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彩式+救済者 -さいしきあっど すまいる!-  作者: かみきほりと
紡がれし絆

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77 気晴らしの殲滅戦

 木々が生い茂る森の中、張り詰めた緊張感が辺りを包み込んでいる。

 というのも、散開した人々が、連携を取りながら獲物を追い込んでいるからだった。


『おい、フレディ! しっかりしろっ!』


 念話と同時に、目の前の生物が串刺しになり、黒い霧となって崩れ去った。

 敵は植物が堕ちたるモノ(ソルカイル)と化したもので、俗に言う『怪物』の集団だった。

 そのうちの一体を、隣を進む男が、法術で土の槍を地面から生やして、串刺しにして『浄化』したのだ。


『すいません、先輩。助かりました』

『お前らしくもない。心ここにあらずじゃないか。何があったんだ? ……と聞くのも野暮だったな。大方、あの嬢ちゃんの事で悩んでたんだろ?』

『いや、違…いません。ちょっとしたヘマをやらかしまして、どう謝ったもんかと思いまして……』


 そう答えながら、雷撃の槍を放つ。

 一撃必殺の金剛電槍(サンヴェイク)ではなく、修業で新たに身に付けた、極力消耗を抑えたものだ。


『そんなものは、うじうじ考えても仕方ないぞ。相手の大好物でも持って、サッサと謝りに行くのが最善ってもんだ』

『オレだって、そうしたかったんですけどね。ったく、間が悪いっていうか、コレに駆り出されちまったんですよ』

『あはは……、そりゃ災難だったな』

『笑い(ごっ)ちゃないっすよ、先輩。このままじゃオレ、謝んのが嫌で仕事に逃げたみたいじゃないっすか』


 二人は念話を交わしながら、目の前に現れる怪物を、次々と浄化していく。


『いや、スマン。そりゃ深刻だな。だったら気合を入れて、コレをさっさと終わらすしかないな』

『……そうですね』


 どれだけ思い悩んでも、ここで出せる結論はひとつしかない。

 とにかく今は集中して、任務を早く終わらせることだ。

 その後で、誠心誠意を込めて、謝りに行くしかない。


 シノが痛みを訴えた後、治療の実験と称した「お守りの飢えを満たす行為」は中断され、ロサも含めて、ケントと共に丁重に治療院から退出させられた。

 部外者の二人はともかく、ロサまで退出させられたのは、消耗した霊力を少しでも多く回復させ、翌日の学園に影響がないようにという配慮なのだろう。

 それに、ロサが残れば、その護衛を務めるフレディも残らざるを得ない。その手間を省くためということも考えられる。

 今回の招集要請は、その直後に舞い込んだ。

 気分的には断りたかったが、年齢的にも経験的にも若いフレディの立場では、参加する以外の選択肢がなかった。


 今回の作戦は、迅速さと正確さが求められるものだった。

 当初はFランクの怪物が群生しているという話だったが、詳しく調べた結果、Dランクの母体が生み出した集団だと判明した。

 それを受け、調査委員会がローラー作戦で子株を根絶やしにすると同時に、討滅委員会が強行突入して速やかに母体を浄化するという作戦となった。

 取りこぼせば再び増殖する危険があるので、敵のランクには不釣り合いなほど、大量の委員会メンバーが投入された。

 準備期間を含め、すでに四日が経っているが、すでに母体は浄化され、子株の掃討も大詰めを迎えている。

 新たな群生地が見つからなければ、遅くても明日一杯で終わるだろう。

 そんな事を思っていると、交代要員が到着し、しばしの休憩が言い渡された。




 休憩といっても立派な休憩所があるわけではない。

 遠ざかっていく仲間の背中を見送りながら、その場に座り込むだけだ。

 飲食物ならば、自分の倉庫から出せばいいし、マットでも敷いて横になるのもいい。今のうちにトイレを済ませておくのもいいだろう。……野ざらしだが。


『ジャック、ミュートを解除して連絡が来てないか調べてもらえるか?』

『なんだ珍しいな、作戦中は見ないんじゃなかったのか? まあ、いいが、ちょっと待ってろ』


 任務中に連絡が来ても、ロクに反応が出来ないからと保留にしておくメンバーは多い。フレディもそうだ。

 だが、緊急の用件ならば話は別だ。たとえ保留にしていても届くのだが、今のところ、そのような連絡はない。


『……にしても、相変わらずゴミばっかだな』


 ジャックの言う通り、その多くは宣伝のようなもので占められており、ほとんどの者は守護精霊(フィセーリア)に煩わしい仕分け作業をしてもらっている。

 ゴミを取り除いて残った中に、ロサからの連絡があった。


『そういや、仕事があるって伝えたっきりだったな……』


 任務中は連絡が途絶えると知っているはずなのに、わざわざ送ってきたということは、何か困ったことでも起きたのだろうか。

 普段ならば、治療院への送迎依頼ってとこだろうが、さすがにその可能性は低いだろう。

 まさか、シノの身に何か異変があったのだろうか……

 そんな事を考えながら、内容を読み始める。


 どうやら明日、みんなで治療院に行くにあたって、待ち合わせの場所や時間、それにお見舞いの品などの相談をしたいらしい。

 だが、なんだか違和感のある内容だった。

 ある意味、送迎依頼と受け取れなくもないが、まるで自分(フレディ)も参加すると決まっているかのような文面だった。それに、他にも同行者がいるみたいだが、その情報がない。

 なんだか、送り先を間違っているようにも思えるが、それならば、ロサの守護精霊(フィセーリア)が気付くだろう。

 不思議に思っていると、もう一通、出てきた。


 フレディが出立した翌日、つまり、治療院へ行った日から二日後に出されたもので、シノの容体が安定するまで、面会を断ることになったと書かれていた。

 とはいえ、深刻なものではなく、すでに痛みは引いているが、念のため詳細な検査を兼ねて……ってことらしい。


『結局、任務がなくても、見舞いに行けなかったってこったな……』


 フレディは、ホッとしたように天に向かって息を吐き出す。


『よかったじゃねぇか。怠惰に悶々と過ごすよりかは、こっちのほうが有意義だし、気分転換にもなるってもんだ』

『まあ、そうだな。……それより、ロサからもう一通、届いてねぇか?』

『ん? どうした?』

『いや、この二通だけじゃ、話が繋がんねぇからな。てっきりもう一通あると思ったんだが……』

『んー、いや、ロサからは二通だけだな。ちょっと待て、調べてやんよ』

『おう、スマンな』


 やはり、ロサからは、その二通だけだった。

 だが、気になる一通をジャックが見つけた。


『そういや、マナ・カムナギって、あの治療院の看護師だったよな。ほらよっ』


 掛け声と共に、補助視界(リピッター)にメッセージが表示される。

 それを読み終えて、フレディは納得した。


『なるほどな。どうやらシノの件で報告があるから、治療院に来てくれってことらしい。しかも明日の夕方』

『……あー、なんだ。残念だったな。なんなら、こっちで断りの返事を送ってやろうか?』


 フレディは即答せず、少し考え込んでから、地図を確認する。

 ローラー作戦の進行状況が、ひと目で分かるようになっているのだが……

 横一列に並んで始めたのだが、敵が集まっている中央部の歩みが遅く、両翼が先行していて、半包囲陣形になっていた。

 フレディがいるのは右翼側で、戦線を十等分して右から数えたら、だいたいニ番目の位置となる。

 精鋭を激戦が予想される中央に配し、数合わせを両翼に配置したのだろう。

 暇とまでは言わないが、余裕がある安全な場所だった。


『なんだ、今さら地図とにらめっこか?』

『ああ、まあ……、今日中にケリを付けることが出来ねぇかなって思ってな。この先に川が流れてっから、こっちの捜索が終わりゃ、あとは囲んで叩きゃいいだけだよな』

『まあ……そうだが。探索っつっても、結構な広さがあんぞ?』

『まあ、そうなんだが。もともと敵は居ねぇって想定されてた場所なんだし、何人かで広域探査を行えば、一時間も必要ねぇだろ』


 さすがに、若造が提案しても、一笑に付される可能性が高い。

 それに加えて、バッフスの英雄という肩書も重荷だ。下手をすれば、ちょっと活躍したからって調子に乗るなと、反感を買う恐れがある。

 なので、先輩を通して進言してもらうことにした。

 その際、治療院から呼び出され、明日の夕方に来るよう言われていると伝え、失敗すればフレディのせい、成功すれば先輩の手柄ってことで、協力を取り付ける。


 どうやら無事に提案が受け入れられたようで、遊兵となりつつある左右の両端から志願者を募り、即席の特別捜索班が結成された。

 そこにフレディも参加し、繊細かつ柔軟に操作できるようになった雷撃系探査術式を駆使して、広い探査範囲を猛然と調べていく。

 結局、フレディは一体しか見つけられなかったが、時間短縮に大きく貢献した。

 それに全部で六体しかいなかったのだから、一体でも見つけられたのは幸運なほうだと言える。

 ともかく、これで心置きなく包囲殲滅に専念できるだろう。

 特別捜索班も加わって、一気に包囲の輪を縮めていく。


「ふぅ~、こんなもんでいいだろ。やっぱ最後の見せ場は、精鋭たちに残してやらねぇとな」

「いや、本当に今日中に片が付くとは思わなかったぞ。さすが、バッフスの英雄だな」

「ちょっ、先輩、やめて下さいよ。オレは()()()()の英雄なんですから」

「実際、終盤の活躍は、なかなかのもんだったと思うぞ。それに、いつの間に、そんな器用になったんだ?」

「なんつーか、あの戦いで、自分の不甲斐なさを嫌ってほど味わいましたから。ちったあ上達しねぇと、散っていった戦友に申しわけないですからね。今は、繊細な霊力操作を特訓してるんですよ」

「それは素直に称賛するが、追い詰められないと本気を出さないのは、相変わらずだな」

「そこはまあ、面目ない。これでもオレは、必死なんですけどね……」


 いつの間にか、周りの戦闘も終わり、見物モードになっている。

 その注目を集めているのは、討滅委員会の精鋭たちだった。

 最後の一体をわざと残し、衆目を集めた上で一刀両断にする。

 黒い霧となって崩れ去る怪物を見届けると、聖なる剣を掲げて勝鬨を上げた。


 熱狂する雰囲気に合わせて、フレディも声を上げるが……

 たしかに繁殖能力は厄介だが、苦戦する相手でもないだろうに、よく勝ち誇れるもんだと、冷めた目……というか、内心で苦笑しながら見ていた。

 

「本当に世話のかかる奴だな。さっきのは冗談だから気にするな。フレディ、お前はよくやってるよ。まあ、いろいろと憎たらしい所もあるし、なかなか評価されないがな」

「なんすか、それ。褒めるんなら、最後まで褒めてくださいよ」

 

 ニヤリを笑う先輩に、フレディは困ったように微笑んだ。

 

 まだ、討ち漏らしの確認など、後始末が残っている。

 だが、数合わせで招集された者たちは、ひと足先に戻される事になった。

 思惑通り……というには運の要素が強かったが、何にせよこれで、フレディは堂々と治療院の呼び出しに応えられるようになった。


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