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異世界転生とロリな弟子と

「なぁ、クレア。たとえば俺が……この王国を滅ぼす極悪人だと言ったら、信じる?」


「お師匠様が? なんでそんな寝ぼけたことを言ってるんですか」


 目の目の少女に鼻で笑われ、俺は肩をすくめた。

 

 少女クレア・クートラは、13歳の小柄な子だ。

 金髪碧眼の可愛らしい容姿で、品のある優しげな顔立ちをしている。白い帽子付きの魔導服に身を包んでいて、絵に描いたような愛らしい少女魔術師だ。


 成長すれば、きっとさぞかし美人になるだろう。

 というより、すでに同世代の少年たちからはとても人気らしい。もっとも、クレア自身はあまり異性に興味はないようだったが。


 一方の俺は、20代後半のごく平凡な魔術師である。茶髪に茶色の目という、このエセックス王国では一番ありふれた容姿。


 王立魔法大学に通っていた頃は、「好みによってはイケメンに見えなくもない」というよくわからない言葉で同級生の女子生徒から慰められた。

 住み込みの弟子のクレアがいる他に家族はいない。ついでに恋人もいない。


 誰が見ても、俺はぱっとしない普通の魔術師に見えるだろう。


 とはいえ、俺も普通ではない点がある。


 俺には前世の記憶がある。前世では、20代の社畜で、働きすぎて過労死した。

 

 そして、俺はこの世界――正確には、前世の人気RPG『星月のクロスライン』のラスボスであるアレク・ストリックランドに転生したのだ……。


 実は王家の血を引いている凄腕魔術師のアレク・ストリックランドは、幼い頃に反逆者の叔父に父王と家族を殺される。そして、密かに魔術師の老人に匿われ民間人として成長した。


 成長したアレクは、魔術師として力をつけていく。

 やがて、彼は現在の王家に復讐し、王国を乗っ取ろうとした。そして、主人公の魔術師の少年たちの前に立ちはだかる最強の敵となる。


 ……という劇的な役割がある……はずなのだ。

 

 といっても、生意気な弟子のクレアは信じてくれないのだけれど。

 

 それに、せっかくラスボスに転生したのだから、もう少しわかりやすく美形にしてくれてもよかったのに。


 ここは王都の外れの時計塔。

 魔術師アレク・ストリックランドの仕事場兼自宅だ。


 その塔の最上階の書斎に俺とクレアはいた。

 寝坊したので、もう午前11時である。


 クレアは呆れたように俺を青い瞳で見つめる。


「馬鹿なことを言ってないで、仕事をしてくださいよー」


 一応、俺は魔術師だ。その仕事の一つは、魔法付与で魔道具を作ること。普段はこれで生計を立てている。クレアにも手伝ってもらいながら、日々の生活費を稼いでいるわけだ。

 

 別のお仕事のおかげで生活に余裕はあるし、それほど忙しいわけでもないけれど、働かないわけにもいかない。

 俺はクレアに手を合わせた。


「ごめんごめん。ところで、そのまえに紅茶が欲しいんだけれど」


「そう言うと思って、ご用意しておきました」


 さっとクレアがティーポットからカップに紅茶を注ぎ、俺に差し出す。

 俺は嬉しくなって微笑む。『星月のクロスライン』は、19世紀のイギリス風の舞台で、紅茶とスコーンが美味しいのだ。


「ありがとう。用意がいいね」


「もう二年も一緒にいるんですから、寝過ごしたときのお師匠様の習慣ぐらいわかっていますよ」


 クレアがくすっと笑う。

 たしかに、孤児だったクレアを引き取ってから、もう二年が経った。

 

 悪役アレクが、クレアを弟子にするのはゲームのとおりだ。魔法の才能を見込んで、身寄りのないクレアを引き取るのだ。


 ただ、ゲームでは、アレクはクレアに厳しく指導し、自分の野望の道具として扱っていた。


 虐待に近い扱いを受け、ときに暴力も振るわれた結果、ゲームのクレアは、性格が歪んでしまう。

 そして、冷酷な魔術師として主人公たちの敵になるが、敗れた後は主人公の優しさに触れて仲間になる。そして、師匠のアレクに立ち向かっていく……という筋書きである。


 さて、現実はどうかといえば、ちょうどクレアを引き取った頃に、俺は前世の記憶が蘇った。

 時計塔の階段から転げ落ち、頭をぶつけたという情けないきっかけで……。


 クレアを冷たく扱えば、ゲーム通りなら俺の敵になってしまう。

 そもそも、俺は11歳の子どもを虐待するほど悪人ではない。


 前世でも、善人ではないにしても、それなりに真面目な人間をやってたのだ(だからこそ、過労死した……)。


 というわけで、俺はクレアになるべく優しく接した。


 最初は緊張していたクレアも、今ではすっかり打ち解け……俺に生意気な態度を取るようになっていた。

 

 なめられているのかもしれない……。


 とはいえ、紅茶や食事を用意してくれたり、魔術の仕事を手伝ってくれたりして助かるのだけれど。

 代わりに、俺はクレアに師匠として魔術を教えるし、学校の学費を払っている。


 持ちつ持たれつ、だ。


 俺はクレアの好意に甘え、早速紅茶を飲むことにした。紅茶の銘柄には凝っているし、クレアの紅茶を淹れる腕はかなり上手い。


 とはいえ、俺は紅茶をストレートでは飲まない。でも、ミルクを入れるわけでもない。

 

「ブランデーをたんまりと入れるのが極上……」


 俺はつぶやいて、机の上のブランデーの瓶を取ろうとした。

 ところが、俺より先に、クレアはひょいと瓶を取り上げてしまった。


「朝から酒だなんてダメですよ」


「す、少しだけだから……」


「……量はわたしが管理しますからね?」


 仕方なさそうにクレアはカップにブランデーをちょこっとだけ注ぐ。そして、何がおかしいのか、ふふっと笑った。


 ふわりとブランデーの良い香りが部屋にただよう。


 ああ、平和だなあ。

 こんなのんびりした生活では、俺がラスボスになるなんて、クレアが信じないのも無理もない。


 前世の記憶があるせいか、俺も王家への復讐心があまり湧いてこない。


 別にラスボスにも、主人公にも、特別な存在にならなくても問題ない。


 このまま平穏な、そして自由な生活が送れれば、それで良いのだけれど。


 そのとき、塔の中にベルの音が響いた。

 

 玄関に設置した魔道具で、来客を告げるものだ。要するにインターホンである。


 クレアと俺は顔を見合わせた。


「お客さんでしょうか」


「そうだねえ」


 俺は立ち上がった。


 来客はたいてい仕事の相談だ。


 そして、俺の魔術師としての仕事は二つある。


 一つはこの時計塔での魔道具の作成。

 そして、もう一つは……「魔術保険」の調査員だ。




転生&ロリっ子魔術師育成もの?です。続きが気になると思っていただけましたら☆やブックマークで応援いただければ嬉しいです。


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