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恋バナが 好きなオバサマ マイスター

「恋愛職人?」

「もちろん職業ではございません。友人達の恋愛を成就させていると、そう呼ばれる様になりました」

 仲間内のニックネームか!恋バナ好きが高じてなのね。

「他人の恋路のお世話か!そんな事していたのか?」

「はい、ドワーフ暮らしをする前ですが」

「それはそれで幸せそうだけど、何故ドワーフに?」

「駆け落ちしました。父が夫との結婚には反対でしたので」

 そんな情熱的な事まで実行するとは…。職人の名は伊達ではないって事で良いのか?


「それではエイジ様、別室にてお話を伺わせて下さい。エイジ様の事情を考慮した上で女性陣からもお話を伺います」

「分かった」


 恋愛職人、その亜種は昭和には居た。別に頼まれた訳でも何でもないのに矢鱈と他人の縁談をまとめたがり、それを至上の歓びとしていた。

 またの名を、お節介おばさん!

 日本の初婚年齢の上昇、それに伴う少子化は、そのお節介おばさんが時代の流れでほぼ絶滅した事も一因だと言う説も有るが、本当なんだろうか?


 俺はスーと別室に入り、これまでの事を掻い摘まんで話した。流石に話せない事も有るから、そこはオブラートに包む。

「分かりました。エイジ様のお気持ち」

「本当に?自分でもモヤモヤしてハッキリ分かっている訳でもないのに」

「こういう事は第三者の方が分かる物ですよ」

 スーは自信満々に微笑んむ。

 年は俺よりも下、30代後半頃に見える。小柄だがパワフルな感じの女性だ。


「ところでエイジ様、エリスの事ですが」

「風のお告げで俺の嫁になるって言っていた」

「その事は気になさらずに。あんな環境で育った娘ですので」

「うん、特殊な環境だ」

 採石場の中に有る村って言うより集落か。総勢12人の。確かに人格形成には不向きな所だと言えるだろう。


「ええ、あの歳になって初めて見たドワーフ以外の男性がエイジ様なのです」

「そうなのか?」

 どんだけ閉鎖的な環境なんだ!


「コミュニケーション能力に難が有るとは思いますが、悪い子ではありません!」

「同性から嫌われるタイプだよな?」

「それは認めますが、やはり同世代の女性とも会う事が初めてでして」

 初めての同性で接し方が分からずに、本能的にマウントを取ろうとでもしたのか?

 取り敢えずあの上目遣いは止めさせよう。それだけでも幾らかマシになるだろう。


「あんな所でしたから皆で家族同然に暮らしていました。ですからエリスは私達全員の娘なんですよ」

「なるほどな」

 ただの近所のおばさん以上にエリスを心配する理由はそこか。


「エリスの母親は随分前に亡くなったと聞いたけど、何年前?」

「いえ、エリスは捨て子でした」

「捨て子?」

 思わず大声で聞き返す。突然の大声に驚いたスーに謝ったが、これは意外だ。

「色々と出来上がった剣や防具等を定期的に街まで売りに行くのですが、16年前に領都まで行った帰りに山中で」

「それでトニーが育てたのか?」

「はい。ドワーフ生活に嫌気が差した奥さんに逃げられたばかりで寂しかったのでしょうね」

 そうか、トニーは奥さんに逃げられたのか。まぁ、奥さんにしてみれば天才建築家と結婚した筈なのに、気が付けばドワーフって詐欺みたいだよな!



「それはそうと、私なりのエイジ様の分析結果です。エイジ様はお仕事に邁進されていて、女性との交際は二の次三の次にされていました」

「まあね」

 二の次三の次にしたくてした訳ではないんだけど、そういう事にしておこう。

「それに、お優しさ故に押しの強い女性には抵抗出来ない傾向がございます!」

 それは否定出来ない。


「しかし、そんな女では苦労する事は火を見るより明らか!多少は地味でも控え目でしっかり者の方が良いと思います」

「しっかり者ねぇ」

 該当するのはクレアしか居ないが、全力で拒否られたばかりだ。

「エイジ様、女の言葉を額面通りに取らないで下さい」

 ウフフッとスーは悪戯っぽく軽く笑う。


 途中に話題を変えながら、暫くスーと問答を繰り返した。スーはカウンセリングなんて言っていたけど。

「エイジ様はもう結構です」

 言われて立ち上がると、スーが俺をジッと見つめているのが分かった。

「何か?」

「いえっ、エイジ様は不思議な魅力をお持ちですね。私も夫が居なければコロッと落ちていたかもしれません」

「魅力?」

 そんな事は初めて言われた。

 異世界の人間ならではの何かが有るのだろうか?


 部屋を出た俺は適当な理由を言って、ロンを連れて外に出る。

「ロン、頼みが有るんだ」

「はい、何なりと」

恋文(ラブレター)を書きたいから、必要な単語を教えてくれ!」

 ロンは鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をして、落ち着くのに1分程度掛かってようやく言葉を発する。

「先生、でしたら私めが代筆を!」

「それじゃあ意味が無いんだよ!」

「失礼しました!で、どなたに?」

「スーが弾き出す、俺に相応しい女にだ!」

 今の俺は誰かを深く愛している訳ではない!いい機会だからフラフラしないで本腰を入れなければ、何も変わらない。

 

 恋を成就させたければ手紙を出せと、スーからアドバイスを受けた。

 さて、誰になるのやら。恋愛職人のお手並み拝見。

 俺も頑張るけど。

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