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わたしにとっての、自慢の師匠でいてください

 翌日、俺と弟子兼助手のクレアは、ハリソン魔術研究所を訪れていた。


 研究所は、王都西部のゴルディア地区にある。王都の東の外れの時計塔からは、馬車でそれなりに時間がかかった。


 レンガ造りの建物は、横に大きく広がっていて、無機質だが威厳があった。

 その手前に広大な庭園が広がっていて、俺たちはさらにその手前の黒い門の前に立っている。


「大きくて立派な建物ですねえ」


 クレアが感心したように言う。

 

「そうだね。まあ、王都でも五本の魔術研究機関だから」


「うちのボロい時計塔とは、大違いです」


「俺はしがない個人の魔術師だよ。比較されても困るんだよなあ」


「でも、わたしはうちの時計塔も嫌いじゃないですけどね」


 くすっとクレアは笑うと、「行きましょう」と言って、一歩を踏み出した。


 研究所の訪問相手は「水晶の魔術師」エリック・スクルージ。

 

「その人、どういう人なんですか?」


「高名な魔術師だよ。33歳。俺よりも数年だけ先輩だ。魔法大学を卒業後、ハリソン研究所にずっと務めているが、そのあいだの魔術研究の成績はかなり良い」


「へえ、すごい人なんですね」


「そうそう。特に新型の魔力水晶の開発は、大型の魔道具を少ない魔力で動かすことを可能にした。その画期的な発明をたたえられ、王立アカデミーから『水晶の魔術師』の称号を受けたっていうね」


 王立アカデミーから授けられる称号は、魔術師にとって名誉なものだ。

 一流魔術師のみに、その魔術師の実績に応じて、称号が与えられる。称号を持っている優秀な魔術師は「称号持ち」なんて呼ばれたりもする。


 クレアが首をかしげる。


「称号持ちなのは、お師匠様と同じですね」


 たしかに、俺も王立アカデミーから、「時計塔の魔術師」という称号を与えられている。

 

「といっても、俺は大した実績のない、ごく普通の魔術師だよ」


「お師匠様は普通の魔術師ではないと思いますけど」


「そんなことないよ」


 クレアに青い瞳で見つめられ、俺はどきりとする。

  

 そう。俺は普通の魔術師ではない。

 なぜなら、ゲームのラスボスなのだから。


 「時計塔の魔術師」ことアレク・ストリックランドは、対人戦闘に特化した有力魔術師だ。

 王国魔法軍に所属し、暗殺専門の特殊部隊に所属していたこともある。


 もう引退したけれど、その実力は、魔術保険の調査員としても生かされている。


 クレアは頬を膨らませた。


「もうっ、お師匠様は、わたしのお師匠様なんですから、卑屈にならないでください」


「卑屈になったつもりはないけどね」


「それなら、わたしにとっての、自慢の師匠でいてください」


「え?」


「何でもありません」


 クレアは顔を赤くして、ぷいっと横を向いてしまった。

 俺はくすりと笑う。


 本当なら、危険な保険調査の仕事に、クレアを連れてくるつもりはなかった。

 けれど、クレアがどうしてもついて行く、と言いはったので、連れてきたのだ。

 

 水晶の魔術師エリック・スクルージは、良い評判だけではない。

 だからこそ、同僚の事故死への関与が疑われている。


 カジノに派手に出入りし、多額の借財を抱えていることも調査済みだ。

 二年前に妻が不審死し、その遺産と保険金で多額の金銭を手に入れてもいる。


 要するに真っ黒なのだ。


 同僚の保険金の受取人というところも、怪しい。親族でもない人間をなぜ保険金の受取人に指定したのか?


 そうした状況を踏まえた上で、俺は調査に当たる必要がある。

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