今度こそ 振られる訳には いきません
総勢12名のエセドワーフ達を連れてアベニールの街に戻る。
切り出した石材を背負って運ぶゴーレムも一緒なので、そのまま建設予定地である沼の跡地に向かうつもりだ。
「ゴーレムをこんな輸送手段として使えるなんて、本当に凄い魔道士じゃ!」
トニー達は移動手段の為に作った大型ゴーレムに乗っているが、彼の視線は特大ゴーレムが石材を運ぶ様に釘付けだ。
ちなみにエリスは俺の馬に乗って、さっきから俺にしがみ付き、柔らかい所を押し付けて矢鱈と挑発して来やがる!油断すると本当にその気になりそうだ!
「エイジ様は馬を御する事もお上手なのですね」
「そうか」
女性への返事としては素っ気ないが、この降って湧いた様な状況に戸惑っている。
この世界に来た当初、思えばソフィとも突然婚約者になった。
そしてソフィは俺に惚れている!と思い込んでいたが結果として振られた。
アベニールの街でもクロエやクレアとは飽くまでも仕事の付き合いだ。よくよく考えると艶っぽい事は何一つ無い!
勝手にいい雰囲気だと思っていたが、そう思っていたのは俺だけだった。
兎に角、もう2度と失恋はしない様にしなければ!
だが何故か街に近付くにつれ、何とも言えない背徳感を感じている。何でだ?
「いいか、まだお互いの事を何も分かっていないんだから、嫁とかそう言う話は一旦落ち着こう」
「ええ、早いか遅いかの違いだけですから、構いません」
上目遣いからの、目を合わせての微笑みでエリスが答えた。
この笑顔で思わずブレーキから足を離したりはしない。
急いては事を仕損じる!
ここで焦って、また振られてたまるか!
此処はじっくりと。中盤省略のサッカーみたいな事はせずに、完璧に勝つ!
「余裕だな」
「私とエイジ様が結ばれる事は分かっていました。風の御告げが有りましたので」
「御告げ?何だそれ?」
「私だけに聞こえる風の御告げです。今日出会う殿方と結ばれると御告げが有りました。そしてこの御告げは外れた事がございません」
まるで本物のエルフの様だな。風の御告げは絶対って事か。
「ちなみに今迄にどんな事が当たった?」
「はい、もうすぐ雨が降る!ですね」
天気予報か!それに空を見れば誰でも分かる様な気が。
そんなこんなで街に到着。
現場に向かうとそこには、リーチさんと数人の作業員で計測をしていた。これをしないと図面に起こせない。
「リーチさん!」
「ああ、エイジさん。材料の調達ですか?」
「ええ、揃えられる物は早めに揃えようと思いまして」
「そちらの方々は?」
リーチさんの視線はトニー達、エセドワーフに向けられている。特にトニーを凝視している。
エセドワーフをリーチさんに紹介してみた。
「トニー・ヒューズじゃ」
トニーがリーチさんに挨拶するが、いい加減にそのドワーフ口調は何とかならんのか。
「トニー・ヒューズ?」
その名前を聞いてから一段とリーチさんは探る様にトニーに視線を送る。
「あっ!」
何かを思い出したのか、トニーさんは嬉しそうな声を短く上げ、手を1つ叩いた!
「トニー・ヒューズさん!あの、鬼才と言われた建築家のトニー・ヒューズさんですね?」
トニーが建築家?しかも鬼才と呼ばれた建築家?
「昔の話じゃ」
当のトニーは特に照れる訳でもなく淡々とした対応だ。
「私は修業時代に数回だけお目に掛かった事が有りました。その後、忽然と姿を消したと当時の王都では大騒ぎになりましたよ!」
「すまんのう。ワシはお前さんの事は覚えてはおらんのじゃ」
「いえいえ、私などは貴方の前ではその他大勢でしたので、お気になさらずに」
そんなに凄い建築家なのか?
「エイジさん、この方は建築界の風雲児でした。トニーさんをお招き出来たのなら、この建物は成功したも同然です!」
リーチさんがそこまで言うなんて、そんなに凄いのか?このエセドワーフが!




