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強敵

 スクルージに案内されて、俺とクレアは事故の現場についた。

 

 魔力導出機の開発が進められていた研究室だ。

 

 事故は魔力導出機の試作品が爆発したもので、部屋がまるごと吹き飛び、ジョージ・ブラックが犠牲になっている。


 両隣の部屋はボヤ程度で済んだようだが、爆発の起きた研究室の中は凄惨だった。

 広い部屋には、机やら実験器具やらが置かれていたはずだが、ほとんど跡形もなく消え去ったようだ。


 代わりに黒焦げの鉄や木のようなものが散乱している。


 その中央に、巨大な鉄の塊のようなものが置いてあった。大小無数の歯車が絡み合い、そのてっぺんに水晶が輝いていて、そこだけは無傷だった。


 俺はそれを眺め、スクルージに尋ねる。


「これが、魔力導出機ですね?」


「正確にはその残骸ですよ」


「残念ですが、これではもう使えないのでしょうね?」


「ええ。とはいえ、ブラックとの研究成果は、理論としてちゃんとして紙の上にまとめてあります。それを使えば、新型の魔力導出機を復元することも可能です」


 スクルージは淡々と答え、金色の瞳をきらりと輝かせた。

 だとすれば、スクルージにとっては研究上の成果は手元に残ったわけだ。


 その成果を独り占めにして、そして、保険金も受け取れる。

 動機は十分にあるわけだ。


 スクルージは俺の考えに気づいたのか、両手を広げて見せる。


「ブラックは優秀な共同研究者でした。彼は魔術師ではありませんでしたが、あれほどの腕のある技術者はいなかったものです」


 ブラックが非魔術師であることは調べてあった。

 それでも、名門のハリソン魔法研究所が採用するほどの腕が、ブラックにはあったのだ。


 魔道具やその基盤となる魔力水晶・魔力導出機の作成には、機械技術者の知識と経験は貴重なものだ。

 彼らの協力があってこそ、今日の王国の魔法文明の発展はあるといってもよい。


 クレアが俺の服の袖を引っ張る。


「お師匠様……この機械……水属性の魔力しか集める仕組みがないみたいですけれど」


 壊れてぼろぼろとはいえ、魔力導出機はその形から多少なりとも機能を推測できた。

 この世界の魔法は、五大元素の操作で成り立っている。


 火、水、地、風、そしてエーテルの五つの元素の相互作用で、この世界と魔法は説明される。

 そして、魔力はそれぞれの元素に対応している。というより、純粋な元素そのものなのだ。


 俺はクレアに微笑んだ。


「なにかおかしなことに気づいた?」


「はい。だって、水属性の魔法は、爆発なんか起こさないはずです」


「たしかに水属性の魔法は水に関する攻撃や回復魔法を司るね。爆発事故は起こさないだろう」


「なら、どうして事故が起きたんでしょう……?」


「魔法の形をとらなくても、過剰な魔力はそれ自体が暴走する。どの属性の魔力であってもね。機械が誤作動を起こせば、部屋の中の水属性の魔力が一定以上になって、暴走してもおかしくない」


 クレアが「なるほど」とぽんと手を打ち、うなずいた。


 俺はちらりとスクルージを見る。スクルージもうなずいた。

 

「そのとおりです。ブラックは魔術師ではありませんでしたから、部屋の異常に気づけなかったんでしょう。こういうことにならないように細心の注意を払ってきたのですが……」


 だが、現に事故は起きた。

 それが本当に偶然起きたものなのか、それともスクルージが意図的に起こしたものなのか。


 後者だとしても、スクルージは巧妙に隠しているはずだ。


 実際、俺が一通り調べても、不審な点はない。

 スクルージに詳細を説明してもらったが、その説明にもおかしな点はなく、完璧に現場の状況と一致している。


「なにかおかしなところは見つかりましたか?」


 スクルージがにこやかに問う。


「いえ、今のところは特に何もないですね」


「なるほど。私も忙しい身でしてね。そろそろ調査は終わりですかな?」


 スクルージは相変わらず愛想が良かったが、その笑みには勝ち誇ったようなニュアンスがあった。

 その金色の瞳が鈍く輝いている。


 心証としては、スクルージはかなり怪しいのだが、物理的な証拠はなにもない。


 もちろん、スクルージが無実ならそれで良い。


 だが、もしスクルージがブラックを殺したなら、俺はそれを突き止める必要がある。


 依頼人の侯爵のため、そして、死んだブラック自身のためでもある。


 さて、どうすればよいか?

 その答えは、意外な人物からもたらされた。


 俺のかつての友人だ。


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