昔、悪役令嬢と言われ、婚約破棄され、断罪された後、今は28歳で独身、魔法学園購買部の店員のおばちゃん(お姉さん)をしていますがなぜか生徒から愛を告白されてしまいました件
『……マーガレット・アイリーン・グラハム、庶民といってマリアンヌをいじめ、階段から突き落として殺害しようとした罪により婚約破棄し、ここに断罪する!』
うぐおおおおお、私は階段から突き落としなんかいないってば! 階段から落ちようとしたあの子を救ってあげようとしたら、あの子が笑いながら階段から落ちていったんだってば!
え? 断罪で辺境追放とかや~め~て~!
あ、うわあああん……。
「……ねえ、おばちゃん、これ頂戴、寝てるの?」
「う、寝てなんか、私はいない、目を閉じて瞑想を……」
「それ寝てるっていうんだよ。ほらこれ頂戴」
「ねえ、クリス君、私はまだ28歳! おばちゃんじゃなくてお姉さん!」
ああ夢か、私は口元の涎を服で拭う、うう、元侯爵令嬢とも思えない姿だわ。
目の前にいるのはあきれたという顔のクリス少年。
「……僕はまだ16、僕から見たら十分おばちゃん」
「わかりました、はいはい、マジックペン。5ギルで~す」
「やる気のない店員だなあ、まあいいやほら」
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしています」
カウンター越しに私は挨拶をする。ペンを袋にいれて、ちゃりんと受け取った硬貨をレジに入れた。
クリス少年ははあとため息をついて、涎まだついてると小さくつぶやき、女性らしくしてよ少しくらいとまたため息をついた。2回もため息ってひどいわ。
「……はあ暇だな~」
ここは魔法学園、ウォッチギルド、というかネーミングセンス悪いわ。
私はここの購買部の住み込み店員です。
いや、しかしね、今はテストが終わったばかりだから皆遊びに行っていて、暇だわ。
私は……本来なら国の中心で政治や社交に携わっていろいろしていたはずなのに。若人におばちゃんと言われ、いきおくれの28歳。
しかも店の店員なんてね……いや職業に貴賤はない……。
「あーあ」
私はカウンターに突っ伏し、どうしてこうなったんだと考える。
そしてまた魔法学園に王太子妃候補たちが入ってきてきゃきゃうふふをしているのを見てなんだか嫌になってきた。
私は15歳の時、王太子殿下の婚約者になり、16で殿下の愛するマリアンヌ(今は王妃)を階段から突き落として殺害しようとした罪とやらにより婚約破棄され、辺境送りになった。
学園は中退、家からは縁を切られた、そして隣国に流れ着いて、今はこの魔法学園に就職、15歳の王太子に釣り合う王太子妃候補が集められたというわけです。
「……どうしてこうなったんでしょう」
魔法の才はあったので、なんとか魔法協会に拾われ、そのあと、購買部の商売の権利を持っていたおやっさん(享年65歳)にここを譲られ、一生涯独身でも生きていけるよって身分になりまして。
おやっさんにはお世話になりました。幼い時に亡くなった娘さんと私がよく似ているとやらの縁で拾ってもらい、就職まで世話してもらい。
そして13年してここに至る。
ざまあとか、復讐とかやりたいと思っていた気持ちは消え失せ、国家と戦うという気力もなく。
私は無実の罪を払拭できず……ここに至る。
「ねえ、何してるの? おばちゃん!」
「うお、クリス少年! どうしたの!」
「いや、マジックペン、機能してない、これ不良品だよ」
「あ、そうですかではお取替えさせていただきます。もしくは返金で」
クリス少年はここの常連だ。一日に1度は来る。試験前はもっとくる。
ここは魔導書とかもおいていて、一応手にとって読めるので、クリス少年みたいな優等生が通ってきたりしたこともあった。でもその中でも彼は常連でこの1年ずっと通ってきていた。
ここにやってきて8年、もう人生も終わりかけかもしれません……。
「あと、私はお姉さん、もしくはアイリーンさん」
「そしたらえっとアイリーンさん、これ不良品だから取り換えでお願い」
「はい」
相変わらずクリス少年、まつげが長く、かわいい。金髪碧眼の王子様みたいにかわいいのに口が悪い。
王太子殿下も同じ色彩だけど、もう少し大人っぽいというかぶっちゃけ私と見た目が変わらないというか老けている……。まあクリス少年のおばちゃん呼ばわりも半分以上は冗談ってことを知っている。
それ以外にはもっときついお仕置きをするがね(おばちゃんではなくお姉さんと何十回も囁いたり)
「マジックペンの製造元に文句を言わないと……」
「まあそれでもいいけど、ねえアイリーンさん、そういえば王太子殿下が舞踏会を開くって」
「ふーん」
私は返品伝票を書き上げ、製造元が違うが同じ値段、同じ機能のマジックペンをクリス君に渡した。
舞踏会なんて何年いってないかなあ。
「招待状、これ」
「へ? どうして私に」
「一応渡しておく、ドレスなども用意をしてくれるって学校側が」
「なんでクリス君が?」
「渡すよう頼まれたの」
「ふーん」
「あと、あのこと考えてくれた?」
「あの冗談が何か?」
クリス少年がここに通うようになって1年目、つまり1週間前、私はこの少年に愛とやらを告白された。誰かとかけをしているのかそれとも冗談とみて軽く受け流してから何も言ってこなかったが……。
「あのさあ、僕、嘘は嫌いなんだ。だから僕はもう少しでここを飛び級で卒業するから、あなたに会いに来れなくなるアイリーンさん、だから僕とつきあってほしいっていったんだよ。あなたのことが好きなんだ」
……告白された、でも冗談だと思っていて、というより12歳も年下に告白とかって。
「冗談でしょう?」
「そんな冗談言うほど暇じゃない……」
私は彼のことは嫌いではないが、なにせ年下すぎる。私はどう返事を返そうかもごもごしていたら……。
「とりあえず、舞踏会にきて、寝坊しないでね」
「わかりました……」
この1年、彼のことをみてきましたが、でもひらひらと手を振って帰っていく彼の背丈はそういえば私より高くなってましたねえ。
ああ、でもねえさすがに年が……。
そんなこんなで悩んでいるうちに舞踏会の日がやってきて、私はドレスに着替え、メイクをして髪型を整え、舞踏会にむかいましたとさ。
……暇だわ、一人浮いている。
壁の花となっている私は若人たちがきゃっきゃうふふをしている様子を見ています。
この年齢の人なんて教師くらいしかいない。
教師は監督役だから、私は一人浮いている。
「……クリス君はどこだろう」
きょろきょろしていると、ラッパの音がして、王太子殿下の登場を告げる言葉が辺りに響き渡って、あれ、殿下の横にクリス君がいる……。
「王太子、クリストフ・メディークだ。ここにめでたく私が16を迎え、わが婚約者を決める時がやってきたことをここに宣言する!」
宣言をしたのはなんと……クリス君、えっとこれはどういうことというか、クリス君が王太子殿下で、えっとあの隣の人は? 王太子って……。
「この隣にいるのは私の侍従だ。この1年、私の影武者としてこちらに通ってくれていた。私は一生徒としてこちらに通い、わが伴侶となる女性を見つけ出した!」
ああ老けていると思ったら、侍従さんだったのかと思い、私は頭の中が真っ白になっていたのだった。
わが伴侶とは?
「アイリーン・フォークル嬢、私はあなたを婚約者に指名をする。拒否権ももちろんある。お返事はいかに?」
フォークルってのは死んだおっちゃんの姓であり、私は養女で、アイリーン・フォークルってのはえっと私? 私がどうしようどうしようとおろおろしていると。皆がこちらをじーっと見てくる。
返事をすぐしろって、えっとどうしたらいいのか。
「……保留でお願いします。お付き合いもしていない殿方とさすがに……」
「ではお付き合いとやらをしてから決定ということで?」
「それでお願いします……」
もごもごと私が答えると、わかったと彼がうなずく。
小さい声でも聞こえるように魔法を使っているんだたいしたもんだ。
とか思っている場合ではない、年上すぎるんだけど……。
この国の伝統として、愛が大切にされ、愛がない婚約、愛がない結婚はないというか……。
愛さえあればなんでもありっていうか。
政略結婚というものがない、だからみな必死に王太子殿下(仮)にアピールをしていたんだな。
上にたつものは寂しがりやで、愛がそれを支える。初代の王が愛する聖女に支えられ、建国をして、そこから愛が一番大切にされるんだ。
でも愛し愛されが一番だから、拒否権もあるんだよねえ……。今みたいな場合。
だからこんな年上でも皆反対しないらしい。
私は朧気にあの舞踏会のことを考えていた。
あれから数日、あの時のことはあんまり覚えていない。どうもあのあと気絶をしたらしく、医務室に運ばれ、そのまんま。
熱を出して寝込んでました。
「……ごめん、アイリーンさん、だまし討ちみたいなことをして」
「まあいいけど……」
あの後クリス君がやってきて説明してくれたところによると、やっぱり影武者をたてて1年、自分の恋人候補とやらを探していたらしく、その白羽の矢がたったのが私らしい……。
身分なしに愛してくれる人を探していたとのこと。
「アイリーンさんってドジで間抜けだけど可愛くて、支えてあげないとなって思って」
「でも王太子の婚約者は保留にして、今は一応おつきあいをしてということで……」
「うん」
ああやっぱりかわいいなあ、というかこんな年上でもいいんだろうか? 私は購買部の奥にある私室で彼とお話をしていた。
真っ赤な顔のクリス君はかわいいし、嫌いではない。
だがしかし愛とか恋とかに発展するといわれたら、嫌いじゃない、好きだという気持ちはあるがわからない。恋愛不感症気味なんですよ。あの時から……。
「あ、そうだ、隣国の王があなたに無実の罪をきせたというのは聞いたから、それは撤回させておいたよ」
「へ?」
「マリアンヌって女はうちの王室の宝物を盗んで昔にげた女でね、その罪がわかっているので引き渡しをするようにも言っておいた。だから王妃の座を追われて、ここに引き渡されてくるはずだよ」
「は?」
「アイリーンさんさえよければ裁判に出席する?」
この展開って……クリス君がにこにこと笑いながら、あなたにひどいことをしたやつらは僕がすべて消してあげるよとかわいく笑う。
えっと私、もしかしてやばい選択をしました?
にこっとまた彼は笑い、耳元で小さく私にこうささやいたのだった「もう逃がさないよ」と……。
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