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彩式+救済者 -さいしきあっど すまいる!-  作者: かみきほりと
競技会デビュー

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26 反省会 -辛味紋★-

 翌日になっても、競技会のことで持ちきりだった。

 それは何もリタ術士会の中だけではない。

 ここ、術士会ベリガルの敷地内でも同じだった。


 オニール・ソルムは、ある人物を見つけると、巨体に似合わない俊敏さを見せ、しかも完璧に存在感を消して、通路のベンチに腰を下ろす。

 まあ、そのつもりだったのだが、いくら気配を消そうが目には映るわけで、しかもある意味有名人だから……


(あれって、あの変人だよな)

(あら、オニールさんが、こんな場所で何をしているのかしら)


 などと、速攻で正体がバレた。

 だが、誰も声を掛けようとはしない。

 それにオニールとしても、目的の人物に不審がられなければいいだけなので、周囲の反応など気にしてはいなかった。


 近くのベンチには、お爺さんと孫……の様な二人が座っていた。

 どうやら誰かを待っているらしい。

 初等部らしき女の子は、その暇つぶしなのだろう、個人用端末(スレート)で昨日の試合を視聴していた。

 補助視界(リピッター)なら他人からは見えないが、手に持つタイプの端末だと、他人からも見えてしまう。だが、そんなことをはお構いなしだ。

 ちなみに音声は本人にしか聞こえていないので、周囲には楽し気な少女の歓声だけが響いている。

 苦笑したお爺さんが、たしなめるのもお構いなしだ。


 もちろんオニールは、二人のことを知っている。

 お爺さんは、齢六十にして今でも現場(ファレンシア)で活躍している拳闘王トビー・クルック。そして、小さな女の子は、その弟子のロサ・トルエバだ。

 これから修業だというのに、トビーの孫で、ロサの兄弟子でもあるセルネイ・ハーミルトンが遅刻をしていて、合流するのを待っている……という事まで把握済みだったりする。


 オニールは、あくまでも偶然を装い、さも、楽しそうな声が聞こえたから気が付いた……という体を装って、声をかける。


「何だか楽しそうだね。あっ、クルック老師、ご無沙汰しています。ということは、こちらが自慢のお弟子さんですね。たしか名前は……」

「よう、オニールか。珍しい所で会ったな。いつも言っているだろ、老師は勘弁してくれと。お前さんを弟子にした覚えは無いし、まだまだ現役だからな。この子はロサだ。ロサ・トルエバ。なかなか筋がいいし飲み込みも早い。私の後継者だから、可愛がってやってくれ」


 軽くお辞儀をするロサに、オニールが微笑みかける。


「そうなんですね。分かりました。じゃあ早速……」


 そう言うと、オニールは術式で、倉庫から個人用端末(スレート)を取り出す。

 支給品なので、大きさは変わらないのだが……。ロサには大きく見える端末も、オニールが持つとかなり小さく感じてしまう。

 その小さな端末を操作しながら、オニールが問いかける。


「それって、昨日の決勝戦だよね。トルエバさんは、誰か気になった人とかいるかな。この人が気に入ったとか、もっと知りたいとか」


 この人は何だろう……と。オニールを不思議そうに見つめていたロサだが、それを聞いた途端に顔を輝かせ、端末を操作して、ひとりの選手を映し出した。


「この人。シノ・カグリャーカさん! 弓でドッカンしたり、避けるのも上手で、ぜひ組み手をしてみたいなって」


 ちゃんと名前が言えてないが、フレディよりもマシだ。

 そう思いながらもオニールは、困ったような笑顔を浮かべる。


「う~ん、多分だけど、その子は、あまり格闘技が得意じゃないかもね。トルエバさんと違って、遠くからバンバンするタイプだから」

「そうなんだ……でも、お話しとか、してみたい」

「ロサよ、お兄さんに言っても困らせるだけだぞ」


 さすがに聞きとがめたのか、トビーが苦笑しながらロサをなだめる。


「他所の術士会だからなかなか難しいが、ロサが活躍するようになれば会う機会もできるだろう。だから、今は精進を重ねることだ」


 オニールならば、無理やりにでも二人を引き合わせることができるのだが、さすがにやろうと思ってすぐに出来る事ではない。

 いろいろと事前に手回しが必要だし、タイミングを合わせる必要もある。

 オニールが直接シノを誘うのは不自然だし、フレディを介する必要がある。

 こちらはこちらで、いつでもロサを呼び出せて、ひとりで来てもらえるのなら楽だが、たぶんそうはいかない。間違いなくお目付け役(トビー)が付いて来る。そうなると説明が大変だ。

 別に他の術士会の人と仲良くしてはいけないという規則(ルール)はない。だが、相手が優勝者(フレディ)に加えて女帝さま(コトリ)だ。その縁で知り合ったとなれば、間違いなくあれやこれやと詮索されるだろう。

 いずれ会わせてあげたいとは思うが、この場で確約ができない以上、余計な期待を持たせるのは避けたほうがいい。


「じゃあ、トルエバさんには、これをあげるね。僕が独自に編集した非売品だから、どこにも売ってない貴重な映像だよ。老師にも送りますので内容をチェックしてもらってもいいですよ」

「チェックの必要はないだろ。別に構わないよ」


 巨体に似合わない繊細さで、オニールは手早く端末を操作して、ロサに映像を送る。


「ありがとう、オニールさん」


 ロサはまだ不思議そうな表情だが、頭を下げてお礼を言う。

 送信が完了したのを確認したオニールは、笑顔で席を立つ。


「それでは僕は行きますね。趣味レベルですけど、この手のことなら相談に乗りますので、クルック老師もいつでも声を掛けて下さいね。それでは失礼します」


 丁寧にお辞儀をしてから、ロサに向かって笑顔で手を振り、去っていく。


「シショー、オニールさんって不思議な人だね」

「そうだな。変わった男だが、悪い奴ではない。だから、そこは安心してもいい」

「うん。分かった」


 早速ロサは、オニールからもらった映像を再生する。そして……

 中継されていた映像だけでなく、ニュースや広報など、あらゆる場所から集めて来たのだろう。まさにシノ特集だった。初めて見る映像も多く、それが見事にテンポよく切り替わっていき、ロサも大満足だ。


「シショー、オニールさん、すごいね。オニールさんもカグリャーカさんが好きなのかな……」

「どうかな。あの男のことだから、選手全員分の映像を用意していると思うぞ」

「へぇー、すごいね」

「その才能を、別の所に活かしてくれればいいんだが……」


 苦笑するトビーの横で、ロサは再び映像を見始める。

 歓声を上げたり、質問をしたりと、大はしゃぎだ。

 それは、セルネイが到着して修練場へと向かい、稽古が始まるまで続いた。




「これ、すごいですよ。ピリピリって舌が痺れますけど、その後に美味しさが残って……、身体が温かくなって、すっごく元気になりそうです」


 その、話題のシノは、激辛料理を食べて、喜んでいた。


 いつものお店『奇妙なお茶会』ではない。

 同じ術師協会エリアの商業区にある『辛味紋★(モンスター)』という店だ。

 コトリが見つけて来た店なのだが、甘味専門店『甘味紋★』の姉妹店で、辛旨を追求したお店なのだそうだ。

 コトリ自身、気になってはいたものの、まだ一度も訪れたことがなかった。


 この集まりは、いわゆる昨日の反省会という名目の食事会だ。

 なのでメンバーは、フレディ、コトリ、シノに加えてアデラも参加している。

 この店に決まったのは、全員が「甘いのも辛いのも大丈夫」と答えたからで、ならばとコトリが独断で選んだのだ。

 その決め手となったのは、味や評判もさることながら、多くの小部屋が用意されていることだ。昨日の事もあるので、この四人が集まって食事をしていたら、周りの目を集めてしまう。なので、落ち着いて食事をする為にも、この条件は必須だった。


 旨辛香味から揚げ、旨辛味噌野菜炒めが、テーブルの中央に置かれている。

 これが、この店での標準的な辛さだ。

 これなら四人とも、美味しく食べられると分かった。

 そこで、次に頼んだのは、様々な辛さが楽しめるバラエティセット。

 甘辛、ピリ辛は無いが、旨辛以上の、中辛、大辛、特辛、激辛、極辛まで、六段階の辛さのカレーライスが、少量ずつ用意されている。

 色だけ見ても極辛はヤバイと分かる。

 それを四人で分け、自分好みの辛さを探していたのだが……


「極辛は……美味しいけど、ちょっと辛いかな。私には特辛ぐらいが丁度良いみたいですね」

「よくそんな(かれ)ぇもん、食えるな」

「私もビックリです。たぶん味が美味しいからかも」


 意外にもシノは、辛いものに耐性があるようだった。

 コトリは大辛を選んだが、フレディは中辛でギブアップし、旨辛が一番美味いと結論付けた。

 そしてアデラは……


「これ……全然平気かも……」


 そう言いながら、極辛をペロリと平らげた。

 その結果、フレディは旨辛焼き飯定食、コトリは大辛餃子と中辛焼き豚麺、シノは激辛春巻きと野菜たっぷり特辛タコス。そしてアデラは……


「じゃあ私は、限界突破、虚無辛パスタと、虚無辛の手羽チキンで」

「はい。限界突破メニューの……って、えっと……何か警告が出てますね。この先のメニューは本人の同意が必要……みたいです」


 注文用端末(オータブ)を操作していたシノが、不穏な事を言い出した。

 なんでも、この先のメニューは「お客様の体調が悪化しても、当店では責任を取りかねます」なんて物騒な事が書かれており、本人の同意が必要なのだそうだ。

 シノから端末を受け取ったアデラは、画面を一瞥すると、迷わず認証を行って注文を終える。

 限界突破メニューには(てん)辛と虚無辛があり、アデラは迷わずこの店で最高の辛さである虚無辛をチョイスした。

 虚無辛は、これ以上の辛さを追求すると、旨さが保証できなくなるという、店のこだわりの限界らしい。


 ワゴンで注文の品を運んできた店員は、誰が食べるのかを確認し、他の人は、ほんの少し舐める程度にして欲しいと、かなり強く念入りにお願いをしてきた。

 さらに、部屋の中をモニターで監視した上で、緊急事態が起こったと判断すれば、無断で入室させてもらう……だとか、体調の確認をさせてもらい、場合によっては緊急搬送をさせて頂く……だとか、かなり不穏な言葉を残して去った。

 もうそれだけで、フレディの顔色が悪くなったような気がする。


「うん、確かに辛いけど、すごく美味しいわね」


 これが、皆の視線が集まる中で、ひと口目を食べたアデラの感想だった。

 やせ我慢をしている様子はない。本当に心からそう思っているようだった。


 シノも激辛春巻きをひと口食べる。

 うん、しっかりと辛い。だけど、ちゃんと美味しい……気がする。

 そのままひとつをペロリと食べる。

 そこへ、白桃王女猫(ハツツミイチゴ)からの念話が届いた。


『ちょっとシノ、すごく言いにくい事なんですけれど、あまり調子に乗って辛い物を食べないほうが、よろしいですわよ』

『えっと……それは、どういうこと?』

『昨日、あのお薬を飲みましたわよね』

『お薬? ……って何だっけ』

『もう忘れてしまったのかしら、ホントに仕方のない子ですわね。霊撫水(ロワナエール)の事ですわ』


 別にシノはボケていたわけではない。

 昨日は、いろんな意味でギリギリだった。特に気絶した後の記憶が曖昧だ。

 だが、そこまで言われると思い出す。


『そうだった。お陰で助かった……のかな?』

『まあ、それはいいのですけど、その霊撫水(ロワナエール)の後遺症で、貴女の味覚がバカになってますわよ。そうでなくては、貴女が辛い物なんて食べられるわけがないでしょ?』

『ん~、でも、私も成長しているし、辛いものが平気になったのかも……』

守護精霊(フィセーリア)として断言します。絶対にそんな事はありえませんわ。昨日のきのこドリア、どんな味だったかしら? たぶん、覚えてませんわよね。後でお腹やお尻が痛くなるのが嫌でしたら、ほどほどにすることですわ』

『うん、分かった。……けど、注文しちゃったし、残したらもったいないよね』

『でしたら、レモネードや乳製品……そうですわね、牛乳やヨーグルトを注文なさい。気休め程度ですけれど、少しはマシになるはずですわ』

『うん、分かった。イチゴ、いつもありがとう』

『それが私の役目ですから』


 言われた通り牛乳を注文し、食べ急がないように、そして具材をこぼさないように注意しながら、特辛タコスにかぶりつく。

 味覚が壊れているにしては、しっかりと美味しく感じられる。

 それでも、白桃王女猫(ハツツミイチゴ)の忠告に間違いはない……はず。

 できるだけ牛乳と交互に、食べ進めていく。


「エリスン、美味そうに食ってるよなぁ。それ、本当に店で一番辛いもんなのか?」


 この中で一番、辛いものに弱いはずのフレディが、なぜか無用の好奇心を発揮する。でもまあ、一度は試してみたいという気持ちは、分からなくもない。

 その結果、三人にパスタが一本ずつ配られた。


 シノはお礼を言って、恐る恐る食べてみる。


「……ん?」


 意外と食べれる。それに、美味しい。

 だが、次の瞬間、死神の鎌が振り下ろされた幻覚を見る。


「!!!!!!!!」


 慌てて、残っていた牛乳を一気飲みする。

 尋常ではなかった。

 本気で意識を刈り取られるのかと思った。

 とりあえず、新たにもう一杯牛乳を注文する。


 なんとかシノは、少し取り乱した程度で済んだが、気付けばフレディは床に轟沈していた。

 コトリが食べる瞬間を見逃したが、今は「辛い、辛い」と言いつつも、顔を赤くしてニタリと笑みを浮かべている。

 ……強敵との死闘を乗り越えた、猛獣のようだ。


「アデラさん、よく平気で食べられますね。辛くないのですか?」

「もちろん辛いわよ。でも料理は美味しいし、ちょうどいい刺激よね」

「そう……なんですね」


 やっぱり、守護精霊(フィセーリア)火精霊(サラマンダー)なのと関係があるのだろうか。

 そんな根拠のない推測をしつつ、シノは受け取り口に届いた牛乳を取りに行く。


「これが、ちょうどいい刺激とは恐れ入った」

「そ、……その、わ……たしも、こんなに辛いものに強いって……思って無くて……その……」


 コトリと視線が合ったアデラは、しどろもどろになって言い訳を始める。

 もちろん、コトリは普通に感心しただけだが、アデラは絶対絶命の恐怖に襲われた。みんなが虚無辛に抱いた恐怖よりも、さらに強くて深い恐怖だ。

 そんな事態になっているとは露とも知らず、シノはフレディを介抱する。


「フレディさん、大丈夫ですか? 意識はありますか?」

「……あぅ、あ……」


 どうやら意識はあった。だが、呼吸をするだけでも痛みが走るようだ。


「返事はしなくていいですよ。はいどうぞ。冷たい牛乳です。飲めば少しは楽になりますよ」


 震える手でコップを受け取ったフレディは、少しこぼしながらも、なんとか口の中へと注ぎ込み、喉へと流し込んでいった。

 シノは念のために、追加で注文をしておく。


「……シノ、助かった……」

「無理に話さなくてもいいですから。ちょっと身体を動かしますね」


 さすがに床に突っ伏したまま放置するのは不憫なので、空になったコップを受け取って、フレディを椅子に座らせる。

 守護精霊(フィセーリア)の加護のお陰で、こう見えてもフレディを抱え上げることぐらいできる。

 さらに、受け取り口に届いた注文の品を受け取りに行く。


「やっと落ち着いてきた。ホントに助かった」

「フレディさん、牛乳とヨーグルト、どっちにします?」

「えっ? ああ、じゃあ、ヨーグルトで」


 フレディの前にヨーグルトを置き、自分は牛乳を持って席に着く。

 ここに来てやっと、アデラの状況に気付いたフレディが仲裁に入る。


「おいおい、女帝さま、鏡で自分の顔を見てみろ。赤鬼みてぇになってっから、エリスンが怯えてんじゃねぇか」

「貴様、相変わらず失礼だな……、いや、確かにそうか。脅かすつもりはなかったが、済まなかった」

「そ、……そんなっ、滅相も……ないです。私が勝手に……怯えてただけで……」

「びっくりさせちまったが、アレで女帝には一片の悪意も怒りも無いんだぜ。それどこか、何故怯えさせたのか不思議に思ってたりするんだ。だから、悪く思わないでやって欲しい」

「は……はい」


 なんとか気持ちを立て直したアデラは、最後に残っていた手羽チキンを食べ始める。


「フレディ、そろそろ本題を始めようか」

「そう……だな。反省会を始めるけど、食べたままでいいからな。まだ足りなかったら、ジャンジャン注文してくれ。どうせオレのおごりだ、遠慮はいらねぇぞ」


 とうとう本題が始まる……と気を引き締めたアデラだが、内容は本当に昨日の振り返りで、期待……というか警戒していた派閥争いや権力闘争なんて話は、欠片も出てこなかった。

 この場面で何故この行動を選択したのか……とか、ここのコレを見落としたから、余計な時間がかかった……とか、そんな感じで進んで行く。

 結局、すごく勉強にはなったが、拍子抜けしてしまった。


 ひと通り反省会が終わってから、アデラはシノに聞いてみた。


「ちょっとシノ、いつもこんな事をしてるの?」

「反省会は初めてですね」

「それにしては落ち着いてるじゃない。あの二人と一緒なのよ。なぜ平然としてられるのよ」

「あっ、反省会は初めてですけど、お二人とは縁があるみたいで、よく会ってますから。それに、フレディさんには、よくご馳走してもらってます……よね?」


 まさか……と半信半疑なアデラだが、フレディが肯定する。

 しかも、意外な言葉で。


「いやまあ、シノにはいろいろと世話になってるからな」

「えっ? えっ!? シノが、フレディさんの世話を? 逆じゃなくて?」

「フレディさんからも、いろいろと教わってますよ。コトリさんからも」


 このひと言で、さらにアデラが混乱する。


「コトリさんって……えっ? イマイさんからも!?」

「私も、シノから教えられる事は多い。つまりは、この三人は互いに勉強をし合い、高め合う仲間だな」

「ああ、そうだな。たまには女帝もいい事言うじゃねぇか」


 アデラが抱いていた疑問が、ここにきてやっと全て解消された。

 つまり、この三人は以前から知り合いで、権力闘争やリタ術士会の内情に関係なく、互いに実力を高め合っている関係なのだ。

 シノの意外な実力も、堂々としているわけも、よく分かった。


 アデラの周囲にいる大人たちは、ちやほやする割に、ライバルが増えるのを嫌っているのか、何も教えたがらない。だから、技術は盗むしかないし、実力は自分で努力して伸ばすしかない。……そう思っていた。

 なんだか悔しいし、正直に言えば羨ましくて仕方がない。


「まあなんだ。オレはとにかく間が悪い。天性の生まれ持ったもんで、どうしようもねぇ部分でもあるが、それを前提に対策をすればいい。シノはどうだ?」

「私は接近戦ですね。あとは……必殺技みたいなものが欲しいですよね。扇を飛ばすのは、必殺技と呼ぶには少し弱いですよね」

「まあそうだが、シノの場合はペース配分だな。常に全力だから、ここぞという時に体力や霊力が無くなるんじゃねぇか? 上手に手を抜く事を覚えたほうがいい」

「そうですね。じゃあ、次はアデラさんですね」


「えっ? 私? ……そうですね。私の場合、フェル……えっと、守護精霊(フィセーリア)に頼りっきりでしたから、もっと法術の修練をしないと。それに、もっと自由な発想で技を増やしていかないと実戦だと厳しいですね」

「エリスンの場合は、オレと同じで守護精霊(フィセーリア)が優秀だからな。だから、任せる所は任せて、それを援助できるように技を磨くのもいいかもな。任せっきりじゃなくて連携をする……みたいな」

「そうですね。いろいろと課題が多いです」

「その歳でそれだけやれりゃ上出来なんだが……そうだな。守護精霊(フィセーリア)をもっと信頼して、唯一無二の相棒(パートナー)として連携ができるようになれりゃ、見違えるほど強くなれると思うぞ」

「はい。頑張ります」


 アデラは何だか、本心を見抜かれた気がしてドキッとした。

 他人はアテにならないから、自分ひとりで頑張らないといけない。

 ずっとそう思っていたし、今でもそう思っている。

 だから火精霊(フェル)の事も、自分が上手く操ってやらなきゃと、半ば道具のように思っていた。

 でも、フレディやシノは違った。守護精霊(フィセーリア)を信頼できる相棒(パートナー)として扱い、互いの欠点を補いながら戦っていた。

 考えてみれば、火精霊(フェル)とは喧嘩どころか相談もした事がない。いつも一方的に指示するだけだ。

 一度に変わることは難しいとは思うが、今度じっくり話し合ってみようと思った。


「そういえば、イマイさんの守護精霊(フィセーリア)は見てないですよね。どんな姿なんですか?」

「あっ、私も見てないですよね」


 よくよく考えてみれば、シノも知らない。

 アデラの疑問は、至極もっとなものだったが、部屋の空気が一気に重くなった。


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