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オバサマは 色恋ごとの マイスター

誤字脱字のご指摘、ありがとうございます。

「また色々と変わった人を連れて来たわね!」

 トニーら、元エセドワーフ達の歓迎会として連れて来たのは、当然ながらクロエの店だ。

 店に入るなりクロエは厨房から出て来て、呆れ顔で言った。

 確かに、昼寝して起きたら子供から大人になったミラとか、性奴隷だと思い込ませられていた娘達とか、俺に負けて弟子入りした市長の息子のロンとか、元暗殺者のヨハンとか。真面なのは俺、リック、ベン、リーチさん夫妻くらいか。

 あっ!俺も異世界の人間だった!

 そして今度はエセドワーフ。本当、変なのばっかり!


「エイジ様、此方の方は?」

 エリスがまたしても上目遣いだ!

「彼女はクロエだ。俺が最も信頼している料理人だ!」

 それは確か。他の料理人は知らないし!


「エイジさん、そちらは?」

 クロエはエリスを一瞥すると、怪訝な表情を浮かべる。あざとさ全快に見えるんだろうな、同性からするとあの上目遣いは。


「彼女はエリス、詳しくは後で話す」

「はっ?」

「クレアにも話さなきゃいけないから、後でじっくりと話すから」

 この場でエリスの事を話すと長くなりそうだし、ややこしい。それに今日は魔法も使った。早く腹を満たしたい。


「それでは僭越ながら…」

 身内とは言え、今や人気店!ロンを走らせて予約を取っておいた俺達は、奥のテーブルで歓迎の宴を、リーチさんの乾杯の音頭で始めた。

 その席でプランを説明する。

「なるほど、沼を埋めて土を踏み固める為に祭りをする訳じゃな」

「ショーとしてゴーレムにダンスさせたり、魔物とガチンコ勝負させる」

 娯楽が殆ど無さそうだし、きっと盛り上がる!


「そのゴーレムに岩山から岩のまま持って来て欲しいんじゃ。カットをこっちでやれば端材も他で使えるじゃろう」

 確かに。採石場でカットして四角くした石材をゴーレムが背負ったり抱えたりして運ぶよりも、岩のままで大玉転がしみたいに運んだ方が効率が良さそうだし、カットして持って来ると途中で角が掛けるリスクも有る。

 それにしても宴席だと言うのに仕事の話とは、このトニーも職人気質か。


「はふぅ!」

 トニーが工事の進め方を話す一方で、他の連中はハンバーグに舌鼓を打つ。

 目を丸くして驚く者、感悦の声を上げる者、思わず立ち上がりグルグルと歩き回る者、感動の表し方は様々だ。

 特に3人居る奥さん連中は、それぞれ俺の手を両手で握り、目に涙を浮かべて頻りに感謝して来る。

「こんなに美味しいお料理は生まれて初めてです。ありがとうございます」

 あんな岩山で今まで苦労したのだろう、思わず貰い泣きしそうになった。


 そろそろお開きという時にクレアと、彼女に読み書きを習っている娘達が店内に入って来た。

「エイジさん、その方々は?」

 案の定クレアが姉のクロエ同様、怪訝な表情を見せる。

「ひょんな事から出会って意気投合したんだ。彼等は第二次産業のスペシャリスト集団と呼ぶに相応しい奴らで、新しい工事を手伝ってもらおうと思っている」

「第二次産業って何ですか?」

 分からない単語が出て来てクレアは更に怪訝な表情になる。

「すまん。俺の国の言葉なんだ」


 製造業や工事等が第二次産業。ちなみに第一次産業は農林水産業と鉱業。第三次産業は小売業やサービス業となる。

 つまり材料が一次、製造が二次、売るのが三次。そう考えると俺は全部に手を出そうとしている訳だな。

 他業種に手を広げて自滅した企業を幾つも知っている。気を付けなければ!


「エイジさん、そちらの女性もスペシャリスト集団の一員でしょうか?」

 クレアが低い声で尋ねたのは、宴の最初から最後まで俺の横にピッタリと居るエリスの事なのは分かっている。


「皆様、初めまして。エリスと申します。よろしくお願いします」

 パチパチと疎らな拍手が起こる。何か空気がギスギスしている事は酩酊状態の俺でも分かる。

「エイジ様、私はあまり歓迎されていない様ですが」

 さもありなん! 

 甘ったるい声を出すエリスは同性から嫌われるタイプであることは間違いない。仕草一つを取っても不快にさせる何かが有るのだろう。


「エリス、いい加減にしなさい!」

 いきなりエリスを叱り付ける女性の声が飛ぶ。

「おばさん」

 先程、ハンバーグで感動の涙を浮かべていた奥さん連中がエリスを囲む様に仁王立ちになる。

 3人のオバサマに睨まれると、流石のエリスも黙りこくる。

 

「皆さん、すみません。このエリスは恋に恋していまして。本当にすみません」

 全てを悟ったかの様な落ち着いた声に、クレア達も落ち着きを取り戻した様だ。

 特徴的な声だ。何か落ち着く感じがする。


「ところでエイジ様、拝見するにエイジ様を巡る女性陣の思惑が入り組んでいる様に思われますが」

「いや、全員から拒否されている」

「それは違います。それは突然の事に対応出来なかったからでは?」

「えっ?分かるの?」

 確かにあの時、ロンに突然言われて焦っていた感じもした。一目見ただけな筈なのに、言い当てられている!恐るべしオバサマ!


「ご存知の通りドワーフは職人です」

「では、貴女も何かの職人?」

 あまり職人には見えないが、ただの奥さん連中ではなかったって事か。

「ええ、差し出がましいかと思いますが、よろしければエイジ様の女性関係の整理をお手伝いさせて頂けないでしょうか?」

「貴女は一体?」

「スーと申します。そして人はこう呼びます」

 スーは改めて俺に向き合うと、一つ間を取ってから続けた。

「恋愛職人(マイスター)!」


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