02 奇妙なお茶会 前編
「ふぇ、これ……は?」
少し大人びた所のあるシノだが、今は年相応……どころか、より幼くなった印象を受ける。
いつもの落ち着きはどこへいったのやら、きゅるリン☆……と、瞳が輝き、今にも小さな唇から歓喜の雫がこぼれそうだ。
ついさっきまで不安そうな表情で、どんな口実を作って逃げようかと隙をうかがっていた少女と、同一人物だとは思えない。
テーブルを囲っているのは、小さな女帝、真の天才術士、若き銀狼の三人。
呼び名だけを並べたら、物々しく思えるが、テーブルの上には色彩豊かなお菓子たちが所せましと並んでいる。
なのに、丁寧な挨拶と共に部屋に入ってきた店員が、さらにテーブルの隙間を埋めて去って行った。
普段は寄り道なんてできないし、術士会から渡されるお小遣いでは、そうそう贅沢もできない。それだけに、シノにとっては夢のような光景だ。
フレディが呆れたように口を開く。
「まさか、あの小さな女帝がねぇ。激辛せんべいでも食ってそうなのに、こんな乙女な一面があるなんてな。リタの奴らがこれを知ったら、卒倒すんじゃねぇか?」
「勝手に卒倒させておけ。ああ、勘違いしてもらっては困るが、私もこれだけ一度に注文したのは初めてだ。思った以上に楽しいものだな」
「楽しむのもいいけどよぉ、コレ全部食べる気か?」
「当然。育ち盛りの三人なら問題ないだろ。足りなければいくらでも追加するが……」
「おいおい、いくらなんでもそんなに食えねぇって。ポイントだってバカになんねぇぞ。支払いは大丈夫なのか?」
「何を他人事のように言っている。支払いはお前の役目だぞ」
一瞬の沈黙……
そして、フレディがガタンと椅子を揺らして立ち上がる。
「おい、ちょっ…待て! オレたちで割り勘ならまだ分からんでもねぇが、なんで全部オレ?」
「この前、怖い思いをさせた詫びだからな。私はとっておきの店を紹介し特別室を用意した。だから、飲食代の払いは貴様に任せる」
「任せる……じゃねぇよ! いくらなんでも、横暴だろ?」
「そうか。残念だ。私が払ってもいいが、その場合、貴様はこれに勝る詫びを一人で考えなければならないが……まあ、それはそれで楽しみだな。まさか、委員会メンバーともあろう男が、適当なもので済ますとは思えないし。さぞかし、私の予想を超えた、驚きと喜びを与えてあげられるのだろうな……」
フレディが絶望する。
これ以上の詫びと言われても、何も思いつかないし、どう頑張っても勝てる気がしない。それは、シノの表情を見れば分かる。
これ以上の笑顔を与えられるわけがない。
「ああー、もう、分かった、分かった。払えばいいんだろ」
「勘違いしてもらっては困る。無理強いするつもりはない。嫌なら断ってもらっても全然かまわない。それより、早くしないと詫びのつもりが意地悪なことになってしまっているのだが」
コトリが向けた視線の先では、すでに驚きと喜びを超えてしまったシノが、抑えられない衝動と戦いながら、目に涙を浮かべている。
まさに、お預けをくらった犬だ。
まさか、ただ見せつけられているだけで、ひとつも食べさせてもらえないのでは? ……とでも、思っているのだろうか。
それを見てフレディは観念した。
「あーもう分かったよ。喜んで支払ってやるよ。あー、カグラ、この前は怖い思いをさせて悪かったな。これは、オレたちからの詫びだ。おごりだから、好きなだけ食ってくれ」
「まあ、そういうことだ。そうだな、まずはコレを楽しんでもらおう」
そういいながら、コトリは手に取った皿をシノの前へと置く。
ホワイトチョコがかけられているのだろうか、白い三角錐のケーキだった。山を模してあるようで、凹凸があり、裾野付近には小さな窪地が作られている。
「ホワイトボルケーノだ。スプーンで山頂付近を軽く叩いてみて欲しい。ああ、もう少しだけ強くだ」
言われた通り、シノが山頂付近をスプーンで叩くと……
「ぅわぁ……☆♪」
シノは言葉にならない感嘆の声を上げる。
叩いた部分から、赤とオレンジの液体が流れ出したのだ。
「雪山の噴火だ。どうだ、面白いだろ」
「うん、キレイ……」
山体をほどよく染めた液体は、絶妙にして微妙な凹凸を伝って窪地へと集まる仕掛けになっていた。さながら溶岩の川と池だ。
「遊び心や奇抜さも売りだが、それだけではない。当然、味も絶品だ。さあ……」
どういう仕掛けなのだろうか。しっかり固まっていたはずのホワイトチョコが、流れたソースの作用か、プリンのようにスプーンで簡単にすくい取れる。
不思議に思いながらも、パクリとひと口。
「………!!」
人というものは、本気で美味しかったり驚いたりすると、言葉が出ないらしい。
シノは目を大きく見開いて動きを止めた。が、口だけはムグムグと動いている。しばらくして、コクリと喉を鳴らすと……
「ぅあ……、うわっ、わーっ。なにこれ……、これ、スゴイ……」
感情があふれだし、意味不明な感動詞を連発すると、もうひと口、パクリ。
「ちょっ、なにコレ!? すごい!! 美味しい☆♪」
余韻を楽しんでいるのか、ギュっと目を閉じ、落ちるほっぺを支えるかのように両手を頬へと当てる。
まさに、至福の表情だ。
「自信はあったが、実際に喜んでもらえると嬉しいものだな」
さすがのコトリも、相好を崩す。
それをニヤニヤと眺めるフレディ。
気づいたコトリが、仏頂面に戻って詰め寄る。
「なにか、言いたそうだな」
「あーなんか嬉しくてな。小さな女帝と怖がられちゃーいるが、こうして見ると、ただの女の子だなって」
「もう女の子という歳でもないが、見ての通り女だぞ」
両手を腰に当てて、少し控えめな胸を張る。
「ん? まだ十六だろ」
「あと少しでな」
「子供じゃねぇか。でも、勿体ねぇな。さっきの顔、他の奴らにも見せてやりゃいいのに」
「必要ない。別に隠したり勿体ぶってるわけではない。私も嬉しい時は笑うし、悲しい時は泣く。当然、腹立たしい時は怒ったりもする。リタの連中を見ていると憂鬱な気分になるだけだ。憂鬱なときに不機嫌になって何が悪い」
フレディは考え込む。
どうすれば、この難攻不落の女帝様を納得させられるか……
「あー、まあ、自分に正直ってのがダメだなんて言わねぇけどな。やっぱ、人生にゃ評判ってやつも重要でな……。それによってチャンスが生まれたり、消えたりするってもんだ。女帝様の願いは、下界の平和だろ?」
「別に私だけの願いというわけでもあるまい。術士とは、堕ちたるモノからファレンシアを守るため、守護精霊より力を授かった者たち。つまり、ファレンシアの平和を維持することが、すべての術士の義務であり、存在理由というわけだ。まあ、それはそれとして……。委員会メンバーともあろうものが、ファレンシアを下界呼ばわりとはいただけないな」
「あー、……だな。まあ、それは置いといてだ。ファレンシアで堕ちたるモノを退治してぇだけなら、許可証を手に入れりゃいいだけだが……」
「それがどうした」
「許可証で狩れんのは、いいとこEランクまで。それも、いちいちお伺いを立てなきゃならんし、どんな危険があるか分かんねぇって理由で委員会メンバーに手柄を奪われることも多い」
「堕ちたるモノが討伐されるなら、別に誰が倒そうが問題ない」
そう言いながら、コトリは身振りでフレディを制すと、新たなひと皿を手に取ってシノの前へと置く。
「思い出ムースだ。まずは、二色のムースを、それぞれ一口づつ食べてみてくれ」
皿の上には半分が白、もう半分が緑っぽいムースが入った器と紫色の液体が入った小さな容器が乗っている。
目を輝かせたシノは、スプーンを閃かせて、白っぽいほうをパクリ。
「うっ、すっぱ…」
続いて、緑っぽいほうへ。
「……ちょっと、ニガイかな」
柑橘系の酸味と、茶葉系の渋味に、舌を出しながら顔をしかめる。
「そうだ。そのままだと客を選ぶような味なんだが…。今度は二つをよく混ぜてから食べて欲しい」
言われた通り、二色のムースをよくかき混ぜる。
「えっ、なんで?」
どういうわけか、白と緑を混ぜたのに桃色へと変化した。首をかしげながら、ひと口パクリ。
「ふわっ……えっ、あま……い!?」
「不思議だろ? では、最後に添えてあるソースをかけて、よく混ぜて食べてくれ」
言われた通り、紫色のソースをかけ、スプーンでかき混ぜていく。
「す、すごい……真っ赤」
不思議に思いながら、あむっとひと口。
「あまっ……い、けど、優しい? 美味しい☆♪」
もう、すっかり夢中だ。
その様子にすっかり満足したコトリは、自分の皿を手に取って食べ始める。
「貴様も食べていいぞ。大人の味ならこれ。甘い物が苦手なら、この辺りだ」
「あー、悪いな。でも、大丈夫だ。オレも甘い物は大好物だからな。……ってコレ、オレの支払いなんだがな」
フレディは、苦笑しつつ、手近にあった無難そうなひと皿を手に取る。
「うむ、こりゃ確かに美味ぇーな。……じゃなくてだな」
「ん? どうした? 嫌いなものでも入っていたのか?」
「いや、コレはコレで美味ぇけど。そうじゃなくてだ。本気でファレンシアを救おうってんなら、今のままじゃダメだって話だ」
「そういえば、話の途中だったな。でもその前にひとこと言わせて欲しい。話が長い上に、回りくどい。もう少し要点だけを話してくれ。つまり、何が言いたい?」
「あー、まあつまりだ。ファレンシアで堕ちたるモノを狩りたきゃ委員会メンバーになるのが一番だ。強いのを狩りてぇなら討滅委員会だが、調査委員会のほうが自由に動ける。でだ。ここからが本題だ」
ズズッと、コーヒーをひと口すすり、喉を潤す。
「委員会メンバーになりてぇと言っても、誰でもホイホイなれるわけじゃねぇ。実力はもちろんだが、何と言っても人柄が重要視される。チームで動くことが多いからな」
「長い。私は要点だけを話せと言ったんだが」
「あー、もう分かった、分かった。単刀直入に聞くが、調査委員会フレズベルクの会員になる気はねぇか?」
「なるのは構わないが、別に今のままでも困らない。そもそも、なれるとは思えないが」
「思えねぇって、なぜだ?」
「小さな女帝の悪名は、術師協会に広まっているからな。わざわざ危険人物を採用するとは思えない」
誰に聞いても同じ答えが返ってくるような、模範的な回答だ。
だが、フレディは、ここが攻め時と思ったのか、身を乗り出して説得を始める。
「そう。そこだ。小さな女帝の実力は申し分ない。ポイントにはつながっちゃねぇが、討伐成績の評価は高い。一番のネックは、その悪名だ。それのせいで一方的に怖がられてるし、いつも一人で行動してっから協調性がねぇって思われてる。逆を言えば、小さな女帝のイメージを壊せば、最大の障壁がなくなるってことだ」
「言うのは簡単だな」
「まあ……な。それにだ。まだ女帝にゃ分かんねぇだろうが、仲間ってもんも悪くねぇぞ。みんなの心が力になったり、支えになったりすることもあんだよ」
「何かと思えば、そんな精神論まで持ち出すとは。言葉の信ぴょう性が一瞬で失われたな」
フレディとしては、別にいい加減なことを言ったつもりはないのだが、気持ちだ気合いだというものを信じていないコトリに向かってする話ではなかった。
「あー、いや、だからな……。ふぅ……まあいい。つまり……だな、ファレンシアの平和を願うのなら委員会メンバーになるのが一番。委員会メンバーになるには、小さな女帝のイメージを良くする必要がある。そのために、少しは周りの人間と仲良くしたほうがいいってことだ。そうだな、あえてお前の嫌う言い方をすれば、周りの奴らを利用しろってこった」
「なるほど、実に分かりやすい。初めからそう言えばいいのに。だが、返事はノーだ。周りの人間とは、リタの術士のことだろ? その狡猾さは術師協会の中でも群を抜いているからな。逆に利用されるのがオチだ。下手にチームを組めば、様々な理由を並べ立て、討伐はもちろん面倒事の全てを私に押し付け、成果だけを得ようとするのは目に見えている。それは貴様のほうが、よく知っていると思うが?」
「まあ……、それを言われると返す言葉もねぇな」
フレディ自身、そういう面倒事が嫌で、逃げるようにして委員会に身を投じた……という一面も少なからずあった。
だからといってリタ術士会と絶縁しているわけではない。今でも友人は多い。
まあでも、頼み事や口利きなんてものは、上手く理由を付けて全て断っている。
「あー、別に誰彼構わず仲良くしろってんじゃねぇよ。そうだな。一度にたくさんってのも厳しいなら、まずは自分が苦手なことを任せられるような、そんな相手を見つけりゃいいんじゃねぇか?」
「忠告にしては適当が過ぎるな。まあいい。そんな人物が現れれば、その時は考えよう」
「あとは、そうだな……。イベントなんてもんを利用するのもいいんじゃねぇか。競技会なら得意分野だろ。優勝でもすりゃニュースになるし、そこでケーキが大好きって暴露すりゃ、一気に好感度が上がるぞ」
「何故、戦いに勝利してケーキの話をする必要がある」
皮肉でもなんでもない。コトリは心底不思議そうな表情を浮かべている。
「いや、だから。んー、そうだな。たとえば強さの秘訣なんってもんを聞かれた時、疲れた時に甘い物を食べて気分転換をするって答えるのはどうだ。その流れなら、ケーキが大好きだって言っても問題ねぇだろ。ニッコリ微笑みながら言えば……」
フレディの視界に、どれを食べようかと物色しているシノが入る。
「あー、そうだ、カグラ。ちょっと、あのニッコリ、見せてやってくれ。あー、気に入ったヤツを持って、幸せそうにってのがいいな」
シノは夢中で食べながらも、話はしっかり聞いていた。なので、フレディの意図は理解している……のだが。催促されると少し照れる。
「あぅ、えっ? んー、これでいいのかな……。ケーキ大好きっ☆♪」
少し戸惑いながら、近くにあったエクレアっぽいもの――淡雪小倉エクレアを手に取ると、必殺の極上スマイルを披露する。
シノに感謝の言葉を贈ったフレディは、なぜかドヤ顔でコトリを見る。
「こういうのだ。こういう技を一つ身に着けるだけで、印象ってもんがガラッと変えられるんだが……」
「こう……か? ケーキ大好き◆」
ガックリと肩を落とすフレディ。
「あー、なんだ。別の方法を考えたほうがよさそうだな……」
「不服そうだが、そんなに駄目か?」
「自覚は……ねぇようだな。あのな、大好物のケーキを手にした女の子が、なんでそんな邪悪な笑みを浮かべられんだ?」
「私の笑顔は、邪悪……なのか?」
さすがに、この一言には少し傷ついたようで、スマイルの練習を何度も繰り返す。
「いや、スマン。さすがに邪悪ってのは言い過ぎた。なんていうか、もっと自然に笑えねぇのか?」
返事もせずに百面相を繰り返すコトリ。
しばらくその様子を見守っていたフレディだが、とうとう音を上げる。
「あー、なんだ。ちょっとカグラ、なにか可愛く笑うコツってもんを、女帝様に教えてやってくんねぇか」
「ふぇ?」
五つ目にかぶりつこうとしていたシノは、いきなり話を振られて驚くが、すぐに、人差し指をアゴに当て、上目遣いで考える。
「んー、コツっていうか。やっぱり楽しいことを思い浮かべるとか……ですかね。最近、笑ったのはどんな時です?」
「笑った時か。そうだな。やはり、この前、堕人を狩った時だな」
それを聞いて、フレディが突っ伏す。
食べかけのケーキを避けきれなかったのか、鼻の頭にクリームがついている。
「あー、なんだ。そりゃヤメたほうがいいな。そんなのを思い出しながら笑ったら、本気で邪悪になっちまうぞ。ったく、どうしたもんかな……」
腕組みをして考え込む。
桃梨クリームパイを食べ始めたコトリは、それを見て不思議そうに首をひねる。
「ふむ。笑いたくもないのに笑うことが、それほど重要だとは思えないが」
本日、何度目の落胆だろうか。フレディは苦悶の表情で、どう言えばコトリに伝わるのかと必死に考える。
「分かってねぇな。あのな、笑顔ってもんは、他人と円滑に付き合うための……あー、なんだ、とにかく必要なんだって」
結局、良いたとえが見つからなかったようだ。
「委員会に入れば集団で戦う必要がある、というのは理解した。だが、集団戦で大切なのは、与えられた役割をこなすこと。次いで、余裕があれば味方の動向を注視し、弱い部分を補うことではないのか? これも立派な助け合いだ。協調性とは、そういうものだろ? なぜ、わざわざ嘘の表情を作る必要がある?」
違う! ……と、即座に否定したかったが、困ったことに情を排除して考えれば、あながち間違いとは言い難い。
さらに困ったことに、コトリは本気だ。本気で不思議がっているのだ。
「……ったく。お前はもう解放されたんだからさぁ、そろそろ人間の情ってものを思い出してもいいんじゃねぇか?」
「何の話だ。思い出すも何もない。私は十分感情的だと思うが」
「ああ、もういい。分かった、分かった」
完全にさじを投げたのか、フレディは上げた両手をおどけたように振る。が、すぐに真剣な表情になって、大きく身を乗り出した。
「ああ、なんだ。最後にもう一度だけ確認してぇんだが、いいか?」
「ん? 何だ?」
「小さな女帝様は、本気で調査委員会のメンバーになりてぇか?」
「本気も何も、そういうものは気合でなるものでもないだろ。だがまあ、なって損はないな」
それを肯定と受け取ったフレディは、真剣な表情でうなずくと……
「よし分かった。まだどうなるか分からんが、オレが推薦人を集めてみる。それで、いいな」
「どうした? いつにも増して念入りだな」
「そりゃまあ、仕方ねぇ。推薦した相手に『気が変わったからやめた』なんて言われた日にゃ、面目丸つぶれの赤っ恥だからな。オレは気にしねぇが、他の奴らはブチ切れんだろ?」
「そうだな。了解した。決めたからには、採用されるよう全力を尽くす」
それを聞いて安心したのか、フレディはコクリとうなずくと、椅子の背もたれに身を預け、仰向けになって大きく息を吐く。
フレディにしてみれば、今日一番の大仕事を終えた気分だ。
実際には推薦人を集めるほうがよほど大変なのだが、それにはちょっとした勝算がある。
フレディは安堵の表情で、椅子に深く腰掛ける。
冗談抜きでシノが居てくれて助かった。
二人きりだと、女帝の機嫌は間違いなく最悪になっていただろう。そうなれば、話し合いにすらならなかった……と思う。
この小さくもたくましい幸運の女神に感謝をしつつ、カップに残っていたコーヒーを一気の飲み干した。