罪では裁かれない。


 俺は立ち上がり、別れを告げようとした。

 だが、スクルージは、諦めきれなかったようだ。


「あの保険金がなければ……」


「借金が払えず身の破滅ですか? 仕方がないでしょう。諦めてください」


「このことは、もう保険組合には報告したのか?」


「いえ、報告書はこれから作成予定です」


 俺はわざとそう答えた。次のスクルージの行動は俺にも予想できる。


 スクルージはにやりと笑った。


「なるほど。くだらない妄想を抱いているのは、ストリックランドさん一人というわけだ。なら、あんたの口を封じれば――」

 

 スクルージはスーツから魔法の杖を取り出し、それを俺に向けた。


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