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AM2131

作者: 鈴木結七

ホラー作品は苦手なので、あまり怖いものは作れませんでした。

 七月となれば何が思い浮かぶだろうか。私の場合、悲しい事にも父の忌日が当てはまるのである。


 二回忌だ。今日は祖母の家に行き、父が子ども時代を過ごした部屋の片付けに、残された祖母の元へ私の母、私と弟で行く事になったのだ。しかし祖母はもうかなり齢を重ねているし、弟はまだ三歳になったばかりであやす必要があり、片付けは殆ど私がしなければならなかったが無理もないと思われた。


 半ば渋々亡き父の部屋を片付けていると、見知らぬ、昔懐かしの品物が出てくるのだ。私はそれに感動すら覚えた。まるで探検家が宝を掘り当てていくように、まるで何かを覚えたての子どもがそれを繰り返しやりたがるように、夢中になって漁り始めた。


 その宝の一つに「ラジオ」があった。手回し式の為、今も使える事だろう。恐る恐るハンドルを回すと、その箱からは陽気な音楽が聴こえてきて、終わったかと思ったら人が一人何かを話している。中々興味深かった。


「紫苑、もう終わったー?」と言う母の声が聞こえて漸く我に戻った。

「ちょっと疲れちゃったから休憩中だよー」と返すと、

「そう、あんまり無理しなくていいからね」と優しい反応だった。


 祖母と母の優しさのおかげで、ちょくちょく休憩を挟みながら、そして楽しみながら片付けを終わらせた。それにしても、父の小さい頃好きだったものや、青春の思い出を知る事ができて、案外悪くないようにも思われたが、そうしている内にいなくなってしまったことへの寂しさが一層込み上げてくるのだった。


 帰るまでの間、私はラジオを使ってもいいかと断って、またそれを聴いて楽しんでいた。ダイヤルを回すと液晶に数字が浮かんで、その局から様々な声が流れてくる。


  《AM2131Mhz》


「さぁ、七夕ですね!どうですか、ソウさんは何かお願いごとしますか?」

「僕はねぇ皆さんがラジオを聴いて楽しんで下さったらもうそれは幸せなのでね、『これから先もずっと司会としてやっていけますように』ってしますよ」

「なるほどぉ、素敵ですね!さて、視聴者の方からこんなメッセージが届いております!


ラジオネーム、reobaさんからです。

 『キランさん、ソウさん、こんばんは!超能力みたいなものって惹かれますよね。私はここ最近、ずっと会えなかった人に会えそうな気がして止みません。もし会えたらびっくりして腰が抜けちゃうかもしれませんwwww』

との事で、超能力ですって」

「いいですねぇ〜」

「七夕だから短冊に、『超能力が欲しいです』って書く子もいるんでしょうかね?」

「最近の子は分からないけど、僕が小さい頃なんかは『フーディーニに会いたい』って書いてあったのを見たことありますよw」

「世代ですね〜…」


 超能力があったら何がしたいだろう。今は、父にもう一度会いたいと言うべきか。だとしても、死んでしまった人間に会うのはなんだか恐ろしい気もする。


「皆さんの願いが、叶いますように!さてお次は、ホラー特集です…」


 流石にホラーは苦手なので、この辺で中断した。そうか、もう七夕か、願い事は何にしよう、などと考えている内に夕方の6時になっていた。私は母の元へと向かって、そのまま暫く会話に混ざった。


「紫苑、ラジオはもういいの?」

「うん…飽きた」

「そう、案外早いのね」と言ってくすりと笑った。

「えへへ、ねぇねぇ、『AM』とか『Mhz』って何?」

「ラジオの?分からないけど、多分Mhzは、メガヘルツって言う周波数の単位だよ」

「ふぅ〜ん」

「AMは難しいから、あんまり気にしなくていいよ」

「どんな感じなの?」

「うぅ〜ん…分からないかなぁ」

「紫苑はラジオで何聴いてたの?」と祖母。

「うぅ〜ん、色々?さっきはね、七夕の事話してたよ」

「どこの局だい?」

「局?」

「ほら、AMの後ろに数字がついてなかったかい?」

「あぁ〜、えぇっとねぇ、2131…だったかな」

「はて、そんな局あったかな」


 そう言って祖母はどこかの箪笥から何やら雑誌を持ってきた。そこにはラジオの様々の事が書かれているらしいが、


「見当たらないねぇ、ほんとにそう書いてあったの?」

「うん、ばっちり書いてあった」

「そう…今日はもう、帰ったらどうだい?紫苑ちゃんも疲れてるだろうから」

「そうですか、今日はありがとうございました」

「いえいえこちらこそ」


 結局謎のまま、私たちは家に帰っていった。車に乗り、母の運転で少し暗くなった道を進んでいると、大きな音を立てて車が止まった。


「どうしたの?!…あっ……」


 車のライトに照らされていたのは30代くらいの男性だった。それはどことなく父に似ていて…








やっとのことで家に着いて、少ししてから母が携帯を使って何やら熱心に調べていた。と、不意に口を開いたかと思うと、


「紫苑……さっきの…」


 何かが分かったらしかった。何が分かった?心臓の音が母にも聞こえてしまいそうな程大きく脈打つ。そして母は震えながらに携帯の画面をこちらに向けた。そこに書いてあったのは




 AM2131Mhz

 幽霊ラジオや、霊界ラジオとも。

 このラジオの存在は1980年代から報告されており、その内容はバラバラである。過去に放送されていたものが何らかの形で届いた、実際に霊界があって、そこで流れているものが現世にも流れていると言う研究者もいるが、どちらにしても一切の根拠はなく、仮説に過ぎない。

 これは聞いたと証言した人の殆どが、聞いた後に事故に遭いかけたと言うデータもあるため、さまざまな放送局がこの放送を極力聞かないよう促している。また、亡くなった人に会えた、というケースも稀に確認されており、この局に対する考えには賛否両論がある。

(柳原孝太郎著『幽霊ラジオの謎』より引用)



というものだった。

※完全なフィクションです。



●フーディーニ……?

●キラン、ソウ→キランソウ

        (金瘡小草、別名:地獄の釜の蓋)

●reoba→れおば

    「幽霊の正体見たり枯れ尾花」より

●AM2131→AM 2/31

       (午前2:31=丑三つ時)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふえー! 霊界からの電波を受信してしまったのかも知れないのですね……。 ((( ;゜Д゜)))
[良い点] 亡くなられた方の霊に逢えるなら、このラジオを聴きたいという人もいるかもしれませんね。 事故にあいかけた、で済んでいるので実際には全員無事だったようですね。 車が幽霊に激突していたかは別にし…
[良い点] 短いお話の中にたくさんの設定が隠されていてすごかったです!
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