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大人になりたい

 俺たちは今日のところは研究所を辞去することにした。

 これ以上、調査しても何も新しいことは発見できなさそうだったからだ。


 研究員のブラックは、魔力導出機から精製される魔力の量を見誤り、機械を操作した。

 その結果、水属性の魔力が暴走し、研究室が吹き飛び、ブラックは犠牲になった。


 この説明になんらおかしなところはない。


 実際、壊れた魔力導出機を見て、スクルージや近くの研究室にいた研究員に質問してみたが、不審な点はない。


 そもそも部屋の壊れ方がひどく、もしスクルージがなにか計画していたとしても、物証になりそうなものもあまりない。


「収穫はゼロ、か」


 スクルージの無実を確信できるほどの材料が揃ったわけでもないから、侯爵に報告して業務終了というわけにもいかない。


 昼下がりの王都の大通りには、無数の馬車が走っている。

 俺たちはその脇を歩ていた。


「ぜったい、あのスクルージって人、怪しいですよ! とっちめて、ぶん殴れば絶対自白します」


 クレアがぷりぷりと怒りながら言う。

 俺は苦笑した。

 

「幼い顔で、過激なことを言うね」


「わ、わたしは幼くなんてありませんっ! 大人の女性ですからっ!」


「はいはい」


「あっ、お師匠様! また、わたしを子供扱いしていますね?」


「クレアは子供だからね」


「わたしはもう大人です!」


「大人が良いものだとは限らないさ。金のために人を殺すような大人だっている」


「でも、わたしはかっこいい大人の人も知っています」


 クレアは俺を上目遣いに青い瞳で見つめた。その瞳はとても純粋に輝いている。

 この瞳を曇らせないことが、俺の大人としての役目だった。


「俺も、ずるい大人の一人だよ。……人は嫌でもいつか大人になるさ。焦る必要はないよ。クレアは子供として、大人の俺を頼りにしてくれてもいいんだ」


 俺が穏やかにそう言うと、クレアは目を伏せた。

 そして、小声で恥ずかしそうに言う。


「わたしは早く一人前になって、お師匠様のお役に立ちたいんです」


「ありがとう。その気持は嬉しいけれど、でもね……」


「ご迷惑ですか?」


 クレアが不安そうに俺を見つめる。

 俺はにっこりと笑って、首を横に振った。


「クレアは今でも十分、俺の役に立ってくれているよ」


 俺がそう言うと、クレアはぱっと顔を輝かせた。

 そして、ふふっと笑う。


「そうですよね! わたしがいなかったら、家は散らかり放題で、お師匠様はお酒ばっかり飲んで、お仕事をさぼってそうです」


「失礼な。俺は大人なんだから、ちゃんとやれるさ」


「子供っぽいところも多いと思いますけどね」


 俺とクレアはそう言い合い、そして、互いにくすりと笑う。

 いまのところ、俺は普通の職業魔術師で、クレアは素直な良い弟子だ。


 ラスボスになったり、悪の四天王になったりする予兆なんて一つもない。

 こんな平和な生活が続けばよいのだけれど。


 俺たちが向かっているのは、ブラックの遺体を収容している病院だった。

 警察は事故として片付けたが、実際にブラックの体を調べてみれば、なにかわかるかもしれない。


 と思って病院の近くの通りまで来たら、なにやら騒がしい


「なんですかね、あれ?」


「さあ」


 病院の前に人だかりができている。そして、その中心には一人の背の高い男がいた。

 俺は「げっ」と思わず声を出す。


 そこにいたのは、俺のかつての友人であり、医師のロイド・マーロウだった。


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